政府と軍の意見相違:ハマスは理念であり殲滅は不可とIDFハガリ報道官までが言及 2024.6.20

March 7, 2024. (Ariel Hermoni/Defense Ministry)

IDF・ラファでの戦闘はあと1月との見通し

Rafah, June 18, 2024. (Emanuel Fabian/Times of Israel)

北部でヒズボラとの緊張がエスカレートしている背景には、ガザのハマスとの戦闘が、少しづつ終わりが見え始めていることもある。

10月7日以来、8ヶ月におよぶ戦闘で、ハマスはもはや部隊としての戦闘ではなく、ゲリラ戦になっている。だいぶ弱体化しているとみられる。

このためラファでの戦闘では、おもにトンネルの摘発が行われるようになっており、ラファにおけるハマス撃退を完了するのは、1ヶ月後とみられている。

しかし、これでハマスが終わったということではない。ハマス生き残りは、ラファから別の地域へ移動しているか、これからは西岸地区からの攻撃に転じていくとみられる。

www.timesofisrael.com/in-rafah-idf-focuses-on-tunnels-with-aim-of-destroying-hamas-brigade-within-a-month/

こうなると、問題は、戦後のガザをどう管理していくかだが、アメリカは、サウジアラビアを含む穏健派アラブ諸国を巻き込んで、パレスチナ自治政府を代表として管理させる計画をイスラエルにも伝えている。

サウジアラビアは、これに協力する条件として、パレスチナ国家を立ち上げることをあげている。このため、アメリカもまた、それが唯一の恒久的な平和への道だと言っている。

しかし、この案の中に、ハマスが加わらないということは約束されていない。ネタニヤフ首相は、これを受け入れず、ハマスをガザから完全に追放することを目標にし続けている。

政権内にいる極右政治家たちの手前、というか、おそらくネタニヤフ首相自身も、パレスチナ国家の存在を受け入れることは不可能である。

ネタニヤフ首相は、イラついた様子で、18日、アメリカのこれまでの支援には感謝しているとしながらも、イスラエルへの軍事支援がとどこっていることに不満を表明し、武器さえあれば、もっと早く仕事を終えられる(ハマス撃退)のにと訴えた。

ネタニヤフ首相がこれほどオープンにアメリカに不満を訴えたのは初めてだとも報じられたほどだった。

ホワイトハウス報道官は、ネタニヤフ首相は何を言っているのかわからないと述べた。アメリカが、イスラエルへの武器搬送を遅らせたのは、この4月に、ラファでは使ってほしくないとして、2000ポンド(907キロ)分の爆弾を遅らせた時だけである。

その他は、予定通りであった。アメリカは、ネタニヤフ首相の発言の後、逆にイスラエルへの武器搬送、(F15戦闘機50機と最新F35)を遅らせることとなった。4年は遅れるとの見通しである。

IDFハガリ報道官もハマスは理念であり、殲滅は不可との考えに言及

ハマスの存在を許してしまうことが、今後、イスラエルだけでなく、世界にとってもテロを容認することになるということは、おそらく事実だろう。

しかし、では、少なくともガザからだけでも、ハマスを殲滅することは本当に可能なのか。

ギャラント防衛相はじめ、イスラエル軍関係者の多くは疑問視している。ハマスは、イスラム国のように、イデオロギーなので組織が消滅してもまた、再生してくるからである。

19日、IDFのハガリ報道官は、チャンネル13のインタビューを受けて、ハマスは、理念であり、政党でもあり、人々の心に染み付いているので、消え去ることはないとの考えを語った。また、政府が、ハマスに代わる代替案を出さない限り、ハマスは残留するだろうと語った。

先週、IDF参謀総長のガンツ氏が、戦時内閣を離脱したのは、ネタニヤフ首相のうちに、明確な戦後案がないまま、ハマス殲滅と言い続けていることに、ついていけないということだったのである。

www.timesofisrael.com/idf-spokesman-says-hamas-cant-be-eliminated-will-remain-in-gaza-if-no-alternative/

石のひとりごと

イスラエルでは、今、ヒズボラとの全面戦争の懸念もあるというのに、ネタニヤフ首相と軍部とが対立する様相にある。ハガリ報道官までがこうした発言をしたということは、相当なことである。国民の反発を助長するかもしれない。

これに加えて、ネタニヤフ首相は、極右政治家だけでなく、ユダヤ教政党の反発も受けるようになっている。この混乱の中、主はどう出られるのだろうか。主がイスラエルへの約束を守り、この混乱をどうまとめ上げられるのか。

イスラエルが一致できるのは、共通の敵というパターンが多いのだが、そうならないようにと願うばかりである。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。