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ワクチン接種の現状
世界各国でワクチン接種が本格的に始まっている。しかし、生産が追いつかず、ワクチンの争奪戦になっている。世界のワクチン接種の状況は以下の通り。
*ワクチン接種回数(多い順)(過去1週間24時間平均死者・累計死者数)
①アメリカ:4475万回(2779人・48万人)、②中国:4052万回(0人・4636人)、③イギリス:1365万回(789人・11万5000人)、④インド:701万回(94人・15万5000人)、⑤イスラエル:6012万回(44人・5283人)、⑦UAE:4684万回(11人・974人)、⑧ブラジル:4120万回(1041人・23万6000人) ⑧ドイツ:3669万回(557人・6万4500人)、⑨トルコ:2795万回(106人・2万7000人)
こうした中、中国とロシアのワクチン外交が目立ちはじめている。特に中国は、発祥地としての汚名注ぎもこめてか、貧しくてワクチンを買えないような後進国、中南米、アジア、アフリカや中東へのワクチン提供を進めて、世界に貢献する様相を見せている。
問題は、こうした中国のワクチン支援が、全くの良心からではないという点。今恩を売っておいて、後で、その国が、中国のいいなりにならざるをえなくなるという形で影響力を拡大しているということである。
これは中国が提唱する現在のシルクロード、一帯一路計画と同様である。計画のルートを通る国々の港などを中国が費用を融資してインフラ整備を行い、後に中国に返金できなくなると、港の主権を中国にとられているのである。
また、中国製ワクチンと共に、ロシア製ワクチンも拡大しており、ワクチン外交が、東西の緊張につながっていると指摘されている。
アフリカ、アジアに進出する中国製ワクチン
新型コロナの発祥地である中国は、発症後強力な封鎖措置をとり、感染をいち早く制御した。このため、世界諸国が、マスク(マスク外交)や医療物資、人工呼吸器などの獲得に奔走していたころには、すでに、これらを供給する立場に立っていた。
ワクチンについても同様である。習近平国家主席は、中国は、ワクチンを公共財にするとして、途上国に優先的にワクチンを提供すると宣言。1月中にも王毅外相が、アフリカ5カ国を訪問。シノファームのワクチン供給を約束した。
さらに2月、インドネシア、タイ、カンボジア、ラオス、ミャンマーなど東南アジア4カ国を訪問。それぞれの国と供給の約束をしている。ミャンマーについては、30万人分を約束したが、その後、軍によるクーデターが発生している。軍の背後には中国の影響力があると言われており、今週、バイデン大統領が、軍幹部に制裁を発表した。今後の中国の出方が注目される。
*欧米型とタイプが違う中国ワクチン
中国のワクチンは、ファイザーやアストラゼネカのmRNAの原理ではなく、弱毒化したコロナを注入して免疫を作る従来型のワクチンである。その成功率は、50−90%と、欧米型より低い。また、情報不足が問題で、十分に治験したかなどの情報もなく、怪しい部分も多々残している。欧米の専門家からは、効果を疑問視する声も出ている。
しかし、2−8度で保存可能で、搬送もしやすいことや、重症化を防ぐ効果はある。接種しないよりは、した方が良いので、購入する国はあるということである。
この点、ロシアのワクチンは、成功率92%との高評価を受けたことから、すでに40カ国と契約をすませて、こちらもワクチン外交を展開している。
なお、アルジャジーラによると、ファイザーは、一回20−30ドル(イスラエルは47ドル払った)、アストラゼネカは4ドル、ロシア製は10ドル、中国製は不明。
中東にも進出する中国製ワクチン:ロシア製と競争
中東では、欧米系ワクチンと並行して、中国とロシアのワクチンが出回っている。カタール、オマーン、クエートはファイザーだが、イラクはファイザーとアストラゼネカ。UAE、バーレーン、エジプト、トルコは、ファイザーだけでなく、中国とロシアのワクチンとも契約した。北アフリカや中東を指すMENA諸国に、無料での提供をしたとの情報もある。
アメリカ、イスラエルと敵対関係にあるイランとパレスチナ自治政府は、中国とロシアからのワクチンを契約している。中国は近年、特に経済制裁下で苦しんでいるイランを支援してきた。イランだけでなく、イランが力を入れるシリアの再建にも協力し、中東で徐々に頭角をあらわしはじめている。
www.aljazeera.com/news/2021/2/9/russia-china-seek-to-expand-mena-influence-through-vaccines
*COVAX:WHOの後進国ワクチン供給プログラム
COVAXは、国連保健機構などが、先進国の支援を受けて、貧困国など、ワクチンを買えない国々にワクチンを提供するための組織である。日本を含む世界156カ国が参加し、2021年末までに20億回分のワクチン確保を目指している。
中東では、パレスチナ自治政府、また、内戦に苦しむイエメンとシリア、アフガニスタン、イラク、イランも、COVAXからのワクチン供給を受けることになっている。今の所、COVAXのワクチンは、欧米型なので、欧米諸国自身にも供給不足がある中、供給が間に合っていない。
また、ファイザーのワクチンは、高度な冷蔵庫を必要とすることや、高価であることから、今後、中国製やロシア製になっていく可能性がある。
EUも中国ワクチンを導入する?:中国と中東欧17カ国首脳会議
すでにチェコなど東欧系の国が中国製ワクチンを購入しているが、10日、中国の習近平国家主席は、ハンガリーやポーランドなど、中東欧17カ国の首脳とオンラインでの首脳会議を開催し、必要であれば、ワクチンを提供するよう伝えた。
www3.nhk.or.jp/news/html/20210210/k10012858701000.html
西欧についても、ワクチンの生産がニーズに追いついていないことから、ドイツが、ファイザーやモデルナなど欧米型のワクチン納入を待ちきれず、中国製ワクチンを導入する可能性を示唆している。中国が、南米やヨーロッパにまで影響力を伸ばしていく可能性になりうると懸念されている。
www.inss.org.il/publication/china-vaccines/
*日本は?
日本では、昨日、ファイザーのワクチン第一便40万回分が届いた。しかし、この先の供給がどうなるかはどうも明確でない。ファイザーとは、7200万人分を年内に供給で契約はできていると政府は言っているが、実際の入荷となると、確かな見通しはたっていないようである。
こうした中、日本国内からは、「日本は感染が少ない方なので多いところを先に・・・」などと、いかにも日本らしい譲り合い精神の声も出ている。確かに、日本は、世界諸国で昨年死者数が増えたのとは逆に、昨年1年の死者数がなんと1万5000人も減っていた。マスクの着用や手洗いにより、インフルエンザなど他の原因での肺炎始め、循環器系疾患や、交通事故による死者が減っていたとのことである。
しかし、日本でもコロナによる死者数は、1日50−90人、死者累計は6867人で、中国やイスラエルより多い。今後、ワクチンを済ませているかどうかが、経済活動再開にも大きく関わってくる。今のままでは海外に出て行くこともままならない。ワクチンは、早く確保しておいた方が良いだろう。
となると、日本もドイツのように、不本意ながら最悪、中国製ワクチンを導入しなければならないということありうる・・・??もしくは、サウジアラビアのように、自前のワクチン製造も目指してもらいたいところである。