目次
タリバンがアフガニスタンをスピード制圧
アフガニスタンから米軍が撤退を完了する2週間前になり、アメリカの予想を大きく外れてイスラム武装組織タリバンが、ほぼ全土を掌握。
15日には首都カブールにも入って、大統領府を占拠し、勝利宣言を発した。このニュースは連日、世界を震撼させている。
この直前の15日午後、アメリカ傀儡のガニ大統領は、カブールを脱出。脱出先のカザフスタンから、タリバンが首都を制圧したことを認め、ガニ政権の崩壊が決定的となった。まもなく、「アフガニスタン・イスラム首長国」発足の宣言が出るとみられている。
20年ぶりにタリバンが政権に復帰することにより、アフガニスタンがまた再び厳しいイスラム政権となり、女性の権利も著しく悪化すると懸念されているが、タリバンからは、旧政府職員を恩赦にするとか、女性の権利は守るとかの柔軟な発言が発せられている。
しかし、だれもそれをそのまま信用するわけもなく、皆、自己防衛のために必死の脱出を試みている。
アフガニスタンにはまだ1万1000人のアメリカ人とアメリカに協力したアフガニスタン人が数え切れないほどいる。
カブールの空港では、アフガニスタンから脱出しようとする人々で溢れ、群衆が、滑走路にまで出て、離陸する飛行機にしがみつくまでになた。その後、落下しするなどして少なくとも7人が死亡している。
離陸した飛行機の中は、640人がぎっしり座っている。エチオピア系ユダヤ人がイスラエルへ移送された時の様相が思い出されるが、ここまでのぎっしりではなかったように思う。
上空では、各国外交関係者たちが撤退するヘリコプターが飛び交っている。アメリカは、自国民の安全な撤退のため、5000人の部隊を派遣。イギリスも同じ目的で800人からなる部隊を派遣しているとのこと。
アメリカと国際社会は、20年前にタリバンを追放して、自分たちの価値観にあった政府を擁立しようとしたが、結局またもとの木阿弥、前のタリバン政権を復活させてしまったということである。バイデン大統領は、これほど早いとは思わなかったとして、認識の甘さを認めたものの、米軍の撤退については、正しい決断であったと述べている。
*タリバン政権とは
アフガニスタンの内戦は筋金入りである。1978年に共産主義政権が発足したが、その後、反政府勢力(ムジャヒディーン)との内戦が続いたため、1979年に旧ソ連が侵攻、介入する。
それから旧ソ連軍が撤退する1989年までをアフガニスタン戦争と呼ぶ。この間に、アフガニスタンで、オサマ・ビン・ラディンが頭角してくるのである。
旧ソ連が撤退した後も、政府軍と反政府勢力の戦闘は続いた。タリバンは、この時代の1994年に結成されたスンニ派イスラム原理主義組織。
タリバンは、ジハード(聖戦)を全面に出してテロ活動を行い、やがてアフガニスタンを支配するようになった。その後、様々なイスラム原理主義組織が合流したがその中にアルカイダも含まれていた。
2001年9月11日、アメリカで同時多発テロが発生。2977人が死亡する。当時のブッシュ米大統領は、アフガニスタンに潜伏していたアルカイダのオサマ・ビン・ラディンが首謀者と突き止め、そも身柄を引き渡すよう、タリバンに要求した。
しかし、タリバンがこれを拒否したため、アメリカはアフガニスタンを攻撃。タリバン政権は崩壊となった。アルカイダもその後、表舞台からは、消えたような状態となった。
しかし、タリバンは、その2年後の2003年からまたテロ活動を開始していたのであった。
アメリカのアフガニスタンでの20年間
タリバン政権が崩壊したことから、アフガニスタンで、アメリカと、国連は40カ国以上の連合国からなる国際治安支援部隊(ISAF)を配置し、アフガニスタンに暫定行政政府(カルザイ議長)を擁立した。
アメリカとISAFは、暫定政権と政府軍を支援して、2003年にはまたテロ活動を再開していたタリバンを抑えられるようにと訓練を続けた。
そのうち自立してもらうためであったが、話はそう簡単ではない。アメリカは、地元アフガニスタン政府とその正規軍を訓練すると言っていたのだが、実際にはこれが実現不可能であったとも言われている。
