今年も平和に過越し終了 2019.4.28

イスラエルでは、4月19日、過越しが始まった。その翌日からは種無しパンの祭りと続き、27日は、過越の最終日で再び祭日(安息日)となった。この間、学校、政府関係、大手企業は休み。中小企業や、サービス業も半日業務で、いわば大型連休であった。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5496956,00.html

<過越しの大型連休>

過越しはイスラエルにとっては、安息日に続いて重要な例祭である。

紀元前12-13世紀ごろ、イスラエル人は、エジプトで奴隷であった。しかし400年の後、モーセがリーダーとして立てられ、エジプトから脱出する。これを出エジプトという。この時、神はイスラエル人を行かせようとしないエジプトに、10の災いをもたらした。

10番目の災いは、その家の長男が死ぬという災いであった。聖書の神、主は、共にエジプトにいたイスラエル人の家に、この災いが及ぶのを防ぐため、傷のない子羊をほふって、その血を家のかもいにつけておくよう指示した。それがしるしとなり、災いが、イスラエル人の上を「過越し」て行くようにされたのである。

この恐ろしい災いの後、エジプトは、ようやく、イスラエルが出て行くことに合意する。イスラエル人がエジプトから出発急いで出発する際の食事を記念するのが、過越の夜の食事、セダーである。

セダーでは、出発前の慌ただしさで、パンを醗酵させる時間がなかったことから、イースト抜きの種なしパン(マッツア)を食べた。また、苦しいエジプトでの奴隷生活を苦菜で、救い出してくださった主のあわれみを、甘いハロセット(なつめやしなどの混ぜ物)で覚えるなど、特有の食べ物を食べながら、この時のことを語り合い、神の恵みを覚える。

イスラエルでは、ユダヤ系市民の97%が、家族や友人たちとこのセダーを楽しむ。その後7日間、種無しパンの例祭となる。

過越の中日にあたる22日には、嘆きの壁で、祭司(チーフラビとコーヘンファミリーなど祭司の家系にあたる人々)祈りをささげ、その祝福をを受け取ろうと、今年も群衆で埋め尽くされた。嘆きの壁基金によると、半期までですでに75万人が嘆きの壁に来たという。

www.jpost.com/Israel-News/750000-people-visit-Western-Wall-since-start-of-Passover-587868

<家族そろっての行楽>

過越期間は、7-10日の大型連休である。学校や幼稚園の休暇は2週間に及ぶ。この休みを利用して海外旅行をする人も多い。今年も約150万人がベングリオン空港から出入りしたと推測されている。イスラエルは物価が高いので、国内のホテルで過ごすより、海外に行った方がコストは安い場合があるためである。

www.israelhayom.com/2019/04/19/1-5-million-israelis-spending-passover-abroad/

イスラエルでは、今年、異常に雨が多い日が続いたが、過越5日目ぐらいからようやく、晴れた。全国の国立公園は、家族連れで賑わった。過越の1週間だけで、20万人がいずれかの国立公園を訪れたという。

www.timesofisrael.com/50000-visit-israels-national-parks-as-passover-holiday-comes-to-an-end/

エルサレムの公園でも、多くの家族連れが、バーベキューをするなどしてくつろいでいた。平和な光景であった。

<シナイ半島へ旅行するイスラエル人>

毎年、出エジプトの逆をして、シナイ半島(エジプト)への旅行を決行するイスラエル人がいる。いうまでもなく、シナイ半島には、ISがいるとされ、非常に危険である。それでも、毎年行くのだが、今年も4万人が、エイラットから国境を通過してシナイ半島でのバケーションに向かった。

しかし、過越の週末には、スリランカで、教会とホテルを狙ったISによる多発自爆テロが発生し、250以上人が死亡した。イスラエル政府は、直ちに帰国するよう警告したが、帰ったという知らせはない。

www.jpost.com/Opinion/Visiting-Sinai-587813

<キリスト教徒の復活祭>

過越とキリスト教は、深く関連している。イエス・キリストが十字架にかかって死んだのは、過越入りの日であった。当時も、過越の巡礼で各地からユダヤ人たちがエルサレムへ押し寄せていた中で、十字架刑が行われたということである。

言いかえれば、過越の日に、イエス・キリストの命が犠牲になって屠られ、その血が流されたということである。出エジプトの時と同様、その血を、心の扉につける、すなわち、これを信じて感謝して受け入れる時、罰(永遠の地獄行き)という災いは過越していく、罪の支配から解放されるというのが、キリスト教のいう「救い」なのである。

エルサレムでは、過越入りの日、様々な国から来たキリスト教とたちが、大混雑の中、十字架を担ぐなどして、ビアドロローサ(十字架の道)を歩いた。その3日後の日曜、キリストが死からよみがえったことを記念する復活祭が祝われた。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5496966,00.html

なお、キリスト教には西方教会(カトリック)と、東方教会(正教会)がある。先週は西方のカトリックとプロテスタントが、今週は、東方教会が、十字架と復活を記念する礼拝を行っている。

ギリシャ正教の復活祭では、イエスの十字架の場、ゴルゴタの丘とされる聖墳墓教会で、復活を象徴する火が灯され、全世界にその火が運ばれていく。エルサレム旧市街は、この日も大混雑である。

