ハマス最高指導者ヤヒヤ・シンワル死亡:人質はどうなる?2024.10.18

(AP Photo/ Adel Hana, File)

ハマス最高指導者ヤヒヤ・シンワル(61)死亡

イスラエル軍は17日(木)夜、正式にハマスの最高指導者ヤヒヤ・シンワルが死亡したと発表した。

イスラエル軍は、ラファの地下にシンワルが潜んでいる可能性があるとの情報から、今週初頭から、捜索に力を入れていた。

そうして、16日(水)午前10時、イスラエル軍のまだ訓練中司令官たちがガザ南部ラファ、テル・スルタン地区で、通常の対テロ警備を行なっていた時、3人が、建物に出入りする様子を発見した。

午後3時、3人が建物から建物へと移動する様子をドローンが確認した。その映像によると、3人は毛布らしきものを被り、2人が前を先に進んでいたという。

シンワルが隠れていたビル
IDF

イスラエル軍が発砲すると、2人と後ろの1人は別の建物に逃げ込んだ。この時点ではまさか、この1人がシンワルだとは誰も思っていなかったという。

その1人は2階へ駆け上がった。見習い司令官たちが、確認に建物に入ると、手榴弾が2つ投げつけられたという。1つは爆発したが、1つは不発だった。

建物は、爆弾の罠で満ちていたため、イスラエル軍部隊は撤退し、ドローンが2階へ入っていった。そこには、腕を負傷して隠れている人物がおり、一瞬、木片をドローンに投げつけようとした。

Ynet news

その後、17日(木)夜明け前にその建物に砲撃が加えられ、イスラエル兵が入って発見した遺体が、シンワルにそっくりであることを発見した。

イスラエル軍の訓練司令官たちは、シンワルとは知らずに殺害していたということである。

周囲に罠が多数仕掛けられていたことから、写真とともに指の一部を採取してDNA検査し、シンワルであることが確認された。

午後、遺体が、運び出され、その後、歯科記録などからも確認されているシンワルの遺体が所持していたのは、現金、UNRWA身分証明書、武器、祈り物品、Mentoキャンディーもある。

www.ynetnews.com/article/rykxn1kx1g#autoplay

イスラエル軍は、17日夜22時過ぎ、ハマス最高指導者ヤヒヤ・シンワルが、ガザ南部ラファで死亡したと正式に発表した。

www.ynetnews.com/article/hjs8oyjlje#autoplay

www.timesofisrael.com/full-text-of-netanyahus-address-after-killing-of-hamas-terror-chief-yahya-sinwar/

イスラエル国内は喜びと人質への不安

シンワルの死亡を聞いて、イスラエル国内では、各地で喜びが広がり、祝う様子が見られた。

しかし、シンワルが死亡したことで、一番気になるのは、人質である。人質101人(生存は50人ぐらい?)は、シンワルの近くにいなかった。実際のところ、人質は各地に散らばっていて、シンワルがすべて把握していたわけではないとも言われていたのである。

Thursday, Oct. 17, 2024, in Tel Aviv, Israel. (AP Photo/Ariel Schalit)

シンワルが殺されたことで、今後の交渉の可能性がなくなっただけでなく、人質がどこにいるのか、彼らを管理している下位のハマスたちが、人質に何をするかもわからない。

テルアビブでは、シンワルの死を喜ぶ一方で、家族たちは、以前より不安を募らせており、シンワルが死んだ今こそハマスとの交渉を実現してほしいと言っている。

www.timesofisrael.com/israel-said-to-view-sinwars-death-as-singular-opportunity-to-advance-hostage-deal/

アラーはどっち!?:イスラム世界から2種類の反応

シンワルが死亡したというニュースは、速報で世界中に流れた。エルサレムポストによると、ネットでのイスラム世界からの反応は、様々だった。

シンワルがトンネルの外で殺されていたことから、指導者でありながら兵士と共に戦ったとして、まさに殉教だという反応。

また殉教者が終われば次の殉教者が立つとして、すべては神の意志だとの投稿もあった。また、死んだのはシンワルではないと、報道を信じないよう、警告する投稿もあった。

一方、サウジアラビアや湾岸諸国からの投稿では、イスラムの人々に祝いを述べたり、ガザの人々に、アラーが、シンワルというネズミを排除してくれたという朗報を伝えてほしいと書いているものもあった。

レバノンからも、「レバノンを破壊した者は死んだ」との書き込みもあった。同じアラーを神としていても、正反対の反応である。

www.jpost.com/middle-east/article-825069

ネタニヤフ首相:人質を解放するなら命は取らないと呼びかけ

ネタニヤフ首相は、17日(木)夜、1年前の仮庵の祭りのとき、イスラエル人の虐殺を準備していたヤヒヤ・シンワルは、排除されたと、その死を正式に表明する声明を発表した。

