ヘブロン包囲へ 2014.6.16 4:00(日本時間10:00)

誘拐事件発生から4日目。イスラエル軍は、誘拐された3人は、まだユダの山地、特にヘブロンに生存しているとみて、ヘブロンとその周辺の町の周りにコンクリートのブロックを積み上げて検問所を設置。出入りを制限し、捜索を続けている。

3人の捜索と犯人グループ摘発のために、2000人の精鋭部隊が、西岸地区内部に入っていたが、北部で訓練中の部隊もヘブロンと西岸地区の町を包囲するための援軍に向かった。一部の予備役も招集され、ヘブロンに向かったとの情報がある。

イスラエルの大軍が、ヘブロンはじめ西岸地区のパレスチナ自治区内部に入っている状態である。

*なぜ大規模に動いているのか

今回の誘拐事件には、これまでイスラエルが釈放したパレスチナ人の囚人が関わっているとみられている。また、これまでに誘拐されたイスラエル人との交換で、テロリストを釈放してきたことから、パレスチナ人は、「イスラエル人を誘拐すれば、囚人取り戻せる」と考えている。囚人釈放が誘拐事件を誘発したと言われている。

この悪循環を断ち切るためにも今回は、なんとしても交渉ではなく、今のうちにイスラエル軍の手で3人を無事取り戻さなければならないのである。

<犯行はハマスか>

イスラエル軍は15日夜、ヘブロンなど西岸地区各地でハマス指導者のハッサン・ユーセフ氏を筆頭に、80人のハマス関係者を逮捕した。その翌朝の16日、ネタニヤフ首相は、15日の記者会見で、犯行はハマス関係者によるものと断定する声明を出した。

ハマスはこれを否定しているが、ケリー国務長官も、今回の事件にハマスが関与していることを認める発言をしている。

続く16日夜も、ヘブロンでは、ハマス幹部宅が包囲され、銃撃戦の後に幹部2人を逮捕している。

アッバス議長は、緊急にPLO高官を集めて会議を行い、ネタニヤフ首相が、誘拐事件をパレスチナ自治政府の責任だと言っていることを改めて非難。「イスラエルは、誘拐事件を利用して、西岸地区を再び占領しようとしている。」として強く非難する声明を出した。

<南部に迎撃ミサイル配備>

こうしたイスラエル軍の動きを受けて、ハマスがガザ地区から、さらにロケット弾やミサイルを撃ち込んでくる可能性があるため、イスラエル軍は南部にアイアンドーム(迎撃ミサイル)を配備した。

その直後、ガザからアシュケロンに向けてロケット弾4発が発射された。2発は空き地に、2発は迎撃に成功し、被害はなし。この後、イスラエル軍はガザ地区を空爆している。

<エジプトが交渉か>

イスラエルは、エジプトに協力を要請、現在、エジプトがガザのハマスやイスラム聖戦と交渉しているという情報がある。

<国をあげての祈り>

昨日の安息日には、全国のシナゴグやメシアニックの集会、各家庭で3人のための祈りが捧げられた。嘆きの壁は、3人の救出を祈りにくる人で埋め尽くされる状態(25000人)。世俗のテルアビブですら700人がラビン広場に集まり、イスラエルの神に祈りが捧げられた。

チーフラビのダビッド・ラウ氏は、「今、国は心ひとつになっている。こんなときだけでなく、いつも私たちは一つになっていようではないか。」と嘆きの壁の群衆に呼びかけた。

<旧市街で、ユダヤ人とアラブ人が衝突> https://www.youtube.com/watch?v=jL-bNEGexfc#t=68

しかし、一つになって愛国的になりすぎるのも問題。15日、嘆きの壁に祈りに来るユダヤ人とアラブ人の衝突が伝えられている。

ビデオを見ると、ユダヤ人側が夜に、イスラム地区で、興奮したように大声でイスラエルの歌を歌いながら歩いている。これではアラブ人が怒って石やものを投げつけてきても文句は言えないのではという状態。

<今後考えられること>

今回の誘拐事件の責任は、ハマスと統一政府を組んだアッバス議長にあると繰り返し追求するネタニヤフ首相の方針を疑問視する声もある。アッバス議長自身は、今回の事件に直接かかわっていないと考えられるからである。

誘拐が発生した場所は、確かにパレスチナ自治区ではあるが、C地区。すなわち、イスラエルが治安を管轄している地域であり、事実上、イスラエルが治安の責任者である。またそのように危険とわかっている場所でヒッチハイクしようとした方にも問題がないわけではない。

さらに、3人のうちの一人は、事件発生直後に「誘拐された。」と警察に通報していたことがわかった。

警察は、通報が事実かどうかを検証していたが、実際に動き始めたのは、少年の父親が警察に通報した夜中3時をまわってからだった。数時間も対策が遅れたとして、問題になっている。

イスラエル側にもいろいろ落ち度はあるということである。

時間がたつにつれて、両者の憎しみは募る一方になる。また、時間が経つにつれて、国際社会がイスラエル非難にまわっていく可能性もある。一刻も早く、3人が、無事で見つかるよう、また一刻一刻決断するネタニヤフ首相を覚えてとしなしが必要である。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。

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