全国ロックダウン可決:秋の例祭含む3週間 2020.9.14

Knesset Spokesperson

国会で3週間の全国ロックダウン可決

イスラエルでは、14日、先週、コロナ内閣が可決していた全国ロックダウンについて、国会での審議を行った。結果、新年祭が始まる9月18日14時から、ヨム・キプール、仮庵の祭と、秋の例祭が全部終了する10月11日までの3週間、全国をロックダウン下に置くことで可決した。

イスラエルでは、2回目の全国規模ロックダウンである。それによると、市民の移動範囲は、自宅から500メートルまで。特殊学校など特別なニーズを抱える学校以外は、幼稚園も含め、16日からすべて閉鎖。職場で働ける人数は50%以下。

食料品、薬局、通信などエッセンシャルとされる店舗と、経済省が特別に必要と判断した店舗以外は、閉鎖。デリバリー以外のレストランは閉店。ジム、プール、ホールなど人々が集まるようなビジネス、文化活動は停止。地域観光、ホテルも閉鎖となる。

シナゴーグなど宗教活動の祈りについては、屋内は10人まで。屋外なら20人までだが、例祭中の規制については、まだ論議が続いており、2日後に最終的な指示が出るとのこと。

www.ynetnews.com/article/UVLPKT4GK

嘆きの壁では、通常、スリホット、ヨムキプールの時期に、10万人とも言われる大群衆がきて、悔い改めの祈りを捧げている。しかし、今年は、嘆きの壁で祈れるのは、同時期に2500人までとされ、チケット制になっている。

エルサレムのグレートシナゴーグでも、毎年、この時期、大勢の人が集まり、美しいカンター(テノール)が代表して、調べにのせた祈りを捧げるのだが、今年は、国の方針に従い、全例祭期間中、閉鎖が決まっている。

大紛糾の国会:ネタニヤフ首相のアメリカ出発前になんとか結論

国民の命を守りたいというコロナ担当ガムズ教授と保健省に対し、例祭中の宗教活動を制限することを受け入れないとするユダヤ教超正統派、経済が回復不能なほどに大打撃を受けるとして猛反対する経済省と、それぞれに正論があり、いったいどうなるのかというほどに紛糾した。

エデルステイン保健相は、ガムズ教授の案を否決しても別の案はないと断言。ユダヤ教超正統派で前保健相、今住宅相のリッツマン氏は、ロックダウンに抗議して辞任を表明。カッツ経財相は、ロックダウンにおける損害は、さらなる倒産と新たに30万人の失業者を噴出し、被害は200億シェケル(6300億円)にのぼると警告した。

しかし、この日は、夜11時に、ネタニヤフ首相が、UAE,バーレーンとの国交樹立に関する署名式のためにワシントンへ出発する日であった。なんとかその前に可決しなければならず、最終的に国会は、ガムズ教授と保健省の案を受け入れ、3週間のロックダウンを可決したのであった。

www.jpost.com/breaking-news/coronavirus-2651-new-cases-on-saturday-death-toll-1103-642074

しかし、Ynetには、「行きなさい。ビービー(ネタニヤフ首相)、病気の祖国を置いて行ってきたらいい。UAEとの合意など、今の国民にはなんの興味もないことだ。」と嫌味を述べる記事も出ていた。

www.ynetnews.com/article/rylBq113Vw

寂しい秋の例祭シーズン

イスラエルは、今は、日本でいえば、大晦日、お正月にあたる時期である。通常なら、人々は新しい服を購入し、ヘアカットに行き、海外からも来る大勢の来客のために、食料を買い込む。海外旅行に出かけたり、家族でガリラヤ湖やエイラットといったリゾート地で過ごすイスラエル人も多い。

しかし、今年は、そういう風景はみられないだろう。例年とはまったく違う秋の例祭シーズンになりそうである。

以下は、9月14日、国会がロックダウンの審議をしている時間帯のエルサレムの町中の様子。この時期には考えられないほど人気がなくなっている。(Jerusalem Dateline)

Join CBN NEWS as we walk down Jaffa Street to Mahane Yehuda Market and #pray for #Israel. The Israeli government will decide if there will be a full #lockdown for the upcoming Holidays.. #RoshHashana #YomKippur

Jerusalem Datelineさんの投稿 2020年9月13日日曜日

イスラエルの深刻な感染状況

イスラエルの感染状況は、非常に深刻になりつつある。国会が紛糾した日曜日の感染者は、2882人(陽性率9%)、死者は、16人で合計1119人となった。100万人あたりの死者は122人である。総人口が、920万人の国としては、容認できる数ではない。

コロナ担当のガムズ教授は、実際には、全国ロックダウンを避けようとして、軍を動員した大規模な、データ管理、クラスター対策のシステムを構築している。しかし、それが完成するのは、まだ先の11月になるという。

それを待たずして今、感染が急拡大しているため、ガムズ教授は、断腸の想いで、今は全国ロックダウンしかないと判断したと思われる。しかし、国民は、責任者であるガムズ教授に厳しい目を向けている。「文句はすべて私の上にある。」とガムズ教授も、少々疲れを見せている。

ところで、イスラエルでは、コロナによる死者の最年少は6歳。最高齢は108歳。高齢者に死者数が多いとは思われるが、年齢別犠牲者の資料は、保健省サイトにもみつけることはできなかった。ホロコーストを通ってきたイスラエルでは、高齢者であれば、犠牲は容認するといった考えが、タブー視されるせいか、あてて出していないのかもしれない。

この状況のまま、家族親族の大勢がともに食事し、シナゴーグなどに集まって祈る秋の例祭に突入すれば、さらに感染が拡大することはさけられないということで、ロックダウンが決まったものと思われる。

国民の反応は?

国会が3週間の全国ロックダウンを決めたことについて、国民はどう反応しているのか。結論からいうと、今の所、特に大きな反発は報告されていない。

今週土曜の12回目となるエルサレムでの反ネタニヤフ首相デモは、国会でのロックダウン審議直前であったが、参加者は1万人と、いつもより増える様子はなかった。数人が逮捕されたが、警察との暴力的な衝突もなかった。

ベングリオン空港周辺では、14日、国会で全国ロックダウンが決まってからすぐ、ワシントンへ出発するネタニヤフ首相に向け、多くの車が道に並ぶ形での抗議デモが行われた。しかし、規模としては数百人であったとのこと。

学校については、3週間の閉校は、ちょうど例祭期間ということで、通常でも休校になる時期ではあった。しかし、3週間後からもまだ開校になるとの保障はないので、5年生以上は、しばらくは継続してオンライン学習になるとのこと。しかし、子供達の20%は、家庭にコンピューターのシステムを持っていない。

コロナが居座りそうな気配なので、ロックダウンはこれで最後ではないといった悲観的な記事もある。経済への大打撃とともに、精神的な打撃もかなり大きいだろう。とはいえ、いかんせん、ここまで来てしまっては、もはや、なんとか乗り切るしかない。

ユダヤ教では、ラビが、この状況下で、「視点を変えたら反対のものが見えてくる」といったビデオクリップを流したりしている。英語だが以下のクリップはおもしろかった。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。