中東危機とアメリカとの関係
イスラエルとハマスの戦争、ヒズボラとの衝突がエスカレートする中、ブリンケン国務長官が中東を今駆け巡っているのは、その背後にいるイランの存在がある。
イランは、先進諸国との核兵器開発問題についての交渉が頓挫したことから、核兵器開発を急速に進めている。また先進諸国との交渉が頓挫したことで、イランは、もはやブレーキがかける必要もなくなっており、フーシ派を使って紅海の世界の海運を妨害するという動きにも出ている。
そのイランとの関係が急速に深まっているのが、ロシア、中国という、アメリカにとっては、敵対する2大諸国という事態である。
また、南北国境から攻めようとするハマスもヒズボラも、イランの支援で成り立っている組織である。さらには、イランの核兵器開発の目的は、イスラエル殲滅なので、今、イスラエルが、そのすべての大元であるイランを攻撃しようとしてもおかしくはない。
特にイスラエルの現政権は強硬右派政権で、国内世論と大揉めに揉めている不安定な状態なので、国内統一のためにもイランという共通の敵を出してくる可能性も否定できない。
またイランも、現イスラム政権への反発勢力が多数おり、その一つであるISが、故スレイマニ司令官の追悼イベントで大規模な爆破テロをする事態になっており、こちらも国統一のために、共通の敵イスラエルへの攻撃をさらに明確にしてくる可能性もある。
ブリンケン国務長官が懸念するように、中東情勢は今、一発触発状態だが、アメリカはイスラエルとは同盟国なので、その中にしっかり巻き込まれている状態である。ブリンケン米国務長官は、この状況の中で今、中東を歴訪しているということである。
今、アメリカが中東で直面している主な項目は以下の通り。
1)イスラエルとハマスの戦争で進んだ?イランの核兵器開発
イランは、先進諸国との核兵器開発に関する交渉を行なっていたが、トランプ大統領率いるアメリカが離脱するとイランも離脱し、イランは核兵器開発を再開するようになった。
バイデン大統領になってからは、イランとの核兵器回月問題に関する先進諸国とイランとの交渉再開と、アメリカの交渉への復帰を目指した。しかし、交渉は難航し、最終的には座礁した形となっている。
欧米諸国がイランへの経済制裁をする中、足並みが崩れ、特に中国やロシアとの貿易が急増しており、経済制裁の効果は薄れていった。イランは、核兵器開発を加速させ、核爆弾に必要なウランの濃度が90%であるのに対し、60%にまで上昇させている。
そうした中2023年夏、バイデン政権は、イランで捕虜になっているアメリカ人5人と、アメリカで収監されているイラン人7人を交換するという交渉を始めた。
同時に、アメリカが韓国で凍結しているイランの資産60億ドルをカタールに送って、イランがアクセスできるようにするという交渉である。アメリカは9月に、60億ドルをカタールへ移動させていたが、まだイランにはアクセスはない状態であった。
その後に始まるのが、10月7日のハマスのイスラエル奇襲とそれに続く戦争である。アメリカは、この60億ドルについて、10月12日に、イランにはアクセスできないようにしたことを明らかにした。
jp.reuters.com/markets/japan/funds/EGB22M6Q2RJPZK5VN3KLKRIUJM-2023-10-12/
イランの経済は、国際社会からの経済制裁もあり、かなりのインフレで、国内の不満が高まっている。
イスラム主義政府による女性差別問題もあいまって、今のイスラム政権には国内からも批判が出始めており、アメリカとの交渉は成功させたかったとみられる。交渉がすすんでいた間、イランは、静かにしていたとNYTは指摘している。
この流れからして、イランが言っているように、ハマスのイスラエル攻撃を前もって知らされていなかったとみられている。イランがアメリカとの交渉中であることを知っていたハマスが、イスラエル襲撃をイランに止められる可能性や、情報がイランから西側、イスラエルへ漏れることも懸念していた可能性が考えられている。
