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国内各分野からの反対表明
イスラエル国内では、毎週、安息日明けにこの改革に反対するデモが発生していることはお伝えしてきた通りである。
この他、ITハイテクセクションのグループがデモを行い、9日、エルサレムやテルアビブ、ハイファと主要都市の学校や幼稚園で、「民主主義のない教育はない」と訴えるデモを学生とその両親、教師も参加して訴えた。
www.timesofisrael.com/parents-students-protest-judicial-overhaul-major-highway-blocked/
このほか、イスラエル軍退役軍人たち数千人が、3日間のラリーを行った。
また、警告は、ヘルツォグ大統領から、また前司法長官で、ネタニヤフ首相とも長年の付き合いがあり、2019年にネタニヤフ首相の汚職で訴追も行ったマンデルビット前司法長官は、インタビューの中で、「法制度の独立性を完全に終わらせることになる」と強い言葉で警告を発した。
マンデルビット前市長の警告を受け、改革をすすめようとする司法委員会のロズマン会長は、マンデルビット司法長官は逮捕すべきだと対決姿勢をあらわにしている。
www.timesofisrael.com/judicial-overhaul-is-regime-change-will-destroy-legal-system-says-former-ag/
国内での危機感が高まっており、ネタニヤフ首相や政権閣僚に対する暴力への懸念にもなってきている。今週初め、国内治安を担当するシンベトのロネン・バル長官が、警告を発している。
歴史家ノア・ハラリ氏も警告:海外ノーベル賞受賞者11人や経済界トップらが警告
イスラエルの民主主義が危ういとする警告は、海外からも出ている。特に、日本含め海外でも著名な歴史家のノア・ハラリ氏は、「民主主義の重要な点は、多数決ではない。市民の権利を保護するために、支配者の権利を制限することができるということだ。」と述べ、ネタニヤフ政権に権利が集中することへの警告を発した。
www.timesofisrael.com/yuval-noah-harari-israels-democracy-under-threat-from-judicial-overhaul/
懸念されているのは、政府が司法による監視を受けなくなると、たとえば、ポーランドのようになると指摘している。ポーランドでは、2年前に、ちょうど今のイスラエルのように、右派ポピュリスト政権となり、行政が司法より権力を持つ形となった。これにより、EUの法にまで従わなくなるという問題が発生したのである。
このような事態は、国そのものへの信頼に関わってくるため、特に投資業界にとっては赤信号となる。Times of Israelによると、8日には、アメリカのトップ経済学者56人が、イスラエルの司法改革が、イスラエルの経済成長を著しく脅かすだろうと警告する手紙に署名して、ネタニヤフ首相にを提出した。
アメリカのハーバード、MIT,スタンフォード大学など、世界トップの大学に所属するノーベル経済学賞受賞の11人も同様の文書に署名した。
チャンネル12によると、イスラエル人によるトップ企業5社が、すでにイスラエルへの投資から撤退しており、その額は10億ドルにのぼっているという。この法案問題が出て以来、イスラエルから計70億ドルの投資が引き出されたとのこと。
石のひとりごと
ネタニヤフ政権が、成立をこれほどまでに急いでいる、いわゆる“オーバーライド”法案。国内外から、これほどの反対や警告を受けながらもネタニヤフ首相は、その姿勢をまったく崩していないことには驚かされる。ネタニヤフ首相の心の中にはいったい何があるのだろうか。
メディアが連日報じているように、反対派の意見は相当に危機感に溢れている。しかし、一方で、右派シオニストの正統派や、ユダヤ教徒、またアラブ系住民も、デモには、ほとんど含まれていないということもまた事実である。
この場合、まず、アラブ系住民は、ここまでの右派政権になったことで、もはや絶望であり、何かを意見するという気も失っているということであろう。デモには参加はしていない。
右派シオニストは、神殿の丘や、西岸地区をイスラエルに併合したいと考えている人々である。超正統派は、イスラエルを明らかなユダヤ教の国にしたいと考えている。この右派たちにとっては、これほどの強硬右派政権が成立したということは、建国史上最もチャンスの時の到来と考えているということである。当然、デモに参加することはない。
ネタニヤフ首相自身も、右派で、もともとは上記のような願いをもっていたと思われるが、これまでは、政権内に中道派などもいて、極端にその道をすすむことはできなかった。その道に進もうとする法案は、ことごとく、民主主義を前に出す、司法にそれを却下されてきた。挙げ句の果ては、汚職問題で訴追され、自身の政治生命の終焉になりかかったということである。
それが今、逆転している。それだけでなく、まさに、今、念願の司法の力をそいで、右派の願望を叶えるチャンスが見えてきたということである。ネタニヤフ首相や右派たちにとっては、まさに神の導きぐらいにとらえている可能性も想像できる。
長くネタニヤフ氏の動向を見守ってきた、元イスラエル軍諜報機関長官で、治安エキスパートのアモス・ヤディン氏は、「今のネタニヤフ首相は、これまでの私が知っているネタニヤフ氏とは全く別人だ。」と言っていた。
イスラエルは、今、右派宗教派と、そうでないか、そこまで極端に宗教的でない人々との2つに分裂しはじめているということである。
来週、決議が出る、この司法改革が、イスラエルをさらに世界で孤立に向かわせるだろうか。しかし、それもまた、聖書に将来おこると書かれていることでもあるわけである。この点からもイスラエルも世界もいよいよ終わりの時に向かっているとの緊張感を覚えざるをえない。