地中海の天然ガス油田問題でくすぶるイスラエルとレバノン(ヒズボラ)

INSSオルナ・ミズラヒ氏の地図 ブルーの部分が、レバノンが主張する問題の排他的経済水域とされる部分 国連が問題としているのは、中央ラインまで

2010年に、ハイファ沖海底でみつかった天然ガスをめぐって、イスラエルとレバノンが、もめている。

イスラエルとレバノンは、これまでから排他的経済水域について交渉を行っていたが、国連が作成した地図(国境線)で一応落着していたようである。

ところが、2020年に、レバノンが、急にその地図(国境線)を修復する必要があるとして、交渉がまた再開になっていた。その後、なんの進展もない中、レバノンの主張するラインは、2021年に拡大している。しかし、その後、レバノン政府は政府も経済も崩壊し、交渉どころではなくなっていたとみられる。

こうした中、6月4日、イスラエルが、ハイファ沖80キロのカリシュ油田に掘削プラットフォームを設置して掘削準備を始めたところ、レバノンが、イスラエルが、レバノンの天然ガスを掘削しようとしていると訴えた。

しかし、INSS(イスラエル国家治安研究所)でこの問題に詳しいオルナ・ミズラヒ氏によると、カリシュ油田は、問題となる海域にあるのではないという。国連が交渉中と認識する問題の海域は、860平方キロメートルの海域で、カリシュ油田はその外にあるからである。

Beirut, Lebanon, Feb. 9, 2022. (Dalati Nohra/Lebanese Official Government via AP, File)

しかし、2021年から、レバノンは、860ではなく1430平方キロメートルの海域を、レバノンの経済的排他水域だと主張している。このため、今イスラエルが掘削を開始しようとしているカリシュ・ガス油田がその中に含まれるという主張になるのである。

しかし、国連が要交渉とみとめるのは、860平方キロメートルの部分だけである。したがって、カリシュ油田がある場所は、イスラエルとしては交渉の理由も余地もないものとの理解なので、ガス油田掘削にとりかかったというのが主張である。

この問題について、明日から2日間、レバノン政府の要請で、アメリカのアモス・ホクステイン氏がレバノンを訪問し、両国の仲裁にとりくむことになっている。

*ホクステイン氏は、2022年2月にもこの件でレバノンを訪問している。(写真)

www.timesofisrael.com/us-envoy-heading-to-beirut-to-mediate-israel-lebanon-maritime-gas-dispute/

そのレバノンだが、2020年にベイルートの港で膨大な爆発事故(ヒズボラの武器庫とみられる倉庫が暴発)があり、港は大きく破壊された。以後、経済は崩壊。政府も崩壊して、今あるのは、暫定政権である。約1年になる今もまだ、経済も崩壊したままで、国民は電気にも不足する中で苦しい生活を強いられている。

ウクライナ問題で、ヨーロッパで天然ガスが不足する中、この地中海の天然ガス油田は、レバノンにとっても、経済回復への希望というところなのだろうか。

今後どうなるのかだが、ミズラヒ氏は、ヒズボラが、口では脅迫しても、実際にイスラエルを攻撃してくるほどの余力はないだろうと語っている。しかし、一方で、イランが背後でヒズボラを動かしている可能性もあり、まったく油断はできないというところである。

www.timesofisrael.com/lebanese-rally-near-israeli-border-against-gas-drilling-in-area-claimed-by-beirut/

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。