今は、エルサレムが、1年で最もこみあう時期といえる。治安維持のため、イスラエルは、過越しの間は、ガザ、西岸地区からの出入りを閉鎖し、ガザのキリスト教徒(ギリシャ正教がほとんど)がエルサレムへ巡礼に来る場合のみ特別許可を出している。

過越しと復活祭の次は、イスラム教のラマダンが、5月6日からはじまる。ラマダンは、6月4日まで。いろいろ忙しいエルサレムである。

<復活祭とキリスト教会の災難について>

イスラエルでは、今年も平和にユダヤ教の過越し、キリスト教のパームサンデー、グッドフライデー、復活祭と、どれも平和に祝うことができたが、世界では、特にキリスト教会に関連する事故やテロが発生した。ニュースでも流されたことなので、イスラエルに関連するニュースをお伝えする。

1)ノートルダム大聖堂火災とユダヤ人迫害の傷

復活祭の5日前の4月16日、パリのノートルダム大聖堂の塔が火災で焼け落ちた。これについては、テロではなく、改修工事中の事故とみられている。

これについて、1960年にフランスからイスラエルへ移住したラビ・シュロモー・アビナーが、1242年にノートルダム寺院前で、タルムード(ユダヤ教書物)を燃やしたことへの神の報いかもしれないと発言した。

また、「教会はユダヤ人にとって最大の敵。燃やしてもかまわないが、イスラエルでは燃やしてはならない。燃やした後、それを建て直す事を余儀なくされるから。その方がもっと悪い。」とコメントし、問題となった。

www.timesofisrael.com/radical-rabbi-says-notre-dame-fire-retribution-for-13th-century-talmud-burning/

このラビは過激と目されているが、フランスはじめヨーロッパのユダヤ人が、限りなく恐ろしい迫害、暴力を、教会という組織の中で受けてきたことは事実。その象徴の一つが、ローマ法王の命により、ノートルダム寺院前広場で、1942年に、タルムードなどユダヤ教聖典が、少なくとも1万冊焼却された事件である。

本を燃やすということは、やがては人間を燃やすことにつながるとも考えられている。ナチスドイツも、迫害の初頭にユダヤ思想系の書物を焼却したのであった。

ノートルダム寺院は、12世紀から残る建築物として、世界遺産にも指定され、世界中がこの火災を惜しんでいる。しかし、ユダヤ人からみれば、恐ろしい時代の遺産でもあるということである。

2)スリランカのカトリック教会:無期限で礼拝中止

スリランカでは、復活祭を祝うキリスト教会と、ホテルにいる外国人客をねらった連続自爆テロが発生。250人以上が死亡。500人以上が負傷した。イスラエル人の犠牲者は、なかったようだが、イギリス系ユダヤ人(母はカトリック)のティーンエイジャー2人が死亡した。

www.timesofisrael.com/family-of-jewish-teens-killed-in-sri-lanka-talk-of-loss-plans-to-set-up-charity/

このテロについては、IS関連の地元イスラム過激派9人が犯行声明を出した。

スリランカの治安部隊が、全力を挙げて追跡していたが、金曜、北部の町で、犯人らが潜んでいた家に治安部隊が踏み込んだところ、自爆したため、子供6人を含む15人が死亡した。

首謀者とみられるザハラシ・ハシムがみつからなかったが、のちに最初のホテル攻撃時に死亡していたとスリランカの大統領が発表した。

ISはまだ130人が、スリランカにひそんでいるとみられ、治安部隊は、まだ捜査を続けている。

今日は、復活祭での大規模テロから1週間後の日曜となるが、カトリック教会は、日曜礼拝はしばらくキャンセルすることを決めた。福音派などプロテスタント教会はおそらくキャンセルにしていないと思われるが、無事を祈るのみである。

www.timesofisrael.com/sunday-mass-canceled-across-sri-lanka-a-week-after-bombings/

一方で、犯行が、イスラム過激派によるものであったことから、今度は、逆に一般のイスラム教徒たちに危険がせまっているとも懸念される。スリランカ政府は、イスラム教徒に対し、金曜は自宅で各自礼拝するよう、指示した。

来週からはラマダンなので、まだまだ危険は続くとみられる。

イスラエル政府は、スリランカにいるイスラエル人に、すぐに帰国するよう呼びかけた。アメリカ大使館も、自国民に対し、礼拝の場に近づかないよう、警告を出している。

www.bbc.com/news/world-asia-48074702

<石のひとりごと>

こうしてみると、エルサレムで、ユダヤ教、イスラム教、キリスト教、それぞれが聖地として、平和に巡礼ができるよう、効果的に治安が守られていることは、高く評価するべきであろう。

イスラエルも、過去に数多くの自爆テロを経験し、市民を1000人近く失った。その苦しい経験から、今は、治安部隊が日夜働いて、テロが発生する前に、ほとんどを摘発してくれている。

ISがシリアでの領地を失った今、世界のいつどこで、こうしたテロが発生するともわからない時代になった。悲しいがイスラエルの情報収集能力と防衛能力が、世界の役にたつようになるのかもしれない。

それにしても、ここ数年、中東だけでなく、ロシア、中国、インドなど、様々な地域で、キリスト教会への暴力的な迫害や、政府による宣教禁止令などが、じわじわと進んできている。日本では、その気配はまったくないが、いよいよそういう時代がせまってくるかもしれず、緊張感を覚える。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。