バイデン大統領イスラエル到着:イスラエルとの結束を世界にアピール 2022.7.14

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バイデン大統領歓迎式典

前列にベネット前首相、その後ろにネタニヤフ前首相もいる Kobi Gideon (GPO)

バイデン大統領がブリンケン国務長官と共に、13日午後、ベングリオン空港に到着した。大統領機エアフォースワンを降りたところから、赤絨毯で迎える最高の国賓対応である。

バイデン大統領を迎えたのは、ヘルツエル大統領、ラピード首相、それにベネット前首相、ナイデス在イスラエル米大使である。

ベネット前首相が、迎えの中に加わったのは、ラピード首相の特別な意向であったとのこと。これは、この計画が6月で当初のままであれば、バイデン大統領を迎えたのは、ベネット前首相であったことに敬意を表した形である。

バイデン大統領も、ベネット前首相が、史上最も多様な政権を導き、また首相の座をあっさりと引き渡したことへの賞賛を伝えたとのこと。

互いの国歌が流れた後、30分ほどの歓迎式典が行われ、ヘルツォグ大統領、ラピード首相、バイデン大統領が短いメッセージを語った。

イスラエルとアメリカの切れることのない友好関係をアピール

今回のイスラエル訪問は、バンデン政権が立ち上がってからは初めてではあるが、大統領個人としての訪問は、今回がちょうど10回目にあたるという。空港で、イスラエル要人たちに囲まれたバイデン大統領は、「I am home.(ただいま)」と言ったという。

実際、バイデン大統領とイスラエルとの関係は非常に長い。最初の公式訪問は、1973年のヨム・キプール戦争前直前、ゴルダ・メイヤー首相の時だったとのこと。この時、後に暗殺されることになるラビン首相は、メイヤー首相の補佐官の一人であった。空港での挨拶の中で、バイデン大統領は、「ユダヤ人でなくてもシオニストになれる。」と語った。

さらに、バイデン大統領は、イスラエルが聖書に基づき、ユダヤ人の国であることを強調。アメリカとイスラエルは、特別に長く、深い関係にあると語り、両国の強い同盟関係への認識を語った。

また、記念撮影の時には、ネタニヤフ前首相も集合写真に入っていた。歴代アメリカ大統領を迎えたネタニヤフ氏も今は、筆頭野党代表として、ラピード首相らの後ろに座っている。しかし、バイデン大統領は、この時振り返って、「You know I love you」と言ったという。ネタニヤフ前首相とは、副大統領の時代も含め、何度も会い、連絡もしあっていたと思われる。

1)IMDO(イスラエル・ミサイル防衛機構)の最新迎撃ミサイルを見学

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バイデン大統領は、空港内に設置された、IMDOのイスラエルの迎撃ミサイルを見学した。この分野の開発は、イスラエルが世界最先端である。アメリカは、イスラエルに投資するとともに、共同開発も行なっている。アメリカにとっても重要な防衛プログラムである。

主なものは4つ。アロー1(長距離大気圏外での迎撃)、アロー2(中長距離迎撃と、これらを改善したアロー3、アロー4がある。
ダビデの投げ縄(David Sling: 短距離から中距離迎撃)、そして注目されるのがアイアンビームである。アイアンビームは、ドローンなどの近距離で攻撃してくるものを、レーザーを駆使して、撃墜するシステムである。

案内の中心は、ガンツ防衛相で、イスラエル軍のコハビ参謀総長も加わっていた。その後、ガンツ防衛相から、イスラエルの治安に関する報告を受けた。内容は明らかにはされていないが、イランに関する現状もその一つであったと伝えられている。この時には、イスラエル軍のコハビ参謀総長も加わっていた。

