ヨムキプールのシナゴーグ狙ったテロ:懸念されるドイツの反ユダヤ主義 2019.10.11

9日正午、ドイツ東部の町ハーレーで、ネオナチの男が、ヨム・キプールの礼拝をしていたシナゴーグとトルコ系ケバブの店で、銃撃と手榴弾を投げ込むなどのテロが発生。2人が死亡。2人が重傷となった。

<強固なドアに守られたシナゴーグ>

犯人は、スティーブン・バリエト(27)。ドイツ警察によると極右のネオナチ(ヒトラー信奉者)だった。ヘルメットにカメラをとりつけ、一部始終、約35分間をソーシャルネットワークに流しての犯行だった。2200人がこれを視聴していた。

スティーブンは、英語で平然と、「ホロコーストはなかったと思う。」と言ったり、「ユダヤ人がヨーロッパのすべての問題の元凶だ。」などと明らかな反ユダヤ思想を述べていた。

シナゴーグには、車で乗りつけたあと、機関銃や手榴弾など重装備の姿で、歩いてシナゴーグに近づき、銃撃でドアを開けようとした。しかし木製の重いドアを開けることはできなかった。手榴弾を投げたがそれでも開かなかった。

そのため、たまたま通りかかってしまった50代の女性を背後から射殺。事件当時、シナゴーグ中には、ユダヤ人70−80人が、ヨム・キプールの礼拝中だった。防犯カメラで一部始終を見ながら、ドアをバリケードして、礼拝を続けたという。

スティーブンは、「ちくしょう。殺せなかった。」と言いながら、車で立ち去った。数ブロック行ったところで、トルコ系のケバブの店が見えたため、その店の中に手榴弾を投げ入れた。爆発した。

店の中に入り、「NO!」と叫んでいる男性を至近距離で撃って殺害。かけつけた警察と銃撃戦になり、「みなさんこれまでだ。首を撃たれた。俺は失敗した。」と言いながらスマートフォンを投げ、逮捕された。

www.timesofisrael.com/live-stream-of-german-synagogue-attack-shows-brutal-yet-bumbling-assault/

スティーブンの車からは、4キロに及ぶ爆発物が押収された。大規模なテロを計画したとみられる。最初にシナゴーグのドアが開かなかったことは奇跡であったと言われている。

<ドイツで深刻な反ユダヤ主義:ただようナチスの影>

今回は、幸い、犯人がシナゴーグに入ることはなかったが、ユダヤ人を殺そうとする明らかな反ユダヤ主義者の犯行であった。また、明らかに狙われる可能性があったこのシナゴーグを、警察が十分に警備していなかったことも問題になった。

今回の事件は、1938年11月9日、ナチス政権下で発生したクリスタルナハトが発生した時期にも近いことから、ユダヤ人の間にこれまでにない危機感が広がっている。

クリスタルナハトとは、ドイツ全国のユダヤ人家屋や店舗、シナゴーグが一夜にして襲われ、ユダヤ人90人が死亡。3万人がダッハウの収容所へ連行された事件である。

これは、ナチスが計画、実行したものではなく、多くの一般市民が自主的に行ったものをナチスが先導、傍観したという事件である。ホロコーストは、ヒトラーが先導しなくても、人々の心に大昔から染み込んでいる反ユダヤ思想がその拡大を実現したみられている。

この事件を受けて、メルケル首相ら、ドイツの指導者達は、これを恥ととらえ、なんとしても反ユダヤ主義事件をとりしまらなければならないとの語っている。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5605250,00.html

しかし、現実に。ドイツの反ユダヤ主義暴力は悪化の一途をたどっており、BBCによると、ユダヤ人を狙った犯行は、昨年からの比較で、10%増加しているという。ユダヤ人たちは、シナゴーグやユダヤ人組織周辺の警備を強化するよう、警察に訴えているが、実現は難しそうである。

シナゴーグを襲ったテロといえば、昨年10月27日、アメリカのピッツバーグのシナゴーグでも銃の乱射事件があり、11人が死亡した。フランスの内務相も、反ユダヤ主義はまるで毒のように広がっていると言っていた。

世界中で反ユダヤ主義が拡大悪化していることは間違いない。

www.bbc.com/news/world-europe-47223692

*イスラエルではヨム・キプールの事故で子供2人死亡

ヨム・キプールの日は、路上に車がいなくなる。その道路上を、子供達が自転車を自由に乗り回すというのがヨム・キプールの風物詩である。しかし、たまに車が走ることもあり、毎年事故が発生する。今年も子供2人が車にはねられて死亡した。

エルサレムからテルアビブの間ベン・シェメンの自動車道では、リヤド・シャリキ君(13)が車にはねられ死亡。

テルアビブでは、イタイ・マージ君(8)が、友達と自転車を乗り回していたところ、交差点で車にはねられて死亡した。運転手の車からは、麻薬が押収されており、中毒者であった可能性がある。

家族達は、これからヨム・キプールが来るたびに、悲しい思い出を抱えることになった。家族を覚えて祈られたし。

www.israelnationalnews.com/News/News.aspx/269967

<石のひとりごと>

今にはじまったことではないのではあるが、イスラエル・中東情勢は、日に日に厳しくなっていく気がする。しかもまったなしで、すすんでいるように感じる。

中東では、手も足も胸も背中も毛むくじゃらで、マッチョーな男性たちが、生死をかけた戦闘と政治的なかけひきを繰り広げている。女性たちも必死の様相で、子供たちを抱え、サバイバルに必死になっている。

そうした記事の横に、連日出てきたのが、細身で清潔感ただよう、草食系そのものの若い日本人男性と、かわいらしい若い女性の2人が宣伝する男性のための脱毛ビューティサロンのCMだった。異常な違和感を感じた。

けむくじゃらで、泥だらけ、血みどろの生死を賭けた戦いを繰り広げている中東男性と、脱毛を考えるほどに平和な国日本の男性たち・・この不公平、不条理・・・同じ地球に住んでいても、ここまで違うとは・・・上から見ている神様はいったい何を感じているのかと一瞬、考えてしまった。

かつて、ビル・ゲイツが、子供達に、学校で教えない11の事を教えていた。その第1点は、「人生は不公平である。それに慣れよ。」ということであった。

地上には、まったくもって、いろいろな人が、想像もつかないような悲惨な人生を送っている。その不公平が自分にやってきてもおかしくないわけである。だから不平不満に時間を使わず、できることからやっていこうという教えだそうである。

www.athomeinstl.com/11-rules-life-speech-bill-gates/

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。