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9月17日に行われたやり直し総選挙。25日に、中央選挙委員会から、大統領に正式に届けられた最終結果によると、リクード32議席。ブルーアンドホワイト(青白)党33議席と、わずか1議席差の互角であった。
リブリン大統領が、議席を獲得した各党の投手と個別に面談した結果、右派リクード(ネタニヤフ首相)が、連立政権を立ち上げる場合、その政権に参加すると意思表示したのは、右派政党とユダヤ教政党で、議席の合計は55となり、過半数61に届くことができなかった。
www.timesofisrael.com/checked-and-double-checked-elections-committee-publishes-final-results/
左派ブルーアンドホワイト(ガンツ党首)を中心とする左派側は、13議席を持つアラブ統一政党の一部が、ガンツ氏を支持する姿勢を提示しながらも、連立には加わらないことを決めたため、議席の合計は54。ほとんど互角で、こちらも過半数に届くことはなかった。
この結果は十分予想されていたため、リブリン大統領は、正式な選挙結果が出る前の23日、ネタニヤフ首相とガンツ党首の2人を同時に召喚し、「国のため、リクード(右派)とブルーアンドホワイト(中道左派)が、どうにかして互いに妥協し、一刻も早く統一政権を立ち上げてもらいたい。」との考えを伝えた。
www.timesofisrael.com/blue-and-white-said-to-prefer-likud-get-first-crack-at-building-coalition/
イスラエルでは、80年代にも、右派リクードのイツハク・シャミール首相と、左派労働党シモン・ペレス首相が交代で首相を務めたという前例がある。リブリン大統領は、ネタニヤフ首相が公判(来週汚職疑惑の公判予定)で不在になっている間は、ガンツ氏が首相を務めるほか、その後も2人が交代で首相を務めるという妥協案を示唆した。
しかし、この時のネタニヤフ首相とガンツ氏の会談はわずか30分で終了。結果を出すことはできなかった。ガンツ氏が、汚職疑惑で公判に立たされるような”犯罪者”と手を組むことはできないとして、あくまでもネタニヤフ首相との統一政権を拒否したからである。この点はガンツ氏がどうしても譲れない選挙公約であった。
www.jpost.com/Israel-Elections/Rivlin-meeting-with-Netanyahu-Gantz-602868
一方で、もし今リクードが、ネタニヤフ首相という党首の首を挿げ替えて、別の人物を党首として立てるなら、ガンツ氏、また今回、この人が入ればネタニヤフ首相が首相にい続けられたはずとされるキング・メーカーのイスラエル我が家党のリーバーマン氏も、リクードとの連立に協力し、すべて一件落着になるとも考えられる。
しかし、リクードが、ネタニヤフ首相を捨て去ることはない。イスラエルの政治は、どうにも動かない膠着状態になっている。
リブリン大統領は25日、やむなく、ネタニヤフ首相一人に連立立ち上げを指名。しかし、55議席から増えるみこみはないため、リブリン大統領は、あくまでも、(ブルーアンドホワイトとの)統一政権を立ち上げを希望するとし、そのために、わずかでもその可能性の高い方を指名したと述べた。
<先手うつ?ネタニヤフ首相>
リブリン大統領の指名から、他党との交渉により、政権を立ち上げまでの期限は28日間。延長は14日までである。27日、リクードはブルーアンドホワイトとの交渉を開始した。
交渉に先立ち、ネタニヤフ首相が知恵を働かせたとみられるが、ネタニヤフ首相は、今ある55議席、右派とユダヤ教政党を、右派セクターとして一つにまとめると発表。これにより、ブルーアンドホワイト、またリーバーマン氏が要望するユダヤ教政党抜きの政権はありえない、また交渉の対象にはならないと釘をさした形である。
こうなると、ネタニヤフ首相の政権残留、ならびにユダヤ教政党の政権残留と、ブルーアンドホワイトが、排斥することを公約に掲げてきたことすべてにおいて、妥協しなければならず、これはそうやすやすと受け入れられることではない。
また、連立交渉において問題なるのは、閣僚のポストである。右派セクターが55議席でひとまとめになったということは、どの党がどの閣僚のポジションを振り分けられるのかが見えなくなったということである。
可能性としての話、たとえネタニヤフ首相が首相でもリクードから出る閣僚の数は意外に少なく、もしかしたら、妥協して連立に加わるブルーアンドホワイトの方が多かったというようなこともありえないわけではない。そうなると、ガンツ氏が、ネタニヤフ首相の下にはいるのはなんとも不条理な感じになる。
