泥沼化するガザ国境情勢 2018.6.12

ガザとイスラエルとの国境では、3月末以来、ハマスによる「帰還への行進」とするデモが毎週金曜に行われ、今も金曜になると、イスラエル軍との衝突が続いている。

これまでで最大の衝突はアメリカ大使館がエルサレムに移動した5月14日で、4万人が参加し、この日だけで60人以上が死亡し、これまでの死者は計100人を超えた。しかし、その後、デモへの参加者は減少している。

<下火?に終わったクッズ・デー(6/8)とその背景>

6月8日(金)は、5日火曜から延期されたクッズ・デーとも言われるナクサの日(六日戦争でパレスチナ人がエルサレムを失った日)で、ラマダン最終金曜であったことから、これまで以上の衝突が懸念された。

イスラエル軍は、ガザ市民に対し、ハマスに協力しないよう警告するビラをまき、ガザ突入を想定した軍事訓練を実施。当日は、ミサイル攻撃も想定して準備し、国境では、20メートルおきに射撃種を配置して、ガザの群衆が、イスラエル領内になだれこんでくるにに備えた。

ところが8日、デモに集結したのは、予想をはるかに下回る1万人程度だった。また、子供や女性の姿はなかったという。数人が国境を超えてこようとしたため、イスラエル軍の射撃手が足を狙ったが、タイヤを燃やすなどして発生した煙で視界が悪く、最終的に4人が死亡したと報じられている。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5281945,00.html

このデモでは、ホロコーストを連想させるしま模様の囚人服を着て、デモに参加するとの前情報があった。しかし、さすがにそれは行われなかったのか、その報道はない。

www.jpost.com/Arab-Israeli-Conflict/Report-Gazans-to-dress-like-concentration-camp-prisoners-in-protest-559441

イスラエル軍によると、今回は、参加者に士気が感じられず、義務でやっている感じもあったという。しかし、それが、ハマスの弱体化を意味するわけではないと専門家らは語る。

先週、イスラエル領内へ続く海底トンネルが発見され、空爆で破壊された。いったいどこにそんなエネルギーと資金があるのやら・・・とその執念に驚かされる。

www.timesofisrael.com/idf-says-it-destroyed-hamas-undersea-tunnel-in-last-weeks-airstrikes/

ハマスの背後には、トルコ、カタールが資金源となっている。新しい情報によると、ヒズボラが、南レバノンにハマスとともにミサイル工場や訓練キャンプを設立させる動きもある。

www.timesofisrael.com/israel-says-hamas-working-with-hezbollah-to-train-thousands-in-lebanon/

なお、6/8(金)はラマダン最後の金曜であったが、エルサレムの神殿の丘での祈りも平和に終わった。

www.timesofisrael.com/ramadan-prayers-in-jerusalem-end-peacefully-amid-gaza-violence/

<凧による攻撃> https://www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5283556,00.html

以後、デモへの参加者は減っているが、先週からは、火や火炎瓶を装着した凧が600は飛来し、少なくとも200は落下して、イスラエル南部の畑4500エーカー(18キロ平方キロ)が消失。

一時はスデロットの町やその近郊のシャピーロ大学にも火災にみまわれる被害が出た。

凧は当初、足に火がついていたり、火炎瓶が付いていたりしていたが、最近のものは、落下した後、人が近づいてきた時に爆発する仕掛けがしてあるものもあるという。

イスラエルは、これに対し、凧専用のドローンを使って畑に落下前に上空で確保する作戦で対処している。

また、焼かれた畑の被害について、イスラエル政府は、パレスチナ自治政府に変わって徴収している貿易上の税金から差し引くと発表した。(被害額140万ドル(1億5000万円程度)

www.timesofisrael.com/17-fires-extinguished-near-gaza-after-incendiary-kite-attacks/

一方、イスラエル南部の市民たちは、「彼らは焼く。私たちは植える。」と称して、焼かれてもまた畑に植える作戦を打ち上げた。

また11日、スデロットでは、子供達に平和のメッセージをつけた凧あげ大会を行った。凧という本来、平和な子供たちの遊びの道具が、暴力の道具として使われたことへの対処という目的もあるという。

一方、ガザでは、毎年子供達が東日本大震災の被害者たちを励ますために凧あげ大会が行われてきた。ガザの子供たちは、今回、大人たちが、その凧によってイスラエルを攻撃したのを見てどう思っているのだろうかと思わされる。

<パレスチナ自治政府は国連総会へパレスチナ人の”保護”訴え>

ガザで100人以上が死亡したことを受けて、クウェートが国連安保理にイスラエル非難の採択を促したが、これはアメリカの拒否権発動で、実現しなかった。

続いてパレスチナ自治政府は、イスラエルが、悪意を持ってパレスチナ人を殺害しているとして、国連総会に、パレスチナ人の”保護”を訴えた。

www.timesofisrael.com/palestinians-turn-to-un-general-assembly-over-gaza-deaths/

しかし、今回の衝突は、ガザのハマスが、市民を駆り立て、暴力的に国境を越えてイスラエル領内へ入ろうとしたことが原因である。イスラエルは、市民にビラをまき、ハマスの指示に従って国境にこないようにと、十分に警告も行った。

このデモにおいて、死亡した1人、パレスチナ人看護師のラザン・アル・ナジャールさん(21)であった。国際社会はいっせいにイスラエルを非難したが、後にナザールさんが、発煙筒を投げていたこと、また人間の盾になることを覚悟していたことが明らかになった。

www.timesofisrael.com/idf-spokesperson-slain-gaza-medic-no-angel-of-mercy/

パレスチナ自治政府は、イスラエルからの”保護”を訴えているが、危険な敵対行為がなければ、攻撃されることもないのである。

*パレスチナ人によるテロで18歳少女重症

この記事を書いている最中に、イスラエル北部アフラ近郊のミグダル・ハエメックで、シュバ・マルカさん(18)がナイフで7回も刺されて重症となるテロが発生した。

テロリストは、西岸地区ジェニン在住のパレスチナ人ヌーラディン・シュナウィ。

www.israelnationalnews.com/News/News.aspx/247294

<ガザの人道支援について>

現在、ガザの住民の電気は1日4時間。人々はろうそくで生活し、下水も崩壊している。人間が生活できない場所になると言われてからすでに久しい。

ガザの金曜デモが下火になりつつあることと、ガザの生活状況がまさに崩壊寸前になっていることから、イスラエル政府は、日曜、ガザへの人道支援についての議論を行なった。アメとムチのアメ効果を狙うというところである。

ネタニヤフ首相、イスラエル軍のエイセンコット参謀総長は、今、人道支援をすることが沈静化につながると期待しているが、リーバーマン国防相これに反対意見を出した。結局、話はまとまらなかった。

リーバーマン国防相は、ガザが今、以前より困窮を極めたのは、先週、パレスチナ自治政府が、ラマダン中にもかかわらず、4月分のガザへの給料支払いを差し止めたからであると指摘する。

またハマスが、人道支援するべき資金をすべてトンネルに費やしていることが原因であるとして、ガザに人道支援を行ったとて、ハマスの性質が変わるはずもなく、それがアメ効果になることはありえないと主張している。

www.haaretz.com/israel-news/.premium-lieberman-calls-gaza-aid-delusion-but-he-s-intentionally-misleading-1.6159231

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。