ポーランドとイスラエルの関係に溝:互いの大使を召喚 2021.8.18

ホロコーストの問題において、ドイツは明らかな戦争犯罪であったとして、今もイスラエルへの謝罪を補償を継続している。

しかし、ポーランドは、第二次世界大戦中は、国がナチスと旧ソ連に分割支配され、政府が存在していなかったこと、またユダヤ人が300万人殺害される中、ポーランド人も300万人近く死亡していたこともあり、加害者意識はあまりなく、被害者であるとの認識が強い。

しかし、ポーランド人の中には、ユダヤ人をナチスに売り渡し、または殺害し、その財産を着服した者が少なからずいたのであった。

また、アウシュビッツ絶滅収容所などの収容所のほとんどは、はポーランド国内にあるのだが、その責任は、ナチスドイツである。このため、これらを「ポーランドの絶滅収容所」と呼ばれることについて、誤解を招くとして、反発を表明したりしていた。

ポーランドは、戦後も旧ソ連の支配下にあり、今のポーランド共和国として完全に独立したのは、1989年になってからであった。これもまたポーランドに被害者としての立場を強調する傾向をもたらしていると思われる。

こうした中、ポーランド議会は、14日、30年以前、つまり、1989年以前に搾取された財産を取り戻す、補償を求めるための裁判は、もはや無効とするという法律を可決。デュダ大統領も署名し、正式な決定となった。

この中にホロコーストという言葉は含まれていないが、実質的にはナチスに搾取され、次に(戦後)旧ソ連に搾取されたユダヤ人の財産を、ユダヤ人が取り戻す権利がもはやなくなったということを意味する。こうなると、今行われている訴訟すら最後まで行えない可能性も出てくる。

これについ旧ソ連時代に財産を搾取された非ユダヤ人も同様である。

イスラエルのラピード外相は、ただちに、「ポーランドのした事は、不道徳な反ユダヤ主義の脅威(これが初めてではない)だ。」と厳しく批判する声明を出した。ベネット首相も、「ホロコーストの記憶を侮辱する恥ずべきことだ。」と述べた。

これに対し、ポーランドのデュダ大統領は、「この法律とホロコーストには関係がないと断言する。」と言い返した。

www.euronews.com/2021/08/15/israel-condemns-polish-property-law-affecting-holocaust-survivors

これを受けて、ラピード外相は、14日、ポーランドへのイスラエル大使を召喚した。するとその2日後、ポーランドも、今休暇で本国の自宅にいるイスラエルへのポーランド大使は本国にとどまらせるとして、実質召喚する意向を表明した。

ポーランドとイスラエルの溝は、さらに深まる様相である。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。