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ガザとの戦闘が始まって以来、徐々に北部国境での対立がエスカレートして、イランで数千人の群衆が、「イスラエルに死を!」「アメリカに死を!」と絶叫する事態になっている。その流れをまとめる。
ヒズボラとの対立からシリア・イランに戦火波及
1)ヒズボラとの衝突:12月後半に特にエスカレート
ハマスとの戦闘が始まってから、レバノン南部国境からヒズボラが時々、対戦車砲をイスラエル北部に向けて発射し、これまでにイスラエル人4人、イスラエル兵9人が死亡している。
一方、ヒズボラによると、ヒズボラ戦闘員の死者は126人。この他、レバノン軍兵士1人、レバノン民間人17人(3人は記者)、パレスチナ人テロ関係者16人が死亡している。
しっかり戦争状態だが、イスラエルとしては、南部ガザに加えて、北部にまで前線を増やしたくないとして、これでも、反撃は最小限にとどめると主張する傾向が続いている。
しかし12月に入って、南部ガザでの戦闘が激化してくるにつれ、ヒズボラの攻撃も、対戦車砲に加えて、ドローンや、ミサイルとエスカレートしてきた。
12月26日には、イスラエル北部イルクイトの聖マリア教会(ギリシャ正教)にヒズボラのミサイルが直撃。破片が飛び散って、この村に住むクリスチャンたちが負傷した。この時に、救出に向かったイスラエル兵9人が負傷。1人は重傷を負った。
これに対し、イスラエル軍が、レバノンのヒズボラ拠点を攻撃すると、ヒズボラ戦闘員2人が死亡した。するとその翌日には、ロケット弾が少なくとも34発、断続的にイスラエル北部に降り注ぎ、キリアット・シモナや、ローシュハニクラに撃ち込まれ、建物が被害を受けた。
www.timesofisrael.com/northern-towns-rocked-by-heaviest-hezbollah-barrages-since-outbreak-of-war/
これに対し、イスラエル軍はレバノン領内への広範囲な攻撃を実施。ヒズボラ戦闘員一人とその家族が死亡したため、ヒズボラはハイファにもロケット弾を発射した。
この繰り返しで、特に12月末からは、攻撃の応酬が激しくなる中、シリア、イランにまで戦火が拡大する勢いになっている。
2)シリア・イラク・イランへ波及
ヒズボラとの衝突がシリアに波及することは今に始まったことではない。シリアは、イランからヒズボラへの武器供給の搬入経路である。
イスラエルは、イランがヒズボラの補充しようとする武器が搬送されないようにするため、それがまだシリア領内にあるうちに叩くという作戦をもう何年も続けている。シリアに大きな影響力を持つロシアは、これを黙認する約束になっている。
しかし、最近では、搬送される回数や武器が高度になっているのか、シリアでの攻撃は、首都ダマスカスやその空港にも及ぶようになっている。
アサド大統領は、「ホロコーストは、イスラエルの存在を正当化するためのでっち上げだ。」というなど、イスラエルに敵意を剥き出しにしている。
こうした中、28日、シリアから発射されたミサイルが、イスラエル領内ゴラン高原へ着弾。イスラエルは国境から戦闘機がシリアに攻撃を実施した。攻撃はダマスカス国際空港にも及んだ。この空港は、11月にイスラエルの攻撃を受けて以来、運航を停止している空港である。
続いて30日には、シリアのアレッポ空港にの空爆が発生。
シリア東部とイラクの国境にある検問所では、トラック8台のコンボイへの空爆(4台が破壊)とイラン関連の建物への攻撃があり、ヒズボラ戦闘員4人が死亡した。
イラクでの攻撃については、アメリカの援軍もありうるが、アメリカはこれを否定している。イスラエルは、シリアへの攻撃にはノーコメントだが、シリアにおけるイランの存在は、徹底的に認めないとする方針は明らかにしている。
www.timesofisrael.com/4-hezbollah-members-killed-in-strikes-near-syria-iraq-border/
www.timesofisrael.com/9-soldiers-injured-rescuing-elderly-man-wounded-in-hezbollah-strike-on-church/
一方、ヒズボラの副長官も、イスラエルがガザでの攻撃をやめないかぎり、攻撃は続くと言っている。
3)イラン革命防衛隊司令官死亡:数千人が「イスラエルに死を」「アメリカに死を」と絶叫
昨年12月25日にイスラエルがシリアのダマスカスを空爆した際、イラン・イスラム革命防衛隊(IRGC)幹部のラジ・ムサヴィ准将が死亡した。
ムザヴィ准将は、2020年にバクダッドで暗殺されたIRGC軍事部門の司令官、カッサム・ソレイマニと同レベルである。
以下は、シーア派として正式に行われたイラクでの葬儀の様子。この後遺体はイランの首都テヘランへ送られた。
イランのライシ大統領は、「イスラエルは必ずこのツケを払うことになる。」と述べた。イランでは、28日、テヘランの中心、イマーム・ホセイン広場で、ムサヴィ准将の葬儀が行われた。
数千人が参加し、「イスラエルに死を!」「アメリカに死を!」と叫んだ。今回特に注目されたのは、群衆が、「私はお前の敵だ」とペルシャ語とヘブライ語で書いた黄色の旗を振りかざしていたことだった。
石のひとりごと
イスラエルではガザでの戦闘が終わるころには、北部戦線が本格的になるとの懸念は出ている。北部戦線は、南部よりはるかに困難が予想される。
ヒズボラは、イスラエルに向けてすでに15万発ものミサイルを準備中であることと、ヒズボラとその背後にいるイランは、シリア戦争を通じて、軍事的には相当に訓練されたと予想されるからである。
前エルサレム市長だったニール・バルカット氏は、リクード党員ではあるが、最近、ネタニヤフ首相の方針に反発を示す傾向がある。
今北部情勢について、政府が本格的に動いていないことが、かつて南部国境でハマス3000人の侵攻を可能にさせてしまった失敗と同じことだと批判している。
バルカット氏が正しいのかはわからない。正しくないことを祈る。しかし、2024年、イスラエルの置かれている立場が、かなり厳しいものになっていくことは間違いなさそうである。