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司法制度改革第一弾・合理性基準法案可決
裁判所が、政府の打ち出した人事や政策が“合理的でない”と判断した際に、これを却下する権力を著しく弱体化する、いわゆる「合理性法案」。国民からの大規模な反対があったが、政府は、日曜日から30時間に及ぶ審議を開始した。
この間、ヘルツォグ大統領が最後の仲介を試みて、淡い期待も出ていたが、結局、合意にいたらせることはできなかった。こうして昨日午後、合意性法案についての2回目となる採択が行われた。
野党議員たちも国会にはいたが、全員が投票をボイコットしたため、賛成64、反対0で、可決となった。国会は120議席なので、かろうじてだが、過半数ということである。
3回目の投票もそのまま続いて行われ、同様に可決となった。昨日中に、3回の採択を完了したことから、予想より早く、この法案が正式に法律として成立することとなった。
結果が出ると野党議員たちから「恥」などと野次がとんでいる。
これにより、今後、最高裁は、政府の人事や方針が合理的でないと判断した場合でも、もはやこれに意見したり、却下することはできなくなる。司法制度改革がいよいよすべりだした形となった。
*合理性
「合理性」とは、意思決定における政治的利益と公共の利益とのバランスのことで、「不合理な」決定とは、「国民の信頼とその保護を十分に考慮せずに、政治的利益を不当に重視する」決定を下すことを指す。最高裁は政府の判断を不合理と考えた場合、これを却下することができる。
たとえば、最高裁は、この権限で、汚職で刑務所で服役までした、シャス党のアリエ・デリ党首を閣僚にするのは不合理だとして却下した。これにより、デリ氏は閣僚になれなかった。
この他、政策についても同様の権利を行使できる。ネタニヤフ首相は、これまでに何度となく、最高裁に邪魔をされてきたのであった。
エルサレムとテルアビブでデモ隊カオス・33人逮捕
国会で合意性法案が可決になると、国会外にいた人々が、「恥」「イスラエルは独裁ではない。」などと叫ぶブーイングが広がった。その後、デモ群衆は最高裁前の道路を封鎖し、そこで集会を行った。警察は、放水銃に加え、悪臭を放つスカンク放水銃でデモ隊を解散させようとしてカオスになった。エルサレムでは少なくとも15人が逮捕されたとみられる。
国会で決まったことに対し、市民たちができる選択肢は他にないが、デモに参加していた人は、これからも戦いは続けると叫んでいる。
Police shove protestors down from a small mound overlooking the demonstration outside the Knesset and Kaplan Street on which the Knesset is located…
“It’s dangerous up here, I’m doing this with love,” says the police officer afterwards” pic.twitter.com/uridXt8K9b— Jeremy Sharon (@jeremysharon) July 24, 2023
ההפגנה מחוץ לכנסת: מפגין נפצע בראשו מהמכת"זית@yaara_shapira pic.twitter.com/epKtFBD1Fi
— כאן חדשות (@kann_news) July 24, 2023
テルアビブでは、1万5000人とみられる群衆がアヤロン高速道路を封鎖して、「私たちはあきらめない」と歌ったりした。ハイファでも同様に道路を封鎖する動きがあった。落ち着きが取り戻され始めたのは、深夜1時をまわってからだったという。この日、全国で警察に拘束された人は33人にのぼった。
なお、本日行われる予定の全国的なストについては、安息日並みの運営(緊急時は対応)を24時間行うとすると表明している病院もあるが、総合病院など、地域診療にあたる医療機関は、通常通りに医療を提供するとのこと。
その他のストについては、現時点ではまだ情報はない。
今後の政府の方針
ネタニヤフ首相と現政権は、あくまでも司法制度改革を成し遂げていく方針で、次の冬の国会会期中には、改革法案第二弾となる、裁判官人事を決める委員会の構成を決める新法案を審議すると表明している。
それにしても、これほど多数の国民の反対を押し切っての決断である。
さらには、イスラエルの最友好国アメリカのバイデン大統領から、広範囲な合意がない司法制度改革案は、中止すべきだとの警告が5回も出ていた中での決断だった。
半数近い国民とバイデン大統領の意見すら無視したネタニヤフ首相が、どれほど強固な確信の元にいるかと驚かされるところである。
石のひとりごと:ベテラン退役兵の悲しみ
ただ、これほどの反対デモであっても、けっして政府を倒そうとする、暴力的なクーデターにはなっていないことは注目すべきである。
イスラエル人たちは、最終的には、国を倒してはならないことや、同じユダヤ人で殺し合うこともしてはならないということもよくわかっている。
しかし、ヨム・キプール戦争からの多くの戦争を戦ってきた、ベテラン退役兵のオデッド・メギドさんは今、極右政治家や、極度にユダヤ教思考の人が仕切る政権が、司法を上回る権力を持つことに危機感を感じている。
「ほんの8ヶ月前までは、ヒルトップ(西岸地区のユダヤ人過激派ユースグループ)にいたような人間(ベングビル氏やスモトリッチ氏)が、閣僚になっている。そんな人間が、何十年も国のために戦ってきた私に、今、政府に歯向かう、無政府主義者だと批判するというのか。」とメギドさん。
またかつてイスラエル空軍で従軍したイタイ・ナカシュさんも、「イデオロギーに同意できない政府でもともに働くことはできるが、強硬右派で独裁の様相もみせている政府に、ただ盲目的に従うことは危険だ。」と語る。
ここまで反発が広がっているのは、今のネタニヤフ政権が、ユダヤ教強行右派政権であるということが大きく影響しているのではないか。
確かに、イスラエルの政治において、司法の権限は強大すぎ、バランスを調整すべきという声は決して小さくないのである。もしこれが、もっと穏健な政権による政策であれば、話は違っていたのかもしれない。