パレスチナ人ジャーナリスト死亡をめぐる紛争 2022.5.15

Shireen Abu Akleh was reporting on clashes between the IDF and Palestinians in Jenin. (File/AFP)

西岸地区ジェニンで、11日、アラブ系メディア、アルジャジーラの、人気ベテラン・パレスチナ人記者が、パレスチナ人とイスラエル軍の衝突に巻き込まれ、頭を撃たれて死亡。イスラエルが非難の的となった。

さらに、13日にエルサレムで行われた葬儀でまた、イスラエルの治安部隊がパレスチナ人に暴力を振るったとして、世界中の非難の目が、イスラエルにむいている。詳細は以下の通り。

西岸地区ジェニンでパレスチナ人記者死亡:その背景

イスラエルでは、ここしばらく、国内でのパレスチナ人による複数のテロ(最後は5日)が続き、19人の市民が死亡したことはお伝えしている通りである。イスラエル軍は、西岸地区や国内のアラブ人地域で、テロリストやその試み、密輸されてくる武器の摘発を続けている。報復として、テロリストの実家を破壊するなども行っている。

パレスチナの方でも、3月以降、イスラエル軍への反撃や攻撃をを試みて、30人が死亡している。(パレスチナ自治政府発表)

この暴力の悪循環の中で、イスラエル軍が頻回に捜査に入るのが、西岸地区パレスチナ自治政府管理地区にあるジェニン難民キャンプである。ジェニンでは、パレスチナ人とイスラエル軍との間に、市街地で頻回に暴力的な衝突になっている。

イスラエル軍は、9日、超正統派の町エラッドでのテロで3人の父親たちを斧などで殺した、パレスチナ人テロリスト2人とその関係者7人を、西岸地区ジェニン近くのパレスチナ人の町で逮捕した。

www.timesofisrael.com/palestinian-terror-suspects-arrested-for-deadly-elad-axe-attack/

こうした中、11日、ジェニンに取材に入っていたパレスチナ人で、アルジャジーラの人気記者、シャイリーン・アブ・アクラさん(51)が、紛争に巻き込まれ、頭を撃ち抜かれて死亡した。

www.ynetnews.com/article/bkjykp00i5

アルジャジーラは、イランとの関わりもあるカタールのメディアである。アブ・アクラさんは、西岸地区をカバーして20年のベテランで、パレスチナ人の間でも人気の高い、ジャーナリストであった。パレスチナ市民の間にも動揺が大きかったようである。

アルジャジーラは、事件後直ちに、イスラエルを非難し、国際社会に、“占領者”イスラエルを糾弾するよう訴えた。パレスチナ自治政府も、イスラエルを非難した。(以下はアルジャジーラによる報道)

しかし、現場は、銃撃戦になっていたので、イスラエルは、パレスチナ人が無作為に撃ち返していた銃弾による可能性もあるとして、アブ・アクラさん死亡の経緯追及を共同で行うことを求めた。

焦点の一つは、シャイリーンさんの体内に残されている銃弾である。イスラエル軍によるものか、そうでないかは、それを見れば一目瞭然であろう。しかし、パレスチナ自治政府のアッバス議長は、銃弾の公開を拒否し、イスラエルとの共同捜査はじめ、協力は一切しないと発表した。さらには、国際刑事裁判所にイスラエルを訴えると言っている。

アブ・アクラさんが、人気のキャスターであったため、アッバス議長も強い姿勢に出なければならないという圧力があると推測されている。

ベネット首相は、自治政府は、「真実を知るための科学的な証拠を公開しようとしない。今一度、透明性のある捜査のため、共同で、捜査をすることを求める。」と述べた。

また、アメリカに、調査の透明性の追及についての同意を求めている。来月、バイデン大統領が、イスラエルとパレスチナを訪問する予定なので、アメリカの圧力には屈するのではと期待する分析もあるが、どうだろうか。

いずれにしても、イスラエルは独自での調査も始めている。以前、子供を守っているパレスチナ人の父親が、紛争中の銃撃で死亡した際、イスラエルは直ちに謝罪したが、後で、父親はパレスチナ人の銃撃で死亡していたことが明らかになったのであった。同じ失敗をしないようにと、イスラエルは考えているようである。

www.ynetnews.com/article/0x2ljauqa

このように、まだイスラエルの銃弾かどうかはわからないのだが、民間人ジャーナリストが死亡したとのことで、いずれにしても、すでにイスラエルが悪いとのイメージで世界中に報じられているようである。