アフガニスタンでは、長年の内戦で、若者の多くは字も読めず、負傷して手足のない者も多い。国内では電気の供給が極端に少ないという環境である。
そんな環境で、アメリカ軍の最新兵器を導入して訓練するなど無理なはなしであった。実際には、訓練どころかアフガニスタン政府は、アメリカに依存することを覚えただけの20年間であったようである。
政府軍の給与はずっとアメリカが支払ってきたのであり、その中で、汚職も明らかになってきていたとのことである。
こうした中、2003年には、タリバンが政府軍への攻撃を再開。アフガニスタン軍とタリバンが戦闘を繰り広げて、泥沼の様相になっていく。
一方、ISAFは、活動開始から10年後の2014年、その任務を終えたとして、アフガニスタン政府に治安維持の責任を正式に移行して撤退した。NATOなど連合軍の死者は1144人であった。
アメリカは、その後も撤退できず、政府軍を支援しながら治安の維持を図ってきた。アフガニスタンで戦死した米兵は、この4月までで2448人。アメリカ人土木建築関係者3846人となっている。アメリカは、アフガニスタンのために、この20年の間に830億ドル(約9兆円)を費やすこととなった。
一方、アフガニスタン人では、政府軍兵士、警察官の犠牲者は6万6000人。タリバン5万1191人。市民犠牲者4万7245人である。
www.usnews.com/news/politics/articles/2021-08-14/costs-of-the-afghanistan-war-in-lives-and-dollars
以下は、2019年4月時点でのアフガニスタンの様子。人々は、アメリカにタリバンへの圧力を期待していたようである。
アフガニスタンで、井戸の建設などをNGOとして取り組み、アフガン政府から名誉市民の称号も贈られていた日本人ボランティアで、医師の中村哲さん(73歳・日本バプテスト連盟・香住ヵ丘バプテスト教会所属)が、銃殺されたのは、このころの2019年4月のことであった。
トランプ前大統領は、こんな泥沼のアフガニスタンに多額の費用と米軍兵士の命を捧げる価値はないと判断したのだろう。
昨年2020年2月、政府軍ではなく、タリバンとドーハで直接会談を実施。和平交渉が成り立ったとして、米軍は2021年5月までに、アフガニスタンから完全に撤退すると約束した。
しかし、この後、泥沼状態はさらに悪化する。アメリカがタリバンと直接交渉したことから、タリバンの勢いが出てくると見たアフガン軍はタリバンへの空爆を激化させていくのである。これにより、特に2020年1-6月には、多くの市民のが犠牲、特に子供たちの犠牲が増えていくこととなった。
この状況を引き継いだバイデン政権は、911事件から20年を記念して9月11日までに撤退すると若干の延期を発表。その後8月いっぱいで撤退を完了すると発表を改めたのであった。
アメリカの甘い認識
アメリカは、米軍撤退後、数ヶ月後にはタリバンが勢力を伸ばしてくるかもしれないと言っていた。それが、予想外にも数週間で、しかも米軍撤退が完了する2週間も前にほぼ全国と首都カブールの占拠をなしとげてしまったということである。なぜそのようなことになったのか。
そこには、上記のように、欧米とは全く違う環境、また文化、倫理観も違う中で、アメリカのアフガニスタン軍事支援が機能していなかったという事実があげられている。加えて、アメリカは撤退を発表すると同時に、それまで支払っていたアフガン政府軍兵士への給与を支払わなくなっていたという。
結果的にアメリカは、2020年時点で、タリバンの兵力が7万人であるとこころ、政府軍は30万人とみていたが、アメリカの軍アカデミーのウエストポイントの読みでは、実際の兵力は18万5000人。そのうち稼働可能なのは60%だけで、さらに空軍の8000人を除けば、地上で戦える政府軍は、9万6000人と推測されていた。
さらには、そこからタリバンに寝返ったものが多数いたとみられている。
タリバン最初の記者会見:最後のユダヤ人の安全も保証?
