厳戒態勢:ペンス副大統領来訪21-23日 2018.1.20

昨年末以来、2回延期になっていたアメリカの副大統領の中東訪問が始まる。20-21日にエジプト、ヨルダンを訪問後、21日日曜から23日までイスラエルを訪問する。

イスラエルでの予定は、21日夕刻に到着し、翌朝、首相府でネタニヤフ首相と会談し、国会で演説。リブリン大統領面会、ヤドバシェム(ホロコースト記念館)で献花して、23日に帰国する。

昨年に訪問が計画された時点では、パレスチナ自治政府のアッバス議長とも会談する予定であったが、トランプ大統領が、エルサレムが首都であると発表したため、アッバス議長がペンス副大統領には会わないと表明したのであった。今回もアッバス議長に会う予定はない。

エルサレム問題に加えて、UNRWA拠出金削減で、特にパレスチナ人の間で反米感情が高まっている中での訪問となるため、警備も厳戒態勢になるとみられる。エルサレム市内もあちこち道路が閉鎖されることになる

www.jpost.com/Christian-News/Comment-Mideast-Christians-eyes-turn-to-Pence-538184

ペンス副大統領護衛作戦”Blue Shield 2”の訓練を行うイスラエル警察の様子:
www.israelnationalnews.com/News/News.aspx/240913

ペンス副大統領訪問をとりまく近況は以下の通り。

1)アメリカのUNRWA支援65億ドルへ削減

トランプ大統領が予告していた通り、アメリカは木曜、UNRWA(パレスチナ難民支援基金)への拠出金を、半額以下の6000万ドル(約67億円)にまで削減して支払いをすませた。支払い期限は1月1日であった。

UNRWA予算の25-30%は、アメリカからの拠出金でまかなわれていたことから、UNRWAにとってはかなり大きな打撃である。

さらに、金曜、これとは別に、昨年中、UNRWAに西岸地区とガザ地区への食料支援としてアメリカ政府が約束していた4500万ドル(約50億円)も凍結すると発表した。

www.timesofisrael.com/us-state-department-withholds-additional-45-million-from-unrwa/

これについて、アメリカ政府は、「永遠に凍結するとは言っていない。削減分は他国でカバーしなければならないだろうが、UNRWAが組織改善をするまでのことである。」と発表し、パレスチナ人テロ組織と癒着しているUNRWAの体制を改善するよう要求した。

UNRWAについては、支援金が、市民の生活改善だけでなく、テロ・トンネルの建設費用に流れたり、UNRWA運営の学校にミサイルが仕組まれるほか、パレスチナ人の子供達への教育内容にもイスラエルとの戦闘を促す内容があると様々な問題が指摘されてきた。しかし、国際社会はこれまで何の措置もとってこなかったのである。

トランプ大統領は、口にしたことは急に実施するとパレスチナ人の間でも恐れられるようになってきているが、まさにそうなったわけである。

ネタニヤフ首相は、アメリカの動きを歓迎し、パレスチナ難民支援は、いったんUNCHR(国連難民高等弁務官事務所)に戻すよう、主張している。

しかし、当初は70万人で始まったパレスチナ難民支援対象者は、今やひ孫の世代になって、530万人にまで膨れ上がっている。

特にガザ地区の200万人は、UNRWAからの食料や教育活動に頼っている人がほとんどである。またUNRWAの支援を受けるパレスチナ難民は、西岸地区とガザだけではない。ヨルダンやシリアなど中東全体にまで及んでいる。

理屈はどうあれ、70年も、あって当たり前になっていた支援が急に差しとめられることが、混乱をもたらすことになることは大いに懸念されるところである。

グテーレス国連総長は、深い懸念を表明し、最終的には、アメリカが、気を変えて、残りの拠出金も支払うことを願うとのコメントを出している。 

アメリカの拠出削減を受けて、17日、ベルギーが、2300万ドル(約25億円)をUNRWAに拠出すると約束した。

www.israelnationalnews.com/News/News.aspx/240822

2)PLO中央委員会:オスロ合意破棄で可決

前回、ラマラで開かれているPLO中央委員会での特別カンファレンスで、アッバス議長が、エルサレムをイスラエルの首都と認め、UNRWAへの拠出金を削減すると言っているアメリカとイスラエルへの怒りを炸裂させたことはお伝えした通り。

さらに月曜、PLO(パレスチナ解放機構でパレスチナ自治政府の母体)の中央員会は、最終的にクリントン前米大統領を仲介し、アラファト議長とラビン首相が1993年に交わしたオスロ合意を破棄するかどうかの採択を行い、破棄することで合意した。

オスロ合意の主要項目は、パレスチナ自治政府を立てて、将来、パレスチナ国家を設立しようとする合意のことである。この合意以来、25年になるが、目標達成どころか、混乱はますばかりである。

今回、PLOが決めたのは、もはや、この合意は失敗であると認識するとともに、今後アメリカの仲介は拒否するということである。パレスチナ国家設立のためには、まったく違う道を歩むと言っているのである。