しかし、ハマスとイスラエルの戦闘が始まった今、その交渉も核兵器開発についての交渉も、すべてが頓挫した。
イランは、もはやアメリカに配慮する必要がなくなったか、ヒズボラやフーシ派まで動員して、イスラエルを全方向から攻撃する体制になっている。
さらには、急速に核兵器開発を再開している。国際調査団によると、昨年12月末時点で、イランは、ウランの濃縮を3倍にしており、すでに少なくとも核兵器3発分のウランを保有しているとのこと。それを爆弾レベルにするのに数週間しか、かからないという。
www.nytimes.com/2024/01/07/us/politics/iran-us-israel-conflict.html
今の所、イスラエルは、ヒズボラとの衝突に乗り出す気はないようであり、ましてやイランに明確な攻撃をする様子はない。その背景には、アメリカの強い圧力もあると考えられるが、実際、かなり慎重にしないと、中東から世界を巻き込む大惨事になることは間違いないからである。
またイランも、今のところは、支配下にある組織を動かすだけで、イラン本体がイスラエル攻撃に出る様子はない。
しかしながら、今後のイランの核兵器開発の状況しだいでは、イスラエルは躊躇なく動くと思われるので、要注意である。
2)紅海で世界の運輸船を攻撃するフーシ派:アメリカ有志連合軍が対立
イスラエルとハマスの戦争が始まった後、11月から、イエメンに基盤を置くフーシ派が、ガザのパレスチナ人を支持するといいながら、紅海を通過する世界の輸送船を襲撃する事件が今も続いている。すでに23回以上となっている。
フーシ派はイスラエル船籍を攻撃すると言っているが、実際には、日本の郵政が関係するなど、イスラエル意外の国が被害を受ける形になっいる。
安全のため、紅海の通過を停止する運輸業者が増えて、世界の物流が影響を受けている。
アメリカは昨年12月に、空母をアデン湾に展開させ、イエメンへの空爆の可能性を見せて、フーシ派を牽制。また10カ国からなる有志連合を立ち上げ、フーシ派に対立する意志を見せている。
www.nikkei.com/article/DGXZQOGN190A80Z11C23A2000000/
2)シリア・イラクで続いているイラン系組織とアメリカの衝突
イスラエルは、イランからヒズボラへの軍事支援を徹底的に妨害するため、主にシリア領内、また時にイラクにもあるイラン関連施設への攻撃を結構大胆に続けている・
こうした中、シリア、イラクでは、イランに関係する過激派組織と、中東に駐留するアメリカ軍との衝突もまた、エスカレートする傾向にある。アメリカが今も中東に軍を置いているのは、IS以来の過激派の動きを牽制することが目的とされ、イラクには2500人、シリアには900人が駐留している。このほかサウジアラビアなどにも駐留させている。
イスラエルとハマスの戦争が始まるとまもなく、イラン革命防衛隊が、シリアとイラクの米軍駐留基地への攻撃を繰り返し、アメリカが、シリア東部のイラン関連施設を空爆し返すという事態になっていた。
米軍による攻撃の回数は100回を超えていた。
こうした衝突は、全部ニュースにならないまま継続しており、今年5日には、アメリカ軍は、攻撃されたことへの反撃だとして、バグダッドへの攻撃を行なっている。
こうした混乱の中、イランでは、4日、4年前にアメリカのドローンで暗殺された故イラン革命防衛隊カッサム・スレイマニ総司令官の墓の近くでの記念イベントで大規模な爆破テロが発生。最終的には、84人が死亡する事態となった。
イランは当初、イスラエルを非難したが、犯行声明は、アメリカが取り締まっているはずのISからであった。ISはスンニ派なので、シーア派のイランにとっては敵ということなのである。
なにがなんやら混乱している中東。アメリカはいわば泥沼に入ったような状態である。もしアメリカ大統領選挙でトランプ氏が、大統領に返り咲いた場合は、米軍はここからも撤退する可能性がある。