9月17日に行われた総選挙で立ち上がった第22国会は、ネタニヤフ首相(リクード)、ガンツ党首(青白等)ともに連立政権の立ち上げに失敗した後、国会から連立政権を立ち上げるという任務を大統領から授かっていた。
しかし、国会もまた期限12月11日までに、連立政権を立ち上げることができなかったため、国会は11日、深夜を持って解散。その数時間後の投票で、イスラエル史上初、1年の間に3回目となる総選挙を、80日後の来年3月2日に行うことを決めた。
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<ネタニヤフ首相:リクードの最後のチャンスになりうるか?>
3回目総選挙は、ネタニヤフ首相にとっては、政権維持の最後のチャンスともいえる。これまで2回失敗したが、今度の総選挙で、すでにブロック合意ができている新右派党、ユダヤの家党など右派政党とユダヤ教政党とで、今度こそ61議席以上とればいいわけである。
3回目総選挙の日程が決まると、ネタニヤフ首相は、最高裁に対し、首相のポジションについては、あくまでも維持すると強調しながら、兼任していた健康相、農産相、デイィアスポラ相に役職を返上し、1月1日までにそのポジションに着任する閣僚を任命すると報告した。
なお、これに先立ち、外相はイスラエル・カッツ氏に、防衛相はナフタリ・ベネット氏に委譲している。ポストを分けることは、リクード内部だけでなく、他党との結束を固めることにつながる。
しかし、今のまま、中道右派でありながら、ネタニヤフ首相に反旗をひるがえしているリーバーマン氏のイスラエル我が家党抜きで、61議席以上をとる可能性はかなり低いとみられ、まさに「奇跡」を信じるしかない状況にあるといえるだろう。
*リクード内部での党首選挙:12月26日
ネタニヤフ首相は、3回目総選挙が決まると、リクード内部での党首選挙を12月26日に行うことに合意した。
これについては、リクード内部でネタニヤフ首相に変わる党首として、手をあげているギドン・サル氏が、国会が解散する前に選挙を行うよう要請していた懸案である。
もし国会が解散する前に、リクードの党首がサル氏に交代していたら、ガンツ氏との連立が可能となり、3回目総選挙は回避できた可能性があった。しかし、リクードは、まだまだネタニヤフ首相を支持している人が多い事もあり、最終的にサル氏の提案は棚上げとされた。
それが、総選挙が終わるやいなや、ネタニヤフ首相は選挙の実施に合意を出したということである。
国会解散前であれば、3回目総選挙回避の目的で、サル氏に投票したメンバーもいたかもしれないが、総選挙が決まった今となっては、おそらくはネタニヤフ首相の圧勝とみられている。ネタニヤフ首相としては、この選挙をリクードの一致を示すことに利用するつもりのようである。
www.timesofisrael.com/likud-confirms-december-26-primaries-with-saar-hoping-to-upend-netanyahu-rule/
可能性は、徐々に低くなってきてはいるが、ネタニヤフ首相、なにがなんでも首相にとどまる覚悟のようである。
<リブリン大統領・左派勢力:ネタニヤフ首相へ尊厳ある退陣へのよびかけ>
ネタニヤフ首相が首相のポジションに執着するのは、本人の主張によれば、イスラエルを守るためには自分を中心とする、完全な右派政権が必要だと考えているからである。
もし、ライバルのガンツ氏が首相となった場合、左派政党や、アラブ政党の協力までも必要とするような政権になる。これはユダヤ人の国としてのイスラエルにとって大きな危機になるとネタニヤフ首相は訴えている。
しかし、同時に、ネタニヤフ首相が、首相にとどまり続けることで、自身の汚職疑惑への免責につながる可能性があることから、厳しい批判の目を向けられている。
もし次の総選挙で、仮にネタニヤフ首相が過半数を得て、右派による政権を立ち上げることができた場合、その国会は、おそらく、首相はいかなる罪からも免責とする法律を通すことになるだろう。ネタニヤフ首相は晴れて、起訴から解放されることになる。
批判者は、「ネタニヤフ首相は、自分の益のために、国全体を3回目総選挙に引きずり込んだ。ネタニヤフ首相は、自分の罪については、一市民として戦うべきであり、国を巻き添えにするべきではない。」とも言っている。
しかし、実際には、時期選挙でもネタニヤフ首相が圧勝する可能性は、今の所かなり低いことから、ネタニヤフ首相に同情する声が出始めている。
リブリン大統領は、先週、ネタニヤフ首相のこれまでの国への貢献を認め、もしネタニヤフ首相が、汚職などの罪を認めて退任するなら、恩赦を出すと言い、退陣を促すコメントを出していた。
www.jpost.com/Israel-News/Rivlin-will-consider-pardon-if-Netanyahu-resigns-confesses-report-609903
また、ガンツ氏とリーバーマン氏は、国会が解散したのちの昨日、それぞれ同様に、「国の指導者が刑務所に入るのは見たくない。」として、もしネタニヤフ首相が、政治から身を引くなら、司法にしかるべき意見書を出す(恩赦を求める)と語った。
www.ynetnews.com/article/8TTNIOWZJ
*リブリン大統領から国民へ:民主主義に落胆しないように
リブリン大統領は、3回目総選挙が決まった後、リブリン大統領は、国民に向かって、次のように述べた。
今、私たちは、国の指導者を選ぶという重大な時に立っている。イスラエルは、民主国家であることに誇りをもっているが、それを維持するには、犠牲が伴うということもよく知っているはずだ。
今、政治の世界では深い分裂が明らかにになっているが、必ずしも合意できなくてよいという権利を勝ち取ると同時に、その中にあって、合意できることは何かを見つけだしていく義務があるということについても、社会として、国として勝ち取ることになるよう祈っている。
けっして落胆してはならない。落胆してもなにも良いことはない。民主主義と、自らの手で未来を切り開くことへの希望を失ってはならない。時が来れば必ず、民主的にすべての人々にとっての最善がなると期待しよう。
www.ynetnews.com/article/BkNHDnyRS
<石のひとりごと:民主主義の終焉が来る?>
世界では昨今、選挙という多数決が必ずしも民意を反映するとは言い切れないとして、民主主義の限界というものが論議されるようになっている。
たとえば、国連では、加盟国の多くがイスラム諸国であるため、イスラエルがいくら論理的に説明しても最終的には多数決で負けてしまうという結果になる。多数決が必ずしも正しい答えを出すとは限らない。
また、イギリスのEU離脱について、最初の選挙では、賛成、反対がほぼ半々であった。しかし、わずかに賛成が多かったため、多数決の原則により、離脱の方針が決まった。
しかし、実際には、国民の半分近くはこれに反対していたのであり、多数決が民意を必ずしも反映するものではないということが明らかになった。
こうした中、イスラエルは今、民主的な選挙で指導者を選ぶということのあらたな限界、行き詰まりを経験している。
イスラエルが経験することは、後に世界が経験することになるパターンが多いので、やがて他の国のなかでも同様のことが起こってくるかもしれない。
近い将来、民主主義が限界を迎えたとして、次にどんな政治運営が出てくるのか、いわゆる新世界秩序なるものが出てくるのか、想像もつかないが、ともかくもイスラエルが、この政治的混乱をどう解決していくのか注目したい。