PLO中央委員会は、「国連決議の基づき、イスラエルの占領をやめさせること。1967年6月4日の時点(1967年六日戦争以前)の境界線から東を首都とするパレスチナ国家の独立を認めることを国際社会に要請する」と公式発表した。

english.wafa.ps/page.aspx?id=eJbuMka96057575031aeJbuMk

この後、水曜、カイロではアラブ諸国のカンファレンスが開かれた。その席で、アッバス議長は、改めて、アメリカと湾岸諸国が提示したとみられる新しい和平案を拒否すると表明した。

この和平案では、パレスチナの国家を認めるが、エルサレムが首都ではない上に、自治権はあるものの、防衛は認められないなど、完全な主権のない国家ということである。イスラエルはこれを受け入れているようだが、アッバス議長には認められないということである。

この時のスピーチでアッバス議長は、聖書にも出てくるカナン人を引用し、「我々は、イスラエル人より前からいるカナン人だ。」と主張。エルサレムを首都とする完全な主権を持つパレスチナ国家の独立をめざすと主張した。

www.timesofisrael.com/abbas-jerusalem-is-the-gate-of-peace-and-war-trump-must-choose/

<ヨルダンとイスラエルの外交関係回復へ>

ヨルダンは、国民の7割近くがパレスチナ人である。エルサレムはイスラエルの首都と宣言しているアメリカのペンス副大統領の来訪は、パレスチナ人の機嫌を損ねたくないヨルダン王室にとって歓迎できるものではない。

しかし、ヨルダンはシリア、イラクの難民を受け入れていることもあり、アメリカの支援に大きく頼っている。2016年の支援額は16億ドル(約1800億円)である。ヨルダンとしては、ペンス副大統領を断るわけにもいかず、難しい外交をせまられている。

またヨルダンは、昨年7月、イスラエル大使館職員が、ヨルダン人に襲われたとして反撃し、結果的にヨルダン人2人を銃殺したことで、イスラエルの大使を追放し、イスラエル大使館を閉鎖させていた。

ヨルダンは、ヨルダン人2人を殺害して帰国した大使館職員が、ネタニヤフ首相にまるで英雄かのように歓迎される様子を見て立腹していたのである。

実際になにが起こったのかが明らかでないため、イスラエルは、これまでのところ、謝罪はせず、遺憾を述べるにとどまっていた。

しかし、木曜、ヨルダン政府によると、ネタニヤフ首相が謝罪を申し入れたもようである。ネタニヤフ首相は、まもなく新しい大使をアンマンへ派遣することになると発表し、両国の外交関係が回復すると発表した。

ペンス副大統領の来訪を前にした圧力があったか動きともとれるタイミングである。

www.timesofisrael.com/israels-new-envoy-to-jordan-to-be-named-in-coming-days-netanyahu-says/

<エジプトも複雑・・・>

エジプトは、昨今、パレスチナ自治政府のアッバス議長を支援し、ハマスとの和解を仲介していた国である。そこへ、パレスチナ自治政府が関係を断固拒否を表明しているアメリカの副大統領が来るわけである。

かつてはアラブの盟主を務め、イスラエルと戦った大国エジプトが、エルサレムはイスラエルの首都と言っているアメリカの副大統領を迎えることは、エジプトにとっても大問題である。

しかし、こちらもヨルダンと同様、経済的にも大きくアメリカに依存している以上、断るわけにはいかない。

エジプトのシシ大統領は、水曜、アッバス議長に、ペンス副大統領が来ても、エジプトは、エルサレムがパレスチナの首都ということは妥協しないと約束したという。

www.timesofisrael.com/pence-visit-exposes-dilemma-facing-egypt-jordan-over-jerusalem-recognition/

<福音派クリスチャンとして>

ペンス副大統領は、トランプ大統領と違って、敬虔な福音派クリスチャンであることを明確にしている人物である。

キリスト教徒12人に1人は迫害の対象にあるとも報告されている中東で、世界最強の国のクリスチャン副大統領が何を言うのかもまた、注目されている点である。

<石のひとりごと>

アメリカがUNRWAの支援金を半部以下にした。そんなニュースが流れているが、エルサレムでは相変わらず、市内の道路をパレスチナ人が掃除しているのをみかける。

イスラエル、ユダヤ人の原点ともいえるヤドバシェム(ホロコースト記念館)でさえ、パレスチナ人が掃除している様子に、いまだに違和感を感じる。

ニュースでは、様々なことが報じられるのではあるが、現地で生きている一般のパレスチナ人たちは、おそらく何が来ても驚かず、すかさずなんとか生き残る道を探し出すことだろう。

国際関係でいえば、結局のところ、お金とはよく言われることであるが、結局のところ、アメリカがゴリ押しを通すという姿がペンス副大統領の中東訪問から伺える。

それでも、そういう人間のアグリーないとなみを超えたところに、歴史を動かす神がおられるということなのである。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。