本日4回目総選挙 2021.3.23

イスラエル国会

感染予防対策の中で今日、投票

イスラエルでは、本日(日本時間午後)、この2年で4回目になる総選挙が行われる。有権者は約650万人。全国1万5000箇所で投票する。

コロナ禍での選挙であるため、かなりの費用をかけて感染予防対策がとられている。1箇所の投票所で投票できる人数は、通常800人までであるところ、650人に縮小する。これにより、投票所が、テント式も含めて、1100箇所増えた。中で働く人は完全な感染予防の出立ちで、投票者は、投票用紙を受け取るところから書き込んで箱に入れるまで、他者と直接接触しない仕組みになっている。

高齢者ホームなどの施設にいる人は、感染ハイリスクであるため、特別に600箇所の投票所を設け、ホームごとにバスで移動してくる仕組み。また今現在、陽性と診断されて病院にいる人(1万5000人)や、陽性だが無症状で隔離されている人(6万5000人以上)も投票できるよう、バスを改造して、他者と接触しないで投票できるようなモービル式の投票所や、ドライブスルー投票所もある。

16歳以上でワクチン接種を受ける予定の人はもうほとんど2回の接種を終えているのだが、それでもまだここまでの感染予防策を取っている点が、イスラエルらしい。また、相当なハイテクの国だが、選挙は、紙で投票して、人間が数えるアナログ方式を取っており、サイバー操作による介入が入り込めない形が維持されている。

*選挙の仕組み

人々が投票所で投票するのは、候補者の名前ではなく、支持する党の名前を示すカードを選んで投票する。その数にしたがって、国会で割り当てられる議席数が決まり、各党の選挙名簿に応じて国会入りする議員が決まる。

イスラエルでは一党だけでは、国会の過半数(120議席中、61議席以上)にはならないので、選挙後、議席の最大獲得政党が他党と連立交渉を行って、連立を組み、その合計数で過半数を獲得した最大議席党の党首が、首相となり、政権を取ることになる。

ここで問題になるのが最低投票率である。数年前から、得票数が、投票総数の3.25%(4議席分)に満たない党は、国会に入れないという最低得票率が決められた。最低得票率に届かない党への票は、結局議員数に反映しないため、連立政権立ち上げ時の数に入らず無駄に失われるということになる。このため、ネタニヤフ首相は、右派支持者たちに、強い右派政権を望むなら、同じ右派政党でも、国会に入れないかもしれないような党ではなく、大きなリクードに投票するよう呼びかけている。

前代未聞の課題:60万人の不在者投票か

今回、2重封筒票と呼ばれる不在者投票が、通常、30万人分ぐらいであるところ、60万人分になると予測されることが問題になっている。通常なら、兵役についている人々や、海外の外交官たちがこの二重封筒票を投じるのだが、今回は、コロナ患者の多くもこれに加わると見られるからである。60万人分といえば、実に全投票の10分の1であり、議席で言えば、15議席分の票にあたる。

不在者投票は、国内票が数え終わったところで数え始められるので、国内票カウントが終わった時点での結果を覆してしまう可能性も大いにありうる。言い換えれば、選挙後すぐの出口調査ではあまり結果を予測できないということである。

また、今年は23日が選挙日だが、26日から安息日、過越と続いているため、通常開票に1週間かけるところ、2日かしかかけられない計算である。2日でカウントと計算ができるのか。。

このため、リブリン大統領は、大統領府への最終結果の提出を8日後の3月31日にすると発表。そこから誰に連立交渉を任せるか、大統領と各党の党首との面談に、しっかり7日間をかけるとし、大統領による連立形成指名は、4月7日に行うと発表したのであった。指名を受けた人物はそこから28日以内に、国会過半数になる政権を立ち上げるべく、交渉を始めるのである。投票は今日だが、新政権が立ち上がるのかどうか、まだ少し先の話になるということである。

最終の世論調査:分裂状態変わらずで5回目総選か・・・?

