水面下で進む?:ガザ・西岸地区・米中東和平政策 2018.8.6

<イスラエル・ガザの関係悪化>

ガザからの火炎凧や風船による攻撃は一時減少にあったが、また元にもどっている。火炎風船によるイスラエル南部農地での火災は、今週末だけで40箇所もあった。

www.timesofisrael.com/gaza-indendiary-balloons-spark-40-fires-in-southern-israel-over-weekend/

また火炎風船は、ベエルシェバで発見され、家屋の屋根にとまっているものも発見されたため、イスラエルは、いったん再開していたガス、燃料のガザへの搬入を再び停止した。前回が期限付きであったのに対し、今回は期限付きではない。

www.jpost.com/Arab-Israeli-Conflict/Israel-again-bans-gas-and-fuel-into-Gaza-563971

Yネットによると、ハマスは、凧・風船攻撃について、参加するのは14歳以下で、この攻撃は、住宅地からに限るとの指令を出したという。イスラエルの攻撃を受けにくくするためである。

毎週金曜の国境での「帰還への行進」デモも続いている。先週28日、国境をパトロールしていたイスラエル兵が撃たれて中東度の負傷を負った。これに対し、イスラエルが、ハマス7箇所を攻撃。ハマスのパレスチナ人3人が死亡した。

www.timesofisrael.com/soldiers-fired-upon-by-gazan-gunmen-2-palestinians-said-killed-in-idf-strikes/

今週3日(金)のデモでは、8000人が集まってイスラエル軍との衝突。パレスチナ人1人(25)が死亡した。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5322095,00.html

5日、イスラエルは、ガザとの国境に地上、地下に及ぶ防護壁をん建設中だが、ガザ北部、イスラエルと接する海上200メートル突出する海上防護壁が建設中である様子が公開された。

こうした中、エジプトの仲介で、イスラエルとハマスの和平交渉が水面下で動いているという。

1)ガザ・ハマスとイスラエルの停戦合意への動き

ガザでは先週、海外のハマス指導者アル・アロウリらが、エジプト経由で、ガザ入りした。エジプトの仲介で進められているハマスとイスラエルの停戦合意を協議するためである。

それによると、停戦への合意は3段階で、①1週間以内(来週金曜あたり?)に、火炎凧などの国境デモや、イスラエルへの侵入試みを停止する。その見返りとして、イスラエルのカレン・ショムロン検問所と、エジプトのラファ検問所を解放する。

②ガザへの補給が再開され、市民の生活が改善することを目標とする。③国連によるガザ内部の人道支援活動、となっている。

この交渉には、ガザへの復興支援金や、エジプトにガザ住民が使用する空港や港の建設の案なども含まれているとの情報もある。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5322095,00.htm

こうした動きについて、イスラエルからの正式な情報はなかったが、5日(日)、ネタニヤフ首相は閣議を開き、ハマスとの停戦合意に関する協議を行った。

イスラエル国内では、2014年の戦争で戦死したオロン・シャウルさんの家族らが、「ガザで人質となっているイスラエル人1人とイスラエル兵2人の遺体の返還が伴わない合意にはいっさい応じないでほしい。」と怒りの手紙をネタニヤフ首相に送付した。

www.israelnationalnews.com/News/News.aspx/249993

閣議の後、イスラエルは、兵士遺体を含む人質の返還がもりこまれない合意にはいっさい応じないとする方針を決めた。

*パレスチナ自治政府が交渉に警告

エジプトと、ハマス、イスラエルの間になんらかの合意が成立して困るのはパレスチナ自治政府である。

現在のガザ地区の苦境の大きな原因は、パレスチナ自治政府が、ハマスへの経済制裁を行ってきたことである。(最近、ガザへの送金を再開したとの情報もある)状態のまま、ハマスがイスラエルとの合意に至れば、パレスチナ自治政府の立場はなくなる。

また、トランプ大統領が、水面下で、独自の中東和平を進めている中で、ハマスがイスラエルとの合意に応じた場合、ガザと西岸地区が分断され、パレスチナ人としての大義や権利が、消滅してしまうのではないかとの懸念も表明している。

*兵士侮辱17歳少女釈放でアッバス議長が英雄として歓迎

西岸地区では、イスラエル兵に暴力を振るって侮辱し(兵士は相手が若い女性であることから、殴られてもいっさい手をださなかった)、イスラエル治安部隊に逮捕されたアヘッド・タミミ(17)が、逮捕から11ヶ月後の7月29日、釈放された。

タミミは、家族そろって英雄として迎えられ、アッバス議長もタミミを、英雄として歓迎した。タミミの父親は、パレスチナ人の結束を訴え、「闘争は続く。ガザの「帰還への行進」を支持する。」と訴えた。

www.haaretz.com/israel-news/palestinian-teen-ahed-tamimi-released-from-israeli-prison-1.6315634

2)クシュナー大統領補佐官の動き

トランプ大統領は、アメリカの中東和平案を、”世紀の取引”と呼んでいるが、その全貌はまだ明らかにされていない。しかし、水面下で動いている模様で、時々断片的に情報が漏れてくる。

パレスチナ自治政府が懸念していることを裏付けるように、アメリカが、パレスチナ人の難民としてのステータスを剥奪する方向で、動いているという情報がある。

アメリカのクシュナー大統領補佐官とグリーンブラット米中東特使とのメールでの会話として伝えらえたところによると、クシュナー補佐官は、UNRWA(パレスチナ人に特化した国連難民支援組織)は、設立から70年も延々と同じことを続けているだけで、ハマスとの内通や汚職もあり、和平に貢献していないと考えている。

また当初イスラエル建国によって難民になった当時のパレスチナ人の救済を目的として設立されたUNRWAが、70年経過した現在においては、イスラエルとの和平交渉が成立するまで、パレスチナ人は延々と「難民」でありつづけるかのような理解で、支援を、延々と続けていると指摘する。

そこで、UNRWAは解散し、今いるパレスチナ人は、ヨルダンや、裕福な湾岸諸国が吸収する方向で、アメリカが本来UNRWAに送金する予定であった支援金を、それらの国に送るという案もあがっているようである。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5322304,00.html

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。