ネタニヤフ首相は、人質を管理している者に対して、降参して人質を出すなら命は取らないと呼びかけている。

“1200人を残虐に殺し、レイプし、251人を拉致した10月7日の襲撃は、ホロコースト以来の残虐なもので、イスラエル建国後、最悪の出来事だった。その首謀者はもうこの世にいない。死亡した。

これはガザでの戦争の終わりではないが、終わりの始まりだ。ガザの人々に言いたいことは、ハマスが、武器を置いて、イスラエル人含め23の国民101人の人質を全員返すなら、明日にもこの戦争は終わる。

イスラエルは絶対にこの人々を解放する。もし自ら人質を解放するなら、その者の命はとらないと約束する。
しかし、もし人質を傷つけるなら、どこまでも追いかけて、義の前に打倒する。

中東の人々には希望を述べる。イランが設立した悪の枢軸は、今崩れ始めている。ナスララとその副長官ムフセンはもういない。ハニエ、デイフ、シンワルはもういない。今のイラン政権が、イランの人々の上に、イラク、シリア、レバノン、イエメン、これらにも終わりが来るだろう。

中東に平穏と繁栄を求めるなら、共によりよい未来のために一致しなければならない。共に、暗闇の力を押し退けることができる。私たちすべてに、光と希望が届くことになる。“

ハマスの反応は?アメリカの反応は?:これからどうなるのか

1)ハマスの反応は?

ハマスからの反応はない。ハマスは、これまでからも、すでに指導者層が失われて、ゲリラ戦になっていた。シンワルが、死亡したニュースが流れても、ガザからはロケット弾が発射されなかったことからも、もはや組織ではなくなっているとみられている。

しかし、イスラエル軍は、シンワルの兄弟、モハンマド・シンワルはじめ、他にもシンワルの後継になりそうな指導者レベルをこれからも追い詰めていくとみられる。だれが跡を継いでも、必ずイスラエルが殺すとみられる。

今回、イスラエルはラファで、シンワルを殺したが、北にいるか、北にむかっている可能性もまだ持っていたという。

イスラエル軍は、ここしばらく、中北部で、激しい戦闘を展開しており、戦死者も出しながら、特に北部では兵糧攻めをしている様相で、世界の非難の的にもなっていた。今後の作戦にも変化が出てくるかもしれない。

2)アメリカの反応は?

August 18, 2024. (Kevin Mohatt / Pool / AFP)

アメリカの外務省は、シンワルの死後、ヘルツォグ大統領に電話をかけて祝辞を伝えた。ヘルツォグ大統領は、今の最優先事項は、人質の奪回だと伝えたという。

アメリカ国務省は、10月7日の首謀者であったシンワルが死亡して、主な障害が取り除かれた今、停戦と人質解放に向けた取り組みを加速すると表明した。

ブリンケン米国務長官は、すでに、カタールとサウジアラビアの外相とガザの戦後処理についての協議を始めた。近いうちに中東を訪問すると表明しているとのこと。

www.timesofisrael.com/israel-says-blinken-weighing-a-visit-as-us-seeks-to-renew-talks-after-sinwar-killed/

石のひとりごと

今朝起きた時、ちょうどイスラエル軍のハガリ報道官による記者会見が、ヘブライ語で始まっており、続いて英語の声明が始まるところだった。

シンワルの死亡を聞いて、人の死ではあるのだが、なんともいえない、浮いた気持ちが心にあった。同時に、今こそ、人質のために祈らなければとの危機感も強く感じた。

これは筆者の想像にしかすぎないが、もしかしたら、イランが、今イスラエルの攻撃を受けようとする危機に直面する中で、シンワルを見捨てて、ガザで戦闘を終わらせようしたのではないかとも思ったりする。

ナスララが死んで、ヒズボラがどうなるかもわからない。フーシ派はアメリカに攻撃されている。イランだけでも助かろうとしたのではないかと感じたりもする。

それにしても、聖書を知っている人なら、このことの背景に、聖書の神、主を思った人は少なくなかったのではないか。

シンワルは、人質に囲まれ、大勢の戦闘員に守られていると誰もが思っていた。ところが、全く予想外に、イスラエル軍の目の前に、たった2人の護衛で現れ、最後は惨めに一人で殺された。

顔も遺体も世界にさらす結果となった。しかも殺したのは、イスラエル軍のエリート部隊ではなく、司令官訓練生だった。

この光景から思い出すのは、カナン人の王ヤビンの将軍という立場にあったシセラが、イスラエル軍バラクの前に、一人、徒歩で逃げ、最後は、へベルの妻ヤエルという女性に殺されたという経緯である。(士師記4章)

結局のところ、イスラエル軍の力や能力によらず、ただ主の時がきて、シンワルが死亡したという様子である。伝道の書には次のように書いてある。

天の下では、何事にも定まった時期があり、すべての営みには時がある。生まれるのに時があり、死ぬのに時がある。植えるのに時があり、植えた物を引き抜くのに時がある。(伝道の書3:1-2)

これから主がどうされるのか、私たちにはわからないが、へりくだって、見守りながら、どうとりなすのか、教えてくださることを期待している。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。