シリア・イラクのISIS撃滅へ王手!? 2016.10.19

日本でも報道されているように、16日より、シリア・イラクにおける対ISIS戦に動きが出ている。

16日、ISISの対欧米戦の象徴でもある町ダビック(ISISの機関紙の名前でもある)を、シリア反政府勢力がトルコの支援を受けて奪回に成功した。

続いて17日早朝からは、イラク軍を筆頭に様々な勢力が、一斉にISISの経済的要所、イラク第二の都市、モスル奪回への総攻撃を始めている。

今回、シリア・イラクのISISへの総攻撃が今になって始まった背景には、アメリカの大統領選挙が近づいていることと関係があるとBBCは解説する。

今のオバマ政権の方針のもとで、目標を達してしまわないと、時期大統領がまた別の方針を出してくるかもしれないからである。(来年1月の完全交代までは、基本的にオバマ大統領の方針が続く)

確かにシリア・イラクのISISは撃滅へと向かうかもしれない。しかし、この戦闘が、イラクに平和をもたらすとも考えにくく、相当な人道的被害も予測され、中東がさらなる混乱に進んで行く可能性が懸念されている。

<シリア:ダビック奪回>

ダビックは、トルコ国境から10キロに位置するシリア領内の町である。この町はイスラムにとって宗教的な意義を持つ町である。

中世7世紀、イスラムの預言者モハンマドが、当時、ビザンチン帝国(東ローマ帝国)との戦いにおいて、コンスタンティノープル(イスタンブール)制覇を目指す中、「ダビックか、アル・アマックでローマ(キリスト教勢力)を撃退するまでは、世の終わりは来ない。」と言ったと信じられているのである。

そのため、ダビックは宗教的にも重要な街で、ISの機関紙の名前にもなっていた。アメリカ人人質の斬首をダビックで行い、「アメリカ人十字軍を処刑した。」と宣言していた。ダビックの名前を出すことで、戦士たちの士気を高める効果があったとみられる。

しかし、ここ数ヶ月、トルコが本格的に介入し、トルコとの国境に近いISIS支配域の奪回を進める中、今回、ダビックの奪回にも至ったということである。ダビックを失ったことはISISにとっては象徴的な意味合いもあった。

www.bbc.com/news/world-middle-east-30083303

<イラク:モスルへの総攻撃>

ダビックを反政府勢力とトルコ軍が奪回した翌17日、イラク政府が、様々な勢力が、長い準備を経て、いよいよモスルへの総攻撃を開始すると発表した。

2014年6月、イラク政府軍は、アメリカの軍事支援や訓練を受けてモスルを守っていた。しかし、いざ、ISが来ると、アメリカにもらった武器をおきざりにして逃亡し、やすやすとモスルをISISに明け渡してしまったという経過がある。以来、モスルは、ISISに支配されてきた。今回をそれを奪回するということでもある。

兵力は、イラク政府軍にクルド人勢力ペシャメルガはじめ、様々な組織も加わり、全勢力あわせて、3万人にのぼる。これまでの攻撃では最大級である。

総攻撃開始から2日目に入る18日、イラク軍はすでに周辺の10つの村を制覇し、予定以上のスピードでモスルに向かっていると伝えられている。18日現在で、モスル中心まで40キロだった。

しかし、問題は、モスル総攻撃を行っているのがイラク軍だけではないという点だ。イラク軍(シーア派)の他に、クルド人勢力ペシャメルガ、シーア派勢力、スンニ派勢力がそれぞれが、一斉にモスルに迫っている。

イラク軍とクルド人勢力は、基本的には対立している。また、モスルの住民のほとんどはスンニ派なので、スンニ派への暴力もあるシーア派の武装組織が入ってくることに懸念もある。

仮にISISを撃退したとしても、その後に、シーア派主流の現イラク政府にこれらをまとめあげる力はない。

今はとりあえず、モスルをISISから解放すること、それだけが目標だが、ではその後平和になるのかといえば、その希望はかなりうすいといえる。

<戦闘による深刻な人道被害への懸念>

モスルをめぐる戦闘は、すぐには終わらず、数ヶ月かかるとみられている。モスルは、アル・バグダディが、自らカリフを名乗り、イスラム国を立ち上げた場所であり、ISが世界的な脅威として認識されるきっかけになった都市である。

油田や銀行があり、ISの主要な収入源、経済的な中心地でもある。ISとしても死守してくることは必須。モスルには現在、最大5000人のIS戦闘員がいると推測され、自爆テロの他、化学兵器を使ってくる可能性が高い。

モスルは、人口150万の大都市である。BBCによると、戦闘が始まれば、その時まで残留している70万人が、戦闘に巻き込まれると推測されている。ISが、市民を人間の盾に使ってくることも十分ありうる。

国連は、多数の住民が難民になるとみこして、すでにモスル郊外に20万人分のキャンプを準備しているという。モスル在住のイラク市民で、すでに脱出を始めている家族もいる。

www.bbc.com/news/world-middle-east-37699233

<ISIS撃滅のあとはどうなる?:シーア派VSスンニ派>

シリア、イラクからISISが撃滅することはアメリカと有志軍の目標でもあったことだが、では果たしてそれを達成した後、どうなるのかについては、明確な計画が見えていない。

まずは、今モスルにいるIS戦闘員の一部が逃れて他地域、特にトルコやヨーロッパで、テロを活発化させることが懸念される。

また、中東でのシーア派とスンニ派の対立に拍車をかける恐れがある。

現在、イエメンでは、サウジアラビアが支援するスンニ派のイエメン政府軍と、イランが支援するシーア派の反政府勢力、フーシ派がイエメンで戦闘状態にある。

先週、サウジアラビア軍が、葬儀に集まっていたシーア派の人々に向かって誤爆してしまい、140人が死亡した。これを受けて、サウジアラビアとイランの間の緊張が、これまでになく高まっている。

イエメンには、イランの指示でヒズボラが介入している。Yネットは、イランが、ちょうどレバノンのようにヒズボラを通じて、イエメンをその影響下にいれようとしていると解説する。

もしモスルからISが追放されたあと、スンニ派とシーア派の対立が、イラクにまで拡大していった場合、イラクにもイランが進出してくる可能性もある。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4867379,00.html

いずれにしても、中東では、予想外、想定外のことばかりがおこる。こうした専門家の予想や懸念が現実のものにならないよう祈る時だろう。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。

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