聖墳墓教会のスト 2018.3.2

エルサレムの聖墳墓教会は、イエスが十字架にかかり、復活したゴルゴダの丘に建てられたとされる教会である。中は、ギリシャ正教を筆頭に、カトリック、シリア正教、アルメニア正教、コプト教、エチオピア正教がそれぞれの持ち場を管理し、様々なスタイルで、祈りや礼拝が行われている。

入場料はなく、世界各国から巡礼者がやってくる、イスラエル最大の観光地である。その聖墳墓教会が、エルサレム市が新たに課税する対象に入る見込みとなったことに反発し、その扉を閉めてストを行った。

ストは、まる3日間に及び、一生に一度の巡礼に来た世界中のキリスト教徒に、深い落胆を与えることになった。この教会に立ち寄ることを最大の目的にしていた巡礼者の中には、泣き出したり、閉まっている扉の前で祈ったりする人もあった。

やがてヨーロッパ諸国からも懸念する声がではじめたため、ネタニヤフ首相、バルカット・エルサレム市長と、教会代表者が会談を行った。結果、課税については、とりあえず保留とし、双方で交渉を行っていくことで合意。3日目の28日、ようやく教会の扉が開かれることとなった。

エルサレム市の財政はひっぱくしている。税金を払わず、社会保障を必要とする超正統派ユダヤ教徒と、仕事につきにくいアラブ系住民が多いからである。国の予算を得るため、市がストを行い、ゴミ収集が滞るなどの事態にもなったこともある。

こうした中、税金をとれるところからはとるべきであると、バルカット市長は考えたのだろう。

教会は、日本で言えば、宗教法人のようなもので、原則的に非課税である。しかし、教会の中には敷地内にホテルや、カフェをおいて利益をあげているところもある。バルカット市長は、そういうところに課税しようとしたのである。

聖墳墓教会については、ホテルやレストランはないが、僧侶たちの居住区があり、そこが課税対象になるらしい。

これを受けて、教会側は、これは、「現状維持」の原則に違反するとか、イスラエルはクリスチャンを迫害するのかと、大きな論争になった。エルサレム市は、祈りや宗教的なことに使う建物は非課税のままだと強調している。

今後、交渉でどのような結果になるかが注目される。

www.jpost.com/Israel-News/Church-of-Holy-Sepulchre-to-reopen-after-decision-to-halt-tax-collection-543793

余談になるが、聖墳墓教会を聖地と考えているのは、正教系キリスト教とカトリックである。プロテスタントには、特定の場所にこだわる聖地という概念はあまりなく、今回の問題も直接関わっている様子はない。

<石のひとりごと>

教会の扉を税金を払いたくないといって閉めてしまうというのは、キリストの教えに即したものではない。キリストは、税金について、「払うべきものは払いなさい。」と教えた。

その上で、弟子たちに払う資金がないことを知っていたキリストは、払うべき資金をも備えてくださったと新約聖書に書いてある。教会は、むしろたくさん税金を納めて、エルサレム市の祝福になってほしいと思うところである。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。