モスル総攻撃:その後 2016.10.30

イラク第二の都市モスル(ニネベ)がISに支配されるようになってから2年。

この都市をISから奪回するべく、10月17日、総勢3万のイラク政府軍とクルド勢力ペシャメルガ、シーア派勢力、スンニ派勢力が、アメリカ軍(約1000人)の支援を受け、モスルに向かって総攻撃を開始した。それから約二週間になる。

これまでにイラク政府軍はモスルの南から、ペシャメルガは東から攻め、ISISを撃退して、町を解放しながらモスルへ向かっている。イラク軍によると、これまでに50の町を奪回したという。

作戦が開始されるとまもなく、モスルから避難する途中、ISISに捕まりかかって、命からがら逃げてきた住民らが保護される様子や、さらなる戦闘に備えて、イラク軍の軍用車で避難キャンプへ移送される住民の様子などが伝えられた。

町が解放されはじめると、住民らが、イラク軍兵士やペシャメルガを笑顔で迎える様子や、一様にISの非道ぶりを訴える住民の様子が伝えられた。

これまでの2年間、ISISは、髭を伸ばすことや、女性にはブルカを強要し、携帯電話を使ったり、テレビを見ただけで、殺害の口実にしたという。解放されてすぐに髭をそる男性もいた。「酷い方法ですべてを奪われた・・。」と苦渋の表情で泣く男性の姿もあった。

これまでに解放された村の中には、イラク最古のクリスチャンの村バルテラ(モスルの東15キロ)も含まれ、神父がISによって破壊された教会に必要なものを取りに入る様子も伝えられている。まだ戻ることはできないが、神父は教会の再建を誓っている。

<どう出るISIS?>

モスルへ向かっている軍勢は、まもなくモスルに達するとみられる。ISISは、最前線にいるイラク軍などに対して、車両で突っ込む自爆テロを繰り返している。

また撤退しながら、モスル周辺の村を襲撃し、住民を殺害するか、誘拐してモスルへ同行させている。すでに数千人から1万人が拉致された模様で、モスル決戦の時には人間の盾として使うとみられる。

また攻撃が始まってまもなく、ISISは、モスル南部の別の町キルクークを攻撃し、イラク軍の兵力を割く作戦に出た。キルクークでは、市民21人を含む116人が死亡した。この町ではISISが化学工場に火をつけ、家事によって毒物を排出するという”化学攻撃”も行なっている。

この他、最前線でないバグダッドのイラク政府関係の建物を狙ったり、補給路を断つなども行なっている。

www.nytimes.com/2016/10/30/world/middleeast/isis-counterterrorism-kirkuk-iraq.html?_r=0

また、モスルに近づくにつれて、地下のトンネル網や武器庫などが発見されている。

モスルは、イラクのISISにとっては最も重要な都市である。地下に、膨大なトンネル網を張りめぐらし、様々な罠もしかけているとみられる。モスルは人口150万人の大都市。日本で言えば京都市か神戸市レベルである。

戦闘になれば、かなりの犠牲者が出ると懸念されている。

ところで、ニュースに映し出されるISISのトンネルは、ハマスがガザからイスラエルに向かって造設しているものとそっくりである。また、イラク軍が、市民の犠牲を最小限にするとして、家屋一軒づつに突入していく姿は、まるでイスラエル軍である。

やはりイスラエルで起こっていることはやがて世界でも起こるという傾向をここでも見る感じがする。

<世界レベルの派閥争い>

今回のモスル攻めは、イスラムでも激しく敵対するシーア派とスンニ派がそれぞれ戦闘部隊を送り込んでおり、やがては、世界レベルのシーア派VSスンニ派の戦いになっていく可能性も出てきている。

①シーア派:イラク軍(イラン支援)、その他のシーア派勢力 *アメリカ軍(約1000人)がイラク軍支援

②スンニ派:モスル市民とその他のスンニ派勢力、クルド人勢力ペシャメルガ

モスル住民は、スンニ派であるため、シーア派が市内に入ることを拒否している。しかし、BBCによると、29日、モスル西側から、シーア派勢力がモスルに向かい始めているもよう。

ややこしいのはスンニ派のトルコ。トルコは、このどさくさに紛れて、20日、アレッポから北西へ40キロの町を空爆し、敵対するクルド人勢力(PKK)を数百人殺害している。

トルコのエルドアン大統領は、イラク軍にモスル攻撃への軍事支援を申し出たが、イラク政府はこれをきっぱりと断った。

トルコが参戦したいのは、エルドアン大統領に、過去に広大な中東を400年近く支配した大帝国オスマントルコの栄光を取り戻すという野望があり、ISISなきあとのモスル、ひいてはイラクに影響力を持ちたいと考えているからだと考えられている。

当然、これはイランやシーア派とは対立する立場である。シーア派がエルドアン大統領の写真を燃やす行為も目撃されている。

www.theguardian.com/world/2016/oct/24/fears-battle-for-mosul-open-new-front-wider-sunni-shia-conflict-iraq-turkey

<難民100万人の可能性も>

モスルから脱出する人々は、モスル南部へと向かっている。BBCによると、これまでに脱出したモスル住民は1万人あまり。国連等は、ここ数週間の間に20万人が難民になると予測している。

しかし、戦闘がはじまれば、一気に100万人が脱出してくる可能性もあり、支援できる範囲を大きく上回ると懸念されている。

戦闘が近づいている今、ISISは、通常と変わらない町の様子を伝えるプロパガンダのビデオを流しているが、実際には、モスル住民は家の中に潜んでいるようである。以下は、現在のモスル住民の声。

www.bbc.com/news/world-middle-east-37679923

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。

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