今回、4回目になる総選挙だが、前からと同様、今回も投票の決めては政策ではなく、ネタニヤフ首相を支持するか、しないかに尽きると言われている。

ネタニヤフ首相は、コロナ対策において、最初は失敗し、第2波、第3波を招いたと批判されているが、ワクチン作戦でかなりの成功を収めたことが大きな得点となり、支持者が増えている可能性が指摘されている。

一方で、12年も在職している上、汚職で刑事裁判にかけられている人が首相であってはならないとして、ネタニヤフ首相の降板を望む市民たちも決して少なくない。コロナ禍にあってもこの1年、ほぼ毎週、土曜夜にエルサレムの首相官邸前で、反ネタニヤフ首相デモは続けられていたのである。3月20日夜には、選挙前最後となるデモがエルサレムで行われたが、参加者は過去最大の5万人であった。

Times of Israelによると、国民の51%は、首相を交代を望んでいるが、結局、他にネタニヤフ首相を超えるような人物がいないので、首相の支持率は依然として磐石だと分析している。しかし、そこはイスラエルである。蓋を開けてみないとわからないだろう。

www.timesofisrael.com/with-more-absentee-ballots-than-ever-vote-aftermath-may-be-fuzzier-than-usual/

今回の選挙において、国会入りすると見られる正統は、ネタニヤフ首相のリクードを含め、複数の党で分裂が発生したこともあり13党に増えた。選挙を前に、政治家らが様々なコメントを出す中、世論調査が何度か行われた。チャンネル12による19日現在の議席数と最後の世論調査による予想は以下の通り。

ネタニヤフ首相

1)右派でネタニヤフ首相連立に入るとみられる政党(合計51議席)

① リクード(ネタニヤフ首相政党):37議席から32議席に減少
② ユダヤ教政党シャス:9議席から8議席に減少
③ 統一トーラー党:7議席で不変
④ 宗教シオニスト党:2議席から4議席に増加

2)左派でネタニヤフ首相連立に入らないと宣言している政党(計56議席)

ヤイル・ラピード氏

左派
① 未来がある党(ヤイル・ラピード氏):16議席から18議席に増加
② 青白党(ベニー・ガンツ氏):12議席から4議席に減少
③ 労働党:2議席から6議席に増加
④ メレツ党:4議席

*右派でネタニヤフ首相連立に入らないと宣言している政党
① ニューホープ党(リクードから打倒ネタニヤフで分裂:ギドン・サル氏):2議席から10議席に増加
② イスラエル我が家党(リーバーマン氏):7議席から6議席に減少

*アラブ政党でネタニヤフ首相連立に入らない政党
アラブ統一政党:11議席から8議席に減少

3)どちらに転ぶか明確でない党
① ヤミナ党(ナフタリ・ベネット氏):3議席から10議席に増加
② ラアム党(アラブ統一政党から分裂したイスラム主義政党)4議席

こうしてみると、ヤミナ党のベネット氏が、ネタニヤフ首相についた場合、ネタニヤフ首相が再び連立政権立ち上げに指名される可能性があるが、それでも過半数になるかならないかはギリギリということになる。またもし、宗教シオニスト党が最低得票率を取れなかった場合は、過半数には届かなくなる。

そうなると、次に左派のラピード氏に連立立ち上げが任されるということになるが、前回と同様、左派の場合、アラブ政党を入れなければ、過半数にはならない。それはほぼないことである。今、注目されているのは、打倒ネタニヤフのためならと、右派のニューホープ、ギドン・サル氏が、左派のラピード氏が首相の政権に加わっても良いと示唆している点。しかし、それでも安定した過半数には届かないし、右派左派同居の政権は長続きしないということは、すでに実証済みである。リブリン大統領も、右派左派同居の統一政権は考えていないと言っている。結局、これまでの4回の総選挙と情勢は同じということで、このままでは、5回目の総選挙になるとの懸念も出始めているということである。

また、今回、さらにややこしいのは、ガンツ氏の立場である。もし、今回の選挙でも安定した政権が立ち上がらなかった場合、5回目の選挙までは、今の政権が継続することになる。そうなると、今の政権では11月には、首相はガンツ氏に交代することが決まっている。しかし、今回の総選挙で、ガンツ氏の青白党が最低得票率を取れない可能性が高いとみられているのである。国会で議席を一つも持たない人物が11月に、首相になれるのか。これを判断するのは、最高裁ということになるらしい・・・

石の独り言

あまりにも複雑で、筆者もわからなくなってくる。読者はどの程度ついてきてくれているか。。と頭痛がする思いである。この壁にぶち当たったような状況は、いうまでもなく現代国家イスラエルでは史上初めてのことであり、まさに人間の知恵ではどうにもならない状況と言える。イスラエルの王を決めるのは、現在においてもイスラエルの神お一人なのだろう。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。