イスラエルでは、ガザの問題が発生する前に、民主主義の根本である三権分立を揺るがす事態になっていた。
イスラエルでは、その法律上、政府と国会が決めたことでも最高裁が覆すことがありうる。このため、ネタニヤフ首相は何度も煮え湯を飲まされてきた。
また、政府が決める人事についても司法はノーを突きつける権利を有することも問題とされた。いわば、司法が、民主主義で選ばれている行政の上を行くような形だともいえるわけである。
これは特に、今、汚職問題で裁判に立っているネタニヤフ首相には、重要な問題である。
このため、ネタニヤフ首相は、司法制度改革案を出し、司法を担う最高裁と、行政が対立する形となっていた。全体像として、最高裁は左派リベラルが仕切っているのに対し、政府は右派保守派という図式であった。
こうした中、2023年10月16日に、前の最高裁番長であるエステル・ハユート氏(写真)が定年を迎えて、辞任となった。
最高裁が出した次の候補は、やはり、リベラルのアイザック・アミット氏であった。
しかし、ネタニヤフ首相のリクードに所属する右派レビン法相(法務委員長)は、最高裁に保守派の裁判長を任命したいと考え、裁判官選任委員会での投票を何度もボイコットし、最高裁番長選出を、17か月間ずっと、延期し続けた。
このため、最高裁に裁判長がいない状態が1年以上続いきたのであった。
この間、右翼支持者たちは、アミット氏に対し、「あなたは国民に選ばれたのではない」と訴えるデモを繰り返し行っていた。
しかし、高等法院の3人の判事が、法務委員会の裁量権は、法務大臣にはないという判決を下し、今年1月26日に再度投票を行うようにと命じた。
結果、司法委員会で選挙が行われ、委員長であるレビン法相はボイコットする中で、アミット氏の最高裁判官に選出が決まったのであった。
ヘルツォグ大統領は、民主主義国家では、政府のある部分が、別の部分をボイコットすることはあり得ないと述べ、政府の動きを批判。アミット氏を最高裁判長として認める意向を表明した。
こうして、2月13日(木)、大統領官邸で、アイザック・アミット氏の最高裁裁判長の就任式が行われた。就任式には、大変異例ながら、ネタニヤフ首相とレビン法相は欠席していた。
今後、具体的にどうなるのかは不明だが、司法が行政の支配を受けることはないということであり、ネタニヤフ首相の行政に対する監視の目は、これからも続くということである。