ロシアで拘束のイスラエル人女性をめぐって 2019.10.21

中東が大きく変化する中、アメリカとロシアの力関係も変わりつつある。イスラエルもサバイバルをかけて、米露との関係を中心に、外交の駆け引きを続けている。そうなると、捕虜などで国民がとられた場合、それが駆け引きに使われることになる。

今年4月9日、アメリカ国籍で、イスラエル人でもあるナアマ・イッサカルさん(26)が、モスクワ経由でインドへ旅行した帰り、モスクワで、カバンの中にわずか9.6グラムの大麻が発見され、逮捕された。

ナアマさんは、麻薬密輸犯として、7年半の実刑判決を受け、そのままモスクワに拘留されたままになっている。

ナアマさんは、大麻がカバンに入っていることを忘れていたという。しかし、9グラムといえば、スティックシュガーほどの量で、イスラエルでは、医療用などで大麻を合法化する道も開かれ始めている。

しかも、モスクワには、トランジットで立ち寄っただけで、ロシアに麻薬を密輸するという道理もないわけである。イスラエル政府は、この判決が重すぎるとして、ロシアにナアマさんの身柄を引き渡すよう、要請した。

するとロシアは、2015年にイスラエルで拘束されたロシア人ハッカーのアレクセイ・ボルトブとの交換だと返答した。ボルトブは、クレジットカードのハッキングで、主にアメリカ人から莫大な金を奪い取った人物。イスラエルの最高裁は8月、ボルトブをアメリカへ移送することを決めた。

しかし、ロシアは、イスラエルにボルトブの身柄引き渡しを要求していた。イスラエルはこれを断っていたが、今、ナアマさんが、ボルトブとの交換に利用された形である。

www.timesofisrael.com/israel-hoping-woman-jailed-in-russia-will-be-freed-by-putin-visit-in-january/

ナアマさんの母親ヤッファさんは、政治的な策略で娘はスケープゴートにされるということだと思うと語り、一刻も早く娘をとりもどしてくれるよう、政府に要請した。

この件については、先にネタニヤフ首相がモスクワを公式訪問した際にも、プーチン大統領に要請が出していたが、受け入れられなかった。ネタニヤフ首相は、家族からの要請を受け、先週、再度プーチン大統領に要請を出した。

リブリン大統領も、プーチン大統領に、「ナアマは、間違いを犯したし、本人もそれを認めています。しかし、彼女には犯罪記録はないし、まだ若いうちにこうした判決を受けて、人生に及ぼす影響は大きいと思います。」と語り、恩赦を求めた。

www.timesofisrael.com/rivlin-pleads-with-putin-to-pardon-israeli-woman-jailed-in-russia/

プーチン大統領は、来年1月、アウシュビッツ解放75周年(旧ソ連軍が解放)を記念する式典のために、イスラエルを訪問することになっている。ナアマさんはこの時に返還されるのではないかと期待されている。

イスラエルは、期待にはずれてアメリカがシリアから撤退。ロシアがナアマさんを返還しないなど、ネタニヤフ首相が、頼りにしてきた米露との関係に影が及んでいる様子に、ネタニヤフ首相の外交の結果を疑う記事もある。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5608395,00.html

<石のひとりごと>

イスラエルは、今日はまだ例祭最後の国民の休日で、エルサレムの町も静かで平和そのものである 。イスラエルをとりまく中東情勢、内政も複雑で緊張が高まっているのではあるが、それとはほぼ無関係に、人々は平和を享受している。

しかし、この平和が当たり前でなく、いつ崩れてもおかしくないことは、だれもが承知の上である。心と実際の準備は、みなそれぞれの責任で覚悟している。

日本では、イスラエルのような戦争はないのだが、災害という大きな敵がやってくる。イスラエル人に学び、心を含めてできる限りの準備を行い、実際に難が来たときには驚かず、あわてず、周囲を助ける余裕を持っておきたいと思う。

今被災地で支援活動を行っているすべての働きの上に主のお導きと祝福を祈ります。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。