昨日、西岸地区最大のユダヤ人入植地、アリエルを訪問した。アリエルには、バルカン産業パークが併設されており、140の工場で、約6000人の従業員が働いている。その約半数の3000人は近隣から働きに来るパレスチナ人である。
工場では、ユダヤ人とパレスチナ人が一緒に働いている。工場の外へ出るとパレスチナ人の男性2人が休憩していたので、ここで働くのはどうかと聞くと、「黄金のようだ!(すばらしい)」と首をふりながら言った。
彼が嘘で言っているのではないということは明らかだった。その男性は工場に就職して4年目になるそうだが、10~15年目の人もいる。
調査によると、入植地の工場で働くとパレスチナ側で働くより1.5から2倍の給料がもらえる。それに休暇や福利厚生など、イスラエルの法律で定められた労働者への保護も完備されている。
男性と話した時もまだ昼休憩ではなく、中間の休憩だったが、その時間は30分だという。日本のスーパーの休憩は確か15分・・・。
パレスチナ人にとっては、どう考えてもこちらで働く方が有利なのは確かである。「とにかくなんでもいいから、このまま平和に暮らしたい。」それが彼らの本心なのだ。
和平交渉やEUのボイコットについてきくと、「よくわからない。あまり考えたくない。」という返答だった。
ユダヤ人入植地を西岸地区から追い出して二国家に分けること、西岸地区の産物をボイコットすること、そのツケは実はパレスチナ人も大きく支払うことになるということを、世界はあまり気づいていない。
また、前にバルカンを訪問したときにも感じたことだが、この工場にいるパレスチナ人からは、通常イスラム地区などで感じるような、とげとげした緊張感、挑戦的な空気を感じないということをお知らせしたい。
威厳を持って生活の糧を得、家族と落ち着いた生活ができる、その人間らしい幸せこそが、平和への道筋ではないかと思わざると得なかった。そういう視点でいえば、今世界がやろうとしていることは、逆方向なのかもしれない。
<政治ではなく、ビジネスで平和を>
IPCC(The Israeli-Palestinian Chamber of Ccommerce and Industry)というイスラエルのNGO団体がある。IPCCは、イスラエルの会社とパレスチナの会社をつなぐという働きをしている。まずは両方に利益があがること、それによって両者が互いを知り、関係が改善することを目標とする。
代表のダビッド・シムハ氏によると、最近では、中国や東南アジアでの人件費がさほど安くなくなっている。それならば西岸地区に工場を建てて、パレスチナ人を雇用する方が、材料を遠くへ送るだけの費用も抑えられるし、パレスチナ人の雇用を生み出せると訴えていた。
実際、西岸地区への工場進出を希望するイスラエルの会社が増えているという。イスラエルの会社から、パレスチナ人の会社へのアウトソーシングも増えてきている。IPCCでは、パレスチナ人のIT関連のスタートアップも支援しているという。
シムハ氏は「これは平和が来たときの準備だ。両国に平和が成立したら、隣どおし、ビジネスのベスト・パートナーになるはずだ」とあつく語っていた。
<政治と現場のギャップ>
今回私が会った人々は、西岸地区のほんの一部だが、ここではユダヤ人もパレスチナ人も、政治的に2国家に分けるということを希望と考えている人はなさそうだった。
政治さえなければ、現地ではそれなりに共存している一面も確あるからである。とはいえ、政治を無視するわけにはいかないので、人々の顔は”困った”顔なのである。
西岸地区ユダヤ人入植地代表のダニー・ダヤン氏は、次のように語った。「地元では、地元人どうしでなんとか仲良くやっていこうと努力している。
たとえば、検問所の環境や条件を交渉するなど、もっと日常生活の具体的な点を交渉することから始めるべきだ。そうした交渉なら、結果を出せる。
こうした小さな具体的な交渉を20年続けて信頼関係を築いた後なら、国境線や、エルサレム問題に入れば、結果もだせるだろう。ケリー国務長官は、いきなり国境線、エルサレム問題といっているが、それは間違った選択だ。」
・・・が、それでも和平交渉は始まってしまった。次の9ヶ月、テロや過激派の活動から守られ、なんらかのポジティブな結果が出るように願うばかりである。