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6日(水)、アメリカ大統領選挙で、予想外に、トランプ氏が、1日で当選確実となった。世界中が、大きな変化に直面することになり、イスラエルでもこれからどうなるのか、様々な憶測がひろがっている。
ここでは、主に、JPPI(Jewish People’s Policy Institute)で、アメリカ政治のエキスパートであるシュムエル・ロズナー氏の考えを紹介する。
次期トランプ政権とイスラエルの関係:前と同じではない?
トランプ氏は、前回、2017年から2021年まで大統領だった時は、ネタニヤフ首相との関係は非常に蜜月で、アメリカはイスラエルの強力な理解者、支援者だった。
まずは、イランと世界の核合意から離脱して、経済制裁を課すことで、イランが軍備を拡張できないようにした。これはまさに、ネタニヤフ首相が願っていたことだった。
また、アブラハム合意という、イスラエルと湾岸アラブ諸国の橋渡しを実現し、サウジアラビアとの国交への歩みも始まっていた。これは、イランへの大きな牽制にもなることであった。
さらに、トランプ氏は、これまでどの大統領もなしえなかった、米大使館のエルサレムへの移動を成し遂げた。
ゴラン高原の今のイスラエル領土における主権を認めたのもトランプ大統領だった。
Times of Isarelによると、トランプ氏は、その後もネタニヤフ首相とのコミュニケーションを続けていたとのこと。
こうしたことから、アメリカのユダヤ人79%がハリス氏を支持していたところ、イスラエル人の3分の2は、トランプ氏の当選を望むとの数値になっていた。
ネタニヤフ首相は、トランプ氏に祝辞を伝える世界首脳陣の中で、トップバッターだった。20分話したという。
www.timesofisrael.com/israeli-leaders-congratulate-trump-on-historic-victory-in-us-election/
しかし、トランプ大統領は、予測不能な人物であるだけでなく、周囲を取り囲む人材も前とは違っている。
また、今回、トランプ氏は、大統領選序で圧勝しただけでなく、上院でも共和党が過半数となり、その決定権は、前期よりもはるかに強くなっている。もはや、支持を維持するための周囲への配慮は前ほど必要なくなっている。
JPPI(Jewish People’s Policy Institute)で、アメリカ政治のエキスパートであるシュムエル・ロズナー氏は、何がおこるかはわからないとしながらも、トランプ氏に、前期の時と同じようなイスラエル支持を期待していたら、がっかりさせられるだろうと語っている。
ロズナー氏は、これからのアメリカとの関係において、次のように語っている。
1)短期的にはイスラエルに有利・長期的には孤立
ロズナー氏は、短期的視点では、トランプ氏が、イスラエルに有利に動くと予想している。すなわち、トランプ氏は、紳士ぶることがなく、バイデン大統領の民主党ほどに、人道支状況を重視しないと考えられるため、イスラエルの攻撃にブレーキをかけない可能性がある。
実際、イスラエルは、イランの核関連施設を攻撃すべきだとまで言っていたのである。これは今のネタニヤフ政権には有利な状況かもしれない。
しかし一方で、長期的に見れば、アメリカ・ファーストであることから、世界から孤立することになり、同盟国であるイスラエルも孤立することになる。この傾向は前期のときにもあったことである。
2)アブラハム合意の拡大は期待できず
ネタニヤフ首相は、アブラハム合意成立の後、サウジアラビアとの国交開始に非常に力を入れていた。ネタニヤフ首相は、今もこれを望んでいると思われる。
しかし、これについて、ロズナー氏は、今、イスラエルがガザとハマスの戦争真っ最中で、その先行きが見えていないこと、また、いよいよイランとの戦争にまで発展する様相にある中、アブラハム合意拡大の可能性は低いと語る。
もしトランプ氏が、アブラハム合意の拡大を進めようとするなら、まず、今の戦争終結を図らなければならないということである。
3)イスラエル政権内の混乱とアメリカとの関係
ネタニヤフ首相は、トランプ氏の当選が決定する直前に、ガラント防衛相を解任し、カッツ外相に交代させる方針を明らかにした。ガラント防衛相は、アメリカ軍や政権にも非常に信頼の厚い人で、ネタニヤフ首相とバイデン大統領の関係が冷え込んでいた中、唯一の連絡がつく窓口だったという。
そのガラント防衛相が不在となったわけだが、ロズナー氏は、基本的にアメリカとイスラエルの関係に変わりはないとみている。
しかし、政権内の混乱が拡大すれば、当然、イスラエルへの評価が下がっていくことになると語っている。
*ガラント防衛相解任に怒り爆発の市民たち
ガラント防衛相の解任について、イスラエル国内での怒りはかなり大きそうである。この度解任された、ガラント前防衛相は、政権内で、ユダヤ教正統派の徴兵を推進する唯一の政治家だった。
ネタニヤフ首相は、現政権を維持するために、人質を顧みるより、戦争を継続している。
さらには、ユダヤ教政党の言いなりになって、正統派からの徴兵免除も継続しようとしている。そのツケを背負って、戦場で死んでいるのは、徴兵された世俗派の若者だと訴えている。(ガザ戦争が始まってからの戦死者は781人)
デモは、5日に続いて6日夜にも行われており、エルサレムでは国会前でも行われていた。この世俗派たちの怒りが、イスラエル分断にまで発展していくのかどうかも、今後、注意していかなければならない点である。
www.timesofisrael.com/thousands-in-jerusalem-protest-gallant-ouster-for-second-night/
戦争終結のチャンス?:トランプ氏就任までの2か月半開く窓
トランプ氏は、その場その場で動くので、まったく予想がつかない人物である。トランプ氏は、戦闘を止めると宣言しているが、果たして、それをどう実行するのか、予想もつかない。
そのため、ハマス、ヒズボラ、またイスラエルにとっても、来年1月20日までまだ、少しはその手のうちが見えるバイデン政権の2か月半ほどの間に、戦争を終わらせる方向で、戦闘と、交渉で人質を解放させる動きが、加速する可能性があるとロズナー氏は指摘する。
実際、トランプ氏の当選確実になった6日(水)、イスラエルは、すでに大規模なベイルート(ヒズボラ関係地点)と北部への空爆を実施していた。
イランについては、もっと大きな問題に直面している可能性がある。
今もしイランがイスラエルを攻撃した場合、もうすぐ政権が終るだけでなく、次期政権への配慮も不要なバイデン政権が、米軍の支援とともにイスラエルの大きな反撃を許容するかもしれない。
また、そうなれば、次期トランプ政権になってからも、アメリカからの反撃(軍事的政治的)を受ける可能性もある。イランは今、イスラエル攻撃を再考しなければならなくなっている可能性がある。