これ以上に、イスラエルとアメリカの軍事同盟を世界にアピールするものはないといえるだろう。また、今、イランがロシアにドローンを供給する動きに出ている中で、それに対抗できる最新の迎撃ミサイルをアピールすることで、イラン、ロシアへの強力なメッセージの意味合いもあったと考えられる。

www3.nhk.or.jp/news/html/20220713/k10013715521000.html

2)ヤド・ヴァシェムで灯火と献花・サバイバー2人と対話

バイデン大統領一行は、空港からエルサレムへ移動し、ヤド・ヴァシェムを訪問。記憶のホール(地面下に強制収容所からの灰がある)で、永遠の炎に点火し、献花を行った。

この時には、ラピード首相、ヘルツォグ大統領、ヤド・ヴァシェム代表ダニー・ダヤン氏、ラビ・イスラエル・メイール・ラウに加えて、ラピード首相リクエストにより、ガンツ防衛相(ホロコーストサバイバー2世)も一行に加わっていた。

式典の後、ホロコースト生き残りのレナ・クイントさんとギタ・シコヴィッツさんに会い、2人の前で、片膝をついて、しゃがむ大統領の様子が報じられた。

ポーランド出身のレナさんは7歳になるまでに家族全員を殺されながらも、6人の女性たちが次々に母代わりになり、殺されていく中で生き残り、ヤド・ヴァシェムで、その希望の証言を続けている女性である。

ギタさんは、当時のチェコスロバキア出身。アウシュビッツを生き延び、その後の強制歩行にも耐え抜いたサバイバーである。

www.timesofisrael.com/dropping-to-one-knee-a-tearful-biden-moved-by-holocaust-survivors-at-yad-vashem/

イスラエル到着初日に、イスラエルの防衛最前線を確認し、ホロコーストを覚え、その犠牲者に敬意を表したことで、バイデン大統領は、アメリカのイスラエルへのコミットを最大限に世界に表明したといえる。

最大限のセキュリティ下にあるエルサレム・世界からのメディアに対応

バイデン大統領が移動する、13日から16日まで、エルサレムへの入り口付近から、バイデン大統領が宿泊するキング・デービッド・ホテルや、ラピード首相との会談に使われるワルドーフ・ホテル周辺など、道路が広範囲に封鎖されている。しかし、ずっとではなく、開いたりしまったりするので、住民には大変な不便が始まっている。

警備にあたる警察官、国境警備員たちは計1万6000人。空港からエルサレムを含む空域は飛行禁止となり、多くのドローンが、上空からも監視を続けている。

www.timesofisrael.com/roads-shut-thousands-of-cops-deployed-as-red-carpet-rolled-out-for-biden-arrival/

世界中から、このために集まったジャーナリストは200人以上で、政府プレスオフィスは、旧市街近くにプレスセンターを開設。さまざまな資料の他、記者たちに必要なWi-Fi環境や、インタビューのための設備なども供えられている。

バイデン大統領の中東訪問の目的:イスラエル国家治安研究所(INSS)より

就任から1年半以上たって、ようやくイスラエルへの訪問を実施したバイデン大統領。イスラエルとの同盟関係へのコミットをフルにアピールしているが、その目的は、中東でのアメリカの立場と、同盟国との結束を、イランやロシアをはじめとする世界に明確にすることにあるとみられている。

今、先進国JCPOAとイランとの核交渉は頓挫している。これからの行方が懸念されている中、アメリカが、イランと対立する国々、イスラエルと湾岸諸国との結束を高めているのである。

Times of Israelは、バイデン大統領が、テレビでのインタビューで、最終措置としては、アメリカがイランに対して武力行使もありうるという発言をしたことも伝えている。

www.timesofisrael.com/us-would-use-force-against-iran-as-last-resort-biden-tells-israeli-tv/

さらに大きな目標は、サウジアラビアとの冷えこんでいる関係を改善するとともに、ウクライナ問題で、エネルギー危機にある今、エネルギー供給についても協力を引き出すねらいもあるとみられている。

INSSは最終的に、バイデン大統領の中東訪問で、どのぐらいサウジアラビアとの協力を確立できるかが、この中東歴訪の成果になると解説している。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。