西岸地区のハマス一掃へ 2014.6.19

12日夜に、ヘブロン近郊の入植地で、3人の少年が誘拐されてから早くも一週間となった。少年たちが見つかる気配はまだない。しかし、少年たちの家族にも、イスラエルの治安部隊にもあきらめムードはない。

とにかく隅々まで探せとの指令を受けて、兵士たちは10人づつぐらいのチームを組んで、パレスチナ人宅一軒一軒をまわり、家の隅々の他、あらゆる洞窟や不振な建物を調べ上げる作業を継続して行っている。

捜索に派遣された部隊は、イスラエル軍報道官によると、9個連隊で、当初の2倍が投入されているという(数千人規模)。これに警察や国境警備隊、諜報部員も動いている。

文字通り、パレスチナ人たちが手も足も出ない圧倒的な軍事力での作業が、連日連夜行われているということである。

<ハマス一掃作戦:釈放したテロリストも再逮捕>

治安部隊が行っているのは、少年たちの捜索だけではない。ネタニヤフ首相が、犯行はハマスであると断定して以来、治安部隊は、次々にハマスの幹部やメンバーを逮捕している。

ヘブロンだけでなく、ラマラ、ナブルスでも一掃作戦が行われた。これまでに、大物の幹部も含め、240人が逮捕された。このほとんどがハマスである。

昨夜は、ギラッド・シャリート兵士と交換に釈放されたパレスチナ人テロリスト(パレスチナ人の目には勇士)1027人のうち、51人が再逮捕され、刑務所に戻された。

また、ハマスが関与していると見られる800カ所、11の施設が、しらみつぶしの捜査を受けた。ナブルスでは、ライフルや手榴弾などの武器が多数押収されている。

誘拐事件を背景に、イスラエルはハマスを一掃する勢いである。

ガザでは、あまりのイスラエルの勢いに、西岸地区の次には、イスラエル軍がガザ地区総攻撃に入るのではないかという恐れが広がっているという。

*ギラッド・シャリート兵士

2006年に19才でガザのハマスに拉致され、5年もたってから、ネタニヤフ首相が、パレスチナ人テロリスト1027人の釈放という条件をのんで交渉が成立。シャリート兵士は、生きてイスラエルに帰還できた。

なお、これは珍しい経過で、他の誘拐拉致事件では、遺体となって戻って来たケースも少なくない。

<なぜここまで大規模にハマスを一掃するのか>

ネタニヤフ首相によると、2日に、ハマスとファタハが、パレスチナ暫定統一政府を立ち上げてから、西岸地区のハマスが急に目立ち始め、数も急増していたという。

ネタニヤフ首相は、「ハマスがちょうどガザを占拠したように、西岸地区を占拠する可能性が急速に高まっていたと説明している。

別の解説では、現在イラクのISIS(スンニ派過激派)が、急速にイラクを制覇しつつあることを受けて、イスラエルでは、ハマス(スンニ派)の台頭に対する危機感が急速に高まったという。

<アッバス議長の意外な発言:パレスチナの統一政府がすでに分裂のきざし!?>

パレスチナ自治政府(ファタハ)のアッバス議長は、イスラム関係の会議において、パレスチナ自治政府はイスラエルの捜索に協力していると認めた。

また、「誘拐事件をおこした者はパレスチナ人を破壊しようとしている。少年たちを即刻親元へ返すべきだ。アメリカは、3人のうち1人はアメリカ人だと言った。しかし、イスラエル人かアメリカ人かは関係ない。彼らは我々と同じ人間だ。」とかなり強く、感情的に誘惑を非難した。(この様子は、イスラエルのテレビで放送された)

ハマスは、「それはシオニストの言う事だ。」と即刻、アッバス議長を非難した。パレスチナ統一暫定政府は、早くも分裂のきざしがあるということである。

アッバス議長の発言について、イスラエルのリブニ法務相(元交渉担当官)は、評価すべきだと語った。またアメリカのケリー国務長官も評価すると言っている。

しかし、ネタニヤフ首相はまだ懐疑的。「言葉ではなく、これから何を実行するかが問題だ。」とコメントした。

<西岸地区パレスチナ人の反応:おおむね協力的>

西岸地区のパレスチナ人たちは、イスラエル軍の捜索を妨害したり、反抗することなく、どちらかといえば、協力的だという。そのため、これほどの大軍が入っているにもかかわらず、逮捕前にハマスが反発した場合に衝突する以外での、紛争は報告されていない。

住民たちは、イスラエルの目的がハマスだけであることを知っている。ハマスの一掃は、パレスチナ人にとっても益になるからである。

今日、ヘブロンを訪問したが、午後4時半ごろ、マクペラの洞窟周辺では、店もほとんどが閉鎖状態で、閑散として、人の姿もまばらだった。

<イスラエルのアラブ人が、誘拐を非難>

イスラエル北部に住むアラブ人の17才の少年が、顔をぼかした状態で、イスラエルの旗を持ち、「少年たちを解放するべきだ」と述べたビデオメッセージをFacebookにアップした。イスラエルのアラブ人の少年たちの間では、誘拐を非難する声が広がっているという。

しかし、この17才は、この直後に数えきれない電話を受け、裏切り者と非難され、死を警告される立場になった。警察が捜査を始めている。

<ガザ地区からはミサイル:市街地に着弾>

ガザ地区からは、連日ロケット弾や、ミサイルがイスラエルにむけて発射されている。ほとんどが空き地に落ちるか、ガザ地区内部に落下しているが、その他は、迎撃ミサイルがカバーしていた。

18日夜、2発のうち、一発が市街地に着弾した。負傷者はなく、軽い物損だったという。イスラエル空軍が直ちにガザを空爆した。

<近隣諸国・国際社会の沈黙>

今週、アル・シシ大統領が就任したばかりのエジプトは、イスラエルに自制をもとめたものの、実質黙認状態。エジプトもムスリム同胞団を一掃している最中である。ヨルダンも同様で、自制を求めただけで、黙認している。

国際社会は、国連初め、次々に少年誘拐に非難声明を出した後、ほとんどニュースから消えている。イラク、ウクライナ問題で、手一杯か。

<今後どうなるのか:10日後からラマダン>

ヤアロン国防相は、いくら時間がかかっても3人の救出はあきらめないと言っている。今回、イスラエル軍は、3人を救出した後も、ハマスに再起不能なまでにダメージをを与えるまでは、手を引く事はなさそうである。

しかし、そうなると、ガザ地区の困窮がさらにすすむ。ガザ地区にいるハマスはすでに、長い間、給料をもらっていない。経済的な困窮から、ガザ地区で、アラブの春のようなデモが発生するのではないかと懸念されている。

また、10日後には、イスラム今日のラマダンが始まる。それまでに早急に3人を救出し、作戦を終了させる必要があると言われている。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。

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