リクードとブルーアンドホワイトは、29日、日曜朝、イスラエルの新年祭入りの直前に、もう一度交渉を行うことになっている。しかし、どうみてもブルーアンドホワイトがここまでの妥協をするとは思えない。
ネタニヤフ首相は、無駄な交渉に時間を使うことを避け、「ガンツ氏が妥協しなかった」と非難しつつ、この役目を、29日にも早々に降りてしまう可能性も指摘されている。その場合、リブリン大統領は、次にガンツ氏を指名することになるが、ガンツ氏が連立を立ち上げる可能性はネタニヤフ首相より低く、時間の無駄が明白となる。
すると、前回と同様、ネタニヤフ首相が、早々に再選挙を宣言してしまうかもしれない。実際、ネタニヤフ首相が、大統領からの指名を受けると、メディアはこぞって、「3回目総選挙の可能性高まる」と報じた。
しかし、総選挙にかかる費用は、財務省によると、4億7500万シェケル(約152億円)にのぼる。政府が不在では、議会も休会のままで、予算もストップしてしまう。なんとしても再選挙は避けなければならない。
ベテラン記者ギル・ホフマン氏によると、イスラエルの法律では、もしネタニヤフ首相、ガンツ氏のどちらもが連立たちあげに失敗した場合、国会議長(ユリ・エデルスタイン氏)の元で、61議席の連立に成功するなら誰でもよいといった形になるというが、これはきわめてありえない話・・・。
www.jpost.com/Israel-Elections/Rivlin-meeting-with-Netanyahu-Gantz-602868
しかし、この流れの方が、ネタニヤフ首相自身には有利であるとの分析もある。
ネタニヤフ首相は、来週にも3件の汚職疑惑で、公の裁判に召喚されることになっているが、イスラエルの法律によると、現職首相であれば、100日までは職場を離れてもよいとなっている。また火急な事態ともなれば、裁判を早く収めなければならず、ネタニヤフ首相に有利に働く可能性もありうる。
総じて、流れはネタニヤフ首相・・・という感じだろうか。
<今恐れなければならない敵は誰ぞ!?:ユバル・ステイニッツ・エネルギー担当相 >
この解決不能の事態を見て、リクードメンバーで、エネルギー担当相のユバル・ステイニッツ氏が、今、ガザ情勢、イラン情勢は、かなり危機的な様相になっている。今最も恐れなければならない敵はイランであると訴え、早急に統一政権をたちあげなければならないと語った。やはり流れは右派セクターということになるだろうか・・・。
www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5598426,00.html
<イスラエル・カッツ外相代理で国連総会演説:空席目立つ>
ニューヨークでは、24日から国連総会が行なわれている。これまで毎年、国連総会で、熱弁してきたネタニヤフ首相だが、内政混乱を受けて、今年は渡航をキャンセルし、代理で、イスラエル・カッツ外相が演説を行った。
カッツ氏は、ホロコーストサバイバーの子供として、国連総会の場で、ユダヤ人の国イスラエルを代表していることへの感動をまず述べた。その国連が、71年前に、イスラエルをユダヤ人の国と認めたことを強調した。
しかし、アメリカが、エルサレムをイスラエルの首都と認め、大使館をエルサレムへ移動させたことをあげ、他国も続くべきと述べたり、国際社会はアメリカにならって、イランに厳しく対処すべきであると語りはじめると、会場から人々が去り、かなりスカスカ状態での演説となった。
www.jpost.com/Israel-News/Filling-in-for-PM-at-UN-Katz-slams-Iran-Erdogan-603092
<石のひとりごと>
ネタニヤフ首相は実に海千山千で、政治家としての狡猾さは超一流である。軍上がりで、汚い政治の世界に初デビューのガンツ氏には手ごわすぎるだろう。
イスラエルの首相という、体力気力、また何にもひるまなず、あきらめず、他者の評価など全く気にしないという、超あつい面の皮と内面の強さを必要とするポジション、要するになにがなんでもイスラエルという国を守りきるという執念を持ち合わせた人物は、他にはなかなかみつからない・・というところだろうか。
国民はというと、ネタニヤフ首相を支持する人は決して少なくないが、13年は長すぎ。そろそろ変わってほしい、汚職つきの首相はうんざりと感じている人もまた決して少なくはない。こちらも互角という印象を受ける。しかし、実際のところ、日々の生活もあるし、見守りつつも、まあどっちかなるようになるという感じである。
話は変わるが、これでトランプ大統領の世紀の中東和平案も当分お預けになった。それもまたみこころだろうか・・・