タリバンは17日、カブールで、最初の記者会見を行った。ザビフラ・ムジャヒッド報道官は、世界諸国と平和な関係を望む。国内外に対立を求めないと表明した。また女性が働くこと、勉強することも認める。イスラムの認識の中ではあるが、女性も社会で活発の生きることを認めると述べた。
また、旧政府関係者への報復をしないと宣言。だれにも危険が及ぶことはないと繰り返した。メディアの活動も認めるとも述べた。
www.jpost.com/international/taliban-holds-first-press-conference-since-victory-676980
これとは別に、イスラエルのチャンネル12のカン・ニュースが、電話で、タリバンのシュヘイル・シャヒーン報道官(在カタール)へのインタビューを行った。
シャヒーン報道官は、「人々は逃げる必要はない。昔と違って平和が来る。」と、今のタリバンは世界が恐れているようなことはしないと述べた。
カン・ニュースが現在アフガニスタンに最後のユダヤ人として残されているゼブルン・シモントーブさん(61)についてはどうするのかと聞くと、そのユダヤ人については知らないとしながらも、少数派に危害を加えることはないと述べた。
アフガニスタンには2000年前からユダヤ人コミュニティがあった。その後、イスラエルが建国すると、徐々にユダヤ人はイスラエルなどへ出国していったとみられる。
シモントーブさんは、アフガニスタン生まれ。内戦を逃れてタジキスタンに逃れたが、またアフガニスタンに戻り、最後のユダヤ人として一人でカブールのシナゴーグを守っていたのであった。しかし、シモントーブさんの妻(タジキスタン人)と2人の娘は1998年からイスラエルに住んでいるとのこと。
www.jpost.com/international/the-last-jew-in-afghanistan-is-staying-report-677002
シモントーブさんも、今年の秋の例祭までに、アフガニスタンを離れるといっていたが、今は、国を離れるつもりはないと表明しているとのこと。
シャヒーン報道官は、過去20年の間、アメリカはアフガニスタンに民主主義を持ち込もうとしたが、それは占領であって、アフガン人が求めるシステムではなかったと述べた。また、「タリバンは、アメリカを含む国際社会と対話の用意がある。アメリカとも良い関係を望んでいる。」と述べた。
www.timesofisrael.com/last-jew-in-afghanistan-will-be-safe-taliban-official-tells-israeli-news/
なにやら前のタリバンとは様相が違っているが、まだそのまま信じる国や人々はないと思われる。
これからどうなるのか:イスラエルへの影響は
懐柔的な発言をしているタリバンだが、アメリカ政府は、これからの実際の動きを見守るとしている。
タリバンが今後、本当にしっかりした近代国家になり、国際社会と強調するような国になった場合、隣国イラン(アフガニスタンと違うスンニ派)、中国、ロシアには邪魔な存在になっていくと思われる。
しかし、たとえどんな国なったとしても、タリバンという過激派組織がアメリカに、予想外の展開というある意味不細工な撤退をさせたことには変わりはないため、今後、反米・反西側的な過激派組織が勢い付き、アメリカや世界各地でテロ活動を活発化させていく可能性が懸念されている。
最悪なことに、アメリカが撤退したことで、テロ組織の温床になるとみられるアフガニスタンでの情報収集の拠点がなくなったということである。テロ活動を未然に察知することが難しくなったとも懸念されている。
www.facebook.com/INSS.IL/posts/4465808856802574
イスラエルでは、タリバンと同じスンニ派勢力であるハマスの動きが懸念されている。ハマスは、16日、タリバンのアフガニスタン制覇について、「アメリカの”墜落”を実現した。20年以上の戦いが勝利をもたらした。」と祝賀を表明。
続いてイスラム聖戦もタリバンに「西側とアメリカの占領政策から土地を取り戻した。」と祝賀を表明した。
ハマスは最近、カタールに駐留するイシュマエル・ハニエが、カタール首都ドーハで、タリバン代表らと会談する様子を報じていたのであった。
ハマスがこの勢いで、西岸地区のいわば”政府勢力”である自治政府を追放して、を乗っ取る可能性も0ではない。パレスチナ自治政府は、今やイスラエルの助けなしには生き残れない事態になったともいえる。
www.timesofisrael.com/hamas-praises-taliban-for-causing-american-downfall-in-afghanistan/