ベネット首相は、イスラエルは今テロの波の中にあり、市民19人が殺されたのであるから、イスラエルは、市民を守るための対策は続けると言っている。

エルサレム旧市街での葬儀に1万人・イスラエル軍と衝突

上記事件に輪をかけたのが、13日(金)にエルサレムで行われた、アブ・アクラさんの埋葬である。ラマラで行われた葬儀では、アッバス議長が、「エルサレムの殉教者」と呼び、パレスチナ人の怒りを高めたと思われる。その後、遺体は、聖ヨセフ・ホスピタルに戻された。

www.ynetnews.com/article/hjetzvq85

アブ・アクラさんは、アメリカの市民権を持つパレスチナ人クリスチャンで、同時にエルサレム住民として、イスラエルのIDも持っている。このため、埋葬はエルサレムのシオンの丘にあるクリスチャン墓地になる。

家族がBBCに語ったところによると、遺体は13日に、霊柩車でまず病院から、旧市街のヤッフォ門まで運び、そこから担いでカトリック教会へ、それから墓地へ運搬する予定だったようである。

ところが、13日朝、多くのパレスチナ人たちが、病院に押しかけ、霊柩車に乗せようとしていた棺桶を奪って担ぎ出し、墓地まで徒歩で運ぼうとした。このため、イスラエル警察が、止めに入り、乱闘になり、警察がパレスチナ人を殴る様子などが、ビデオに撮影されて流された。

この日は金曜で、ちょうどイスラム教徒らが旧市街の神殿の丘へ向かう時でもあり、パレスチナの旗が舞う中、1万人以上が集まってきたとのこと。

その後、棺桶は霊柩車に戻され、ヤッフォ門から旧市街に入り、カトリック教会での葬儀の後、シオンの丘にあるクリスチャンの墓地に葬られた。上空を舞っていた警察のヘリコプターも夕方4時半過ぎには引き上げていた。

www.washingtonpost.com/world/2022/05/13/shireen-abu-akleh-al-jazeera-israel-jenin/

この一連の様子を見て、パレスチナ人たちも世界もまた、いっせいにイスラエルを非難した。アメリカも、葬儀でのこの様子は容認できないとコメントしている。

後になり、アブ・アクラさんの兄もイスラエルを非難している。イスラエルは、状況を精査すると言っている。

なお、この同じ日、ジェニンでは、またパレスチナ人とイスラエル治安部隊との紛争があり、イスラエルの警察官ノアム・ラズさん(47)が、負傷し、その後病院で死亡した。在籍23年のベテラン警察官だった。

www.timesofisrael.com/fierce-clashes-seen-in-jenin-area-between-israeli-troops-palestinian-gunmen/

今日、15日は、パレスチナ人のナクバの日である。イスラエルが1948年5月14日に独立宣言したことを、最悪の日とsして覚える。ハラム・アッシャリフ(神殿の丘)に向かうパレスチナ人と、同じく神殿の丘に向かう右派シオニストのユダヤ人との間に衝突が懸念され、朝から多くの警察が出て、警戒にあたっている。

www.timesofisrael.com/security-forces-on-heightened-alert-ahead-of-nakba-day-commemorations/

エルサレムポストによると、この日、エルサレムのオープンマーケット、マハネイ・ヤフダで、パレスチナ人とイスラエル人が椅子を投げつけ合うという、事件も報告されている。大人の喧嘩というのかなんなのか・・・

www.jpost.com/breaking-news/article-706780

石のひとりごと

アブ・アクラさんはカトリックのクリスチャンとのことである。西岸地区をカバーして20年とのことだが、イスラエルに対してはどんな思いを持っていたのだろうか。

イスラエルを恨んでいたのだろうか。もしクリスチャンとして聖書に忠実であれば、自分の葬儀で、こうした紛争をのぞんでいたとは思えない。

クリスチャンであれば、キリストのあがないにより、罪赦されているので、この地上での使命が終われば、天国に凱旋だからである。

また、一人のジャーナリストとして、20年も身を捧げてきた地域で死亡したとすれば、ある意味本望ということでもあったかもしれない。これは、日本人的な感覚かもしれないが。

いずれにしても、それで死亡したとしても、どちらかを非難するということもないのではないかと思うがどうだろうか。

パレスチナ人の間でクリスチャンたちは肩身の狭い思いをしている。イスラエルからはパレスチナ人として、、パレスチナからはイスラムでないとして敵視される立場にある。今回のことも、どちらにも何も言えないというのが、家族の苦しいところであろう。

それにしても、コロナの感染拡大中は、こうした事件は、ほとんどなかったのだが、コロナが終わりを見せるやいなや、この日常もまた戻ってきている。この愚かを止めるために、ひょっとして、また主が別のパンデミックをもたらされるのではないかとも思わされたりもする。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。