パレスチナ自治政府崩壊の懸念 2019.5.2

パレスチナ自治政府のアッバス議長が、イスラエルが代理で徴収している貿易上の税金の受け取りを拒んでいる。このままであれば、パレスチナ自治政府の経済が崩壊し、そのまま自治政府が崩壊する懸念が高まっている。

時期的にはアメリカが、長く保留になっている中東和平案を6月に発表する前であり、今、自治政府が崩壊することは、イスラエルにとっても好ましい状況ではない。

パレスチナ自治政府は、トランプ政権が、テロに使われているとしてUNRWA(国連パレスチナ難民救済事業期間)への支援を打ち切るなどで経済危機に陥っていた。このためガザへの送金も滞り、ガザ情勢の悪化を幇助した形である。

さらに2月、イスラエルは、自治政府が、イスラエルの刑務所にいるパレスチナ人テロリストの家族に補償金を払うのは不当だとして、その分、約半分にあたる税金1億3800万ドルの送金を差し止めた。

しかし、その後の自治政府の様子から、イスラエルは1億8200万ドルの税金を送金すると申し入れた。ところが、アッバス議長がこれを拒否しているのである。イスラエルからの税金は、パレスチナ自治政府の予算の半分以上を占めているため、その資金が滞ることは深刻な事態といえる。

アッバス議長によると、アラブ諸国に、借金扱いで、月1億ドルの支援を要請したという。日曜、アラブ同盟は、イスラエルが差し止めた分として1億ドルを約束したが、本当に送金されるかどうかは不明。

自治政府が崩壊した場合、暴力的なインティファーダに発展したり、ハマスが西岸地区を乗っ取る可能も懸念ある。結局、イスラエルが、パレスチナ人で溢れる西岸地区の面倒を見なければならなくなるだろう。

西岸地区のパレスチナ人をイスラエルにとりこめば、アラブ人人口が上回る日もそう遠くなくなり、民主国家イスラエルがユダヤ人の国として維持できなくなる。

パレスチナ自治政府の崩壊は、イスラエルだけでなく、ヨルダン、エジプトにとっても好ましい状況ではない。アッバス議長が、アメリカとの関係を断絶しているので、アメリカが介入することはできないとして、今、ヨルダンとエジプトが仲介に乗り出している。

www.timesofisrael.com/jordan-egypt-said-to-mediate-between-israel-and-pa-over-tax-transfer-standoff/

<西岸地区パレスチナ人は白けている?>

アルーツ7が伝えたところによると、西岸地区のパレスチナ人たちからは、この問題に関して白けているとのこと。パレスチナ人たちの中には、汚職にまみれたアッバス議長が失脚する事を望む人も少なくないのである。

パレスチナ人の多くは、ひそかに、いっそのこと、イスラエルが支配するほうがましと考えているとこの記事は伝えている。しかし、それがイスラエルにとってよいことなのかどうかは不明。

www.israelnationalnews.com/News/News.aspx/262545

今回は国会入りできなかったナフタリ・ベネット氏だが、西岸地区を効果的にイスラエルの参加に入れ、パレスチナ人には、民政だけの自治を認めるといった方策が思い出されるところである。

<石のひとりごと>

非常に難しい状況である。ネタニヤフ首相は、よほどの知恵をもってタイミングを逃すことなく決断し、動かなければならないだろう。しかし、ネタニヤフ首相を週3回は見ているというベテランの記者によると、ネタニヤフ首相は、その場その場で動いているだけで、ビジョンがないと言っていた。

新ネタニヤフ政権はまだ発足していないが、第21代国会は、30日に就任した。国会は、リクード(右派系)とブルーアンドホワイト(中道左派系)は議席半々である。今後、ネタニヤフ首相と政府国会の決断が導かれるように祈りが必要である。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。