レバノンとイスラエルの海洋境界線に関する交渉が、アメリカ(アモス・ホフスタイン・エネルギー担当大使)を仲介として、この1年ほど続けられていたが、ようやく両国が“歴史的”な合意に至ったと報じられた。
歴史的と言われるのは、まだ国交がなく戦争状態のままにある両国が、至った合意であるからである。
境界線が決められないままであったは、図のように細長い三角のエリアで、海底にカリシュとカナの石油、天然ガス油田があるエリアである。
ライン1はイスラエルが国連の合意の元主張していたラインで、カリシュもカナもその半分はイスラエル領となっている。次にレバノンが主張していたラインは、ライン29で、カナとカリシュも半分はレバノン側になっている。
今回の合意によると、カリシュの石油・天然ガス油田はイスラエル側へ、カナの油田は、レバノン側に入ることになるとのこと。ただし、レバノンで採掘が始まった場合は、収益の17%程度は使用料として、イスラエルに支払うことになっている。
ラピード首相は、この件を、治安閣議、続いて閣議に提出して審議を行い、両方から合意を得た。現在は、国会に合意内容を提出し、検討する時となっている。審議投票が行われるのは、総選挙の後になるとのこと。
イスラエルはすでに、カリシュでの採掘準備を始めており、これに反発するヒズボラは攻撃を示唆していた。しかし、イスラエルは、ヒズボラに逆の脅迫を返しつつ、先週から、エネルギー不足問題に直面しているヨーロッパへガスを配送するパイプラインのテストを開始した。合意成立が完了したら、すぐにも、搬送を開始するみこみとなっている。
レバノンでは、交渉にあたっていたアウン大統領が、6日、この合意を正式に受け入れると発表した。アウン大統領の任期は、10月末までなので、ぎりぎりのところでの合意ということである。
今、この時期にイスラエルが合意に至った背景には、アウン大統領退任後、レバノンが再び無政府状態に陥る可能性もあり、そうなると、イスラエルは、この先ずっと、ガスをヨーロッパへ送ることができないということが考えられる。
この合意について、真っ先に、歓迎を表明したのてのは、バイデン大統領であった。ヨーロッパにとって、エネルギーの脱ロシア依存に一つの追い風になるからである。
レバノンでは、まだカナでの採掘を開始する準備はないが、CNNによると、フランス企業が採掘準備を始めるとのこと。これが、現在経済も社も崩壊状態にあるレバノンに立ち上がるきっかけにならないか期待される一方、本格的に採掘が始まれば、その収益が全部、ヒズボラとその背後にいるイランに入ることになるのではないかとの懸念も出ている。そのせいなのか。。?今のところ、ヒズボラが攻撃してくる様子はない。
www.ynetnews.com/article/rj5rpasmj
この合意はイスラエルにとって良いのか悪いのか?
イスラエルでは、ネタニヤフ氏はじめ右派勢力からは、領海とともに、カナの油田をレバノンに引き渡すことへの合意は、実質「降伏」であり、イスラエルの防衛上、相当に危険だとの意見が出され、賛成派と反対派に分裂がみられる。メディアをみても、合意にに賛同するところと、そうではないところとの書き方に差がある。
こうした状況の中、ラピード首相とガンツ防衛相が、合意がイスラエルにとってよいものであるということを以下のように発表した。
1) 戦争からの回避:正式にイスラエル領海となれば、ヒズボラは攻撃できない。この合意で戦争回避となった。
2) ガスの収入はかなり大きく、イスラエル経済の大きな助けになる。
3) ガスからの収入で、レバノン政府を強化することで、脱イラン依存につながる。(ガンツ防衛相)
また、反対派からは、暫定政権が、これほど重要な合意を行って良いのかとの反発について、アメリカを介したレバノンとの交渉は、ベネット政権の時代から行われていたもので、その結果がたまたま今になっただけであり、選挙前にあわてて合意しているのではないと強調した。
また上記のように、今合意しなければ、アウン大統領が退陣し、次にいつ責任ある指導者が出てくるかわからないという点も指摘した。また仲介に立っているアメリカが、将来、レバノンがカナ油田から収益を得るようになった場合、それがヒズボラに絶対に流れないよう保証するとの約束があるとのこと。
ベネット前首相は、「この合意は決して喜ばしいものではない。総選挙にこれほど近い時にこれほど重要な合意に至るのも好ましくない。
しかし、近づいていたヒズボラとの戦闘を阻止したのであり、それは国民を守る国としては最優先させるべきこどであった。」と、好ましくないこではあるが、現状を考えると、合意はせざるをえない時期であったとの考えを語っている。