ヨルダン渓谷テロで重傷の母死亡:妻娘3人失ったラビが記者会見 2023.4.11

死亡したルーシーさん(48) りなさん、マイアさん

7日にヨルダン渓谷で発生した残虐なテロ事件。ユダヤ教ラビのレオ・ディーさんの娘、マイアさん(20)とリナさん(15)は現場で死亡。2人の母で、レオさんの妻ルーシーさん(48)は、瀕死の重傷となり病院に搬送されていたが、3日後の10日、死亡した。

家族は、病院スタッフに感謝を伝え、ルーシーさんの体を臓器移植に提供した。その後の情報によると、ルーシーさんの臓器を受けて、5人が生きながらえることになったという。

葬儀は本日行われる。

仲の良いラビ一家である。妻であり母、また姉妹たちを一度に殺された家族は、今7人から4人になってしまった。父親のレオ・ディーさんは、10日、記者会見を開き、事件の経緯から、世界に向けて強いメッセージを発信した。

「みなさん。私たちには善悪を察知する力がある。ユダヤ人は聖書を読むので、善悪に違いをさらに学んでいる。だから私とルーシーは、子供たちを高いモラルの中で育ててきた。みなさんもどうかその善悪を見分ける力、正しいこと間違いを見分ける力を働かせてほしい。テロは悪である。私たちはなんであれテロを容認するべきでない。

しかし、世界はイスラエルでのテロはまともにとりあげない。まずそこにいることが間違いだというのだ。その場合、テロは悪ではないということか。

ある女の子が、砂浜で砂の城を築いていた。そこへ隣の女の子が来て壊していった。そんなところに城を作っているのが間違いだという。その場合、壊すことは悪ではないということか。

イスラエルは家を建てているのに、私たちは壊される。世界は何もいわない。にもかかわらず、イスラエルは、スタートアップネイションとして、世界に必要な技術を開発し、世界を祝福しているのだ。どうかイスラエル国旗の絵をSNSで拡散し、どうかイスラエルを支持してほしい。」

この日、ネタニヤフ首相、ヘルツォグ大統領、ラピード筆頭野党など、政治家たちが次々に追悼のメッセージを送った。

www.timesofisrael.com/lucy-dee-dies-of-wounds-three-days-after-terror-attack-that-killed-her-2-daughters/

1月27日から2ヶ月で19人がテロの犠牲に

イスラエルでは、1月27日に、エルサレム北部ネエベエ・ヤコブのシナゴーグでの銃撃テロでユダヤ人7人が死亡したのを皮切りに、今日までの2ヶ月ほどの間に、最後のルーシーさんを入れて、19人が、パレスチナ人によるテロで死亡した。その中には、5歳と7歳児も含まれる。

ラビ・レオ・ディーさんが訴えているように、この人々とその家族から命を奪い、日常を完全に変えてしまう行為にいかなる政党な理由はない。以下のサイトには、犠牲者それぞれの人生を覚えるようにと、この間のすべてのテロ事件の記事がアップされていた。

www.ynetnews.com/magazine/article/bkcveklm3#autoplay

石のひとりごと

ラビということもあり、レオさんは、非常にしっかりと世界へのメッセージを発信した。

最愛の妻と、これからという最も美しい年頃の最愛の娘2人を失った人とは思えないほどしっかりと語っていた。

おそらく彼のうちに、まだその現実の重みはなく、これからなのかもしれない。

しかし、注目すべきは、レオさんの口から、犯人個人への恨みや、はやく捕まえてほしい、厳しくさばいてほしいといった訴えはいっさい出てこなかったという点である。そうではなく、彼が訴えたのは、イスラエルの立場を理解してほしいということであった、

通常なら、遺族は表に出てこないか、出てきても、早く捕まえてほしい。犯人を極刑にしてほしい。それでも愛する家族は帰ってこないといった個人的な怒りを訴えるのが普通であろう。

しかし、ユダヤ人は、自分の人生が自分個人だけに終わらず、イスラエルの一部であると認識している。(させられているというべきか)このため、愛する家族の犠牲が、もし、世界におけるイスラエル理解の改善に繋がることにもでもなれば、この大きすぎる痛みにもわずかな慰めになるのかもしれない。

また、家族はルーシーさんの臓器を捧げ、5人がそれを受け取って、残りの人生を有意義に生きられるようになった。これほど早く別れさせられたが、それで5人が命を得たというところに、この悲劇にさえ意味を、神の目的をさがそうとしているのかもしれないとも思う。

しかし、父親として、妻と娘を守ることができなかったというレオさんの苦しみはこれからも続いていくだろう。その重すぎる現実。7人から4人になった。3人がいない空白の日々の異常な現実は、これから彼の前にどっしりとやってくる。そうしてそれは過越の祭りのたびにやってくる。

個人的には、母と姉と妹を失ったケレンさん(17)が気掛かりだ。親友であった姉、妹。そして母を奪われたのである。17歳の女の子にはあまりにも大きすぎる喪失だ。若い心がどうか守られるように。学んできた聖書の善悪。復讐するは我にありという主に委ね切ることができるように。

テロリストは今どこで何を感じているのだろう。なにはともあれ、テロは悪である。この悪にとらわれている全てのパレスチナ人の若者たちを覚えてその心に主へ恐れが届くようにと祈る。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。