大規模衝突を防げるか:ガザ情勢 2018.7.19

先週末、ガザから200発ものロケット弾がイスラエルに発射され、イスラエルもガザ内部のハマス関連施設40箇所を空爆破壊するという暴力の応酬があった。

その後、ハマスとイスラム聖戦が停戦を宣言(イスラエルの同意はなし)して、落ち着くかに見えたが、数時間後には、ガザからのロケット弾が飛来して、イスラエルが空爆するという攻撃の応酬再開となった。

また停戦に、焼夷凧は含まないと主張し、その後も焼夷風船がイスラエル南部に飛来し続けている。無人のドローンが上空で凧や風船を処理しているが、全部をキャッチすることはできていない。消防隊は、火曜だけで9箇所の消火に対処させられた。

www.timesofisrael.com/idf-using-autonomous-drone-system-to-intercept-gaza-kites-balloons/

17日火曜には、コンドームを風船のように膨らませて発火物を付けたものが、幼稚園の庭で発見された。子供達は幼稚園にいたが幸い、被害はなかった。
ガザ周辺で、発火物を足にくくりつけられて死んでいる野鳥もみつかった。・・・なんとも醜い事態になりつつある。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5311701,00.html

イスラエル軍は、火曜、ガザ地区内2箇所への空爆を行った。これを受けて、ガザからもロケット弾が飛来した。どっちが先か・・のようにみえるが、ガザからの凧攻撃が一番最初である。イスラエルはこれをれっきとしたテロ行為とみなしている。

凧攻撃をやめさせるため、イスラエルは現在、ガザへの検問所カレン・ショムロンにおいて、医療人道支援物資以外の物流を停止している。火曜からは、燃料、ガソリンの搬入も停止している。これは、ハマスにとっては致命的で、電気が1日数時間しかないガザ住民にとっても大きな痛手になるだろう。

ただし、あこの処置については、日曜までと期限が切られており、ハマスに出口を与えた形である。ぎりぎりまで、大規模衝突を避けようというイスラエル意図がうかがえる。

しかし、イスラエル軍は、新たな衝突に備え、すでに国境付近に軍司令部を設置。テルアビブ地域には迎撃ミサイルを配置した。

ネタニヤフ首相は、被害にあっているスデロットを訪問。続いて、今日は、リーバーマン国防相とともに国境の軍司令部を訪問し、イスラエル軍はいかなるシナリオにも対処する用意ができていると述べた。

<エジプトの最後通告?>

こうした事態のエスカレートを受けて、エジプトが動きはじめた。一時、国境を閉鎖し、ハマスに、凧や風船による攻撃を数日以内に停止するか、数を相当数減らすよう伝えたということである。背後にイスラエルとの協力があるとの見方もある。

18日朝のニュースによると、ハマスが、凧攻撃をしているグループにしばしの停止を伝えたとのことだったが、夕方になり、グループはその情報を否定し、凧攻撃は続けると強調するビデオクリップをアップした。ハマスはノーコメント。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5312093,00.html

<なぜハマスはしつこく攻撃をやめないのか>

明らかにイスラエルに勝てないことがわかっているのに、なぜハマスはイスラエルへの攻撃をやめないのか。

やめることで、ガザ市民と、イランやトルコなどの支援者に、ハマスはイスラエルに屈したというイメージを与えてしまうことが考えられる。イスラエルを攻撃することが、ハマスの存在意義なのである。

また、パレスチナ自治政府による経済制裁(給与支払い停止)、イスラエルによる物流遮断に加え、ハマス海外支部からの資金が途絶えたという。もはや、ガザは、失うものはなにもない。戦って死ぬ以外に道はないということである。

<なぜイスラエルは効果的な対処を行なっていないのか>

広大な畑地が焼失し、スデロットでは、家族が、自宅の居間でくつろいでいるときにロケット弾の破片が飛び込み、4人が顔などに負傷した。幼稚園に焼夷風船が飛来したり、シナゴーグがロケット弾を受けて破損したりしている。

しかし、先週末に大規模な空爆を行うまでの3ヶ月、イスラエル政府は、必死に消火にあたるばかりで、特になにもしてこなかった。今回も、空爆を途中で停止している。これについては、南部住民や、右派閣僚から痛烈な批判も出ている。

とはいえ、次の選択肢があるとすれば、ガザを一掃してしまうことである。これは、イスラエル軍にとって、けっして難しいことではない。

www.timesofisrael.com/army-told-to-prepare-for-large-scale-military-operation-in-gaza-report/

しかし、そうなると、ガザ市民が多数犠牲となり、国際社会の批判を買うばかりでなく、その後のガザ地区復興の責任を、イスラエルが負わなければならなくなる。これは避けたいところである。

また、今のガザ地区にイランが深く関わっていることが明らかになっている。もし南部でハマス、その背後のイランと対決することになれば、北部情勢にまで戦火が広がっていく可能性がある。

様々なことが関わりあっており、ガザだけで判断できないのである。

もう一点、イスラエルの国内事情もある。イスラエルでは火曜、開戦の決定は、首相と国防相だけに決める権利はなく、議会の同意が必要との法案が、国会審議を3回通過して、法律となった。これにより、戦争責任が首相と国防相に集中することはなくなるが、決定に時間がかかるという問題も指摘されている。

www.jpost.com/Israel-News/Prime-Minister-and-Defense-Ministers-can-no-longer-declare-war-562752

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。