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ネタニヤフ首相がアラブ自治体への送金を約束
9日、スモトリッチ経済相が、前ベネット・ラピード政権下で約束されていた、国内のアラブ自治体への追加予算(3億1400万シェケル)と、東エルサレム在住のアラブ系の学生への奨学資金を凍結すると発表。各方面から懸念が噴き出していた。
これについて10日、まず、ネタニヤフ首相が、「約束された予算は必ず送金する。政府はアラブ系市民にも、すべての市民のために働く義務を負っている。」とスモトリッチ財務相の発表を覆す内容を表明した。
www.ynetnews.com/article/hjgs8811nh
また国会では、あれほど分断している与野党(右派左派)議員たちだったが、スモトリッチ経済相の案については、反対することで合意するという事態になった。
エルサレムポストによると、合同で反対を表明したのは、まず野党代表のラピード氏、ガンツ氏、アラブ政党ラアム党、ハダシュ・タル党の党首。これに、与党リクードの大臣2人、与党ユダヤ教政党からの大臣2人が加わっていた。
さらには、国家安全保障会議責任者、シンベト(国家安全保障局)責任者もこれに反対する声明を出した。
アラブ地域への経済支援は、治安維持のために必要な方策であるという点では、与野党議員全員が、一致していたということである。
これにより、事実上、スモトリッチ経済相の方針は却下された形である。
この件をすでに決定したことのように発表したスモトリッチ経済相にとっては、いかに格好の悪い事態である。
スモトリッチ氏は、アラブ自治体へ流れる資金が、過激派に届いていないか監視するシステムを設立すると発表し、明言はしないものの、事実上、却下を受け入れた形となった。
スモトリッチ経済相が持っていた懸念と問題
この一連の流れについては、別の見方もある。スモトリッチ経済相の案には、一理あるのに、経済相自身のこれまでの言動から、世論は即座に「強硬右派の危ない政策」との色眼鏡ですべて判断されてしまったという見方である。
たとえば、アラブ自治体への資金については、主な目的が治安の維持を回復するというものだが、スモトリッチ氏は、「アラブ地区での治安の悪化は、彼らに任せるだけでは効果は期待できない。資金が地域の過激派に流れるだけに終わる。」と言っている。
東エルサレム在住のアラブ人学生への奨学金については、イスラエルに対して敵対心を持っている者に教育を補償するのはどうかという点である。
東エルサレムのアラブ人には、イスラエルの国籍を持っている人と持たない人がいる。
国籍を持っていないアラブ人のほとんどには、エルサレム住民というステータスを与えられており、選挙権はじめ、基本的にあまり権利に差はないようになっている。
しかし、かつて、選挙に行ったアラブ人学生が、周囲から責められたという事件があった。選挙に行くことで、イスラエルの存在を認めたことになるからである。
そこまでイスラエルに敵対を表明する学生に、ヘブライ大学の学費を支援することが、果たしてイスラエルの国のためになるのかというのがスモトリッチ氏の意見である。言われてみれば、一理あるようにも聞こえなくもない。
しかし、スモトリッチ経済相自身、強硬な宗教シオニストで、就任以来、明らかな人種差別的過激発言を繰り返して、問題となっている人物である。
もはや、強硬右派というイメージが定着し過ぎているので、十分に検討もされないまま、さっさと却下になったのではないか。問題はスモトリッチ経済相自身ではないのかとエルサレムポストは指摘している。
ただそれが皮肉にも、分断が深刻になっている今の政府に一致をもたらしたとも評されていた。
www.jpost.com/israel-news/article-754335
石のひとりごと
スモトリッチ経済相の案は、急激過ぎてアラブ人たちの怒りを呼ぶだろうという懸念があった。今、その可能性は一応、落ち着いた形である。
イスラエルという国は、どれほど意見が分かれ、争っていても、最終的に守らなければならないものが危ないとなると、恥も意地も横に置いて一致するという現実主義的な場合があるように思う。
だからやはり、どれほど今、分断しているように見えても、3度目に国を滅ぼすまでの分断にはならないのではないかとの期待を少し感じた一件であった。
とはいえ、物事は、そう単純でもない。いったい、何が正しかったのかは、後になってからでないとわからないということも、イスラエルの歩みの中には、少なからずある。結果が予想もしない形で出て来ることもある。
我々の限界を超えたところにおられる主が、彼らの決断を一つ一つ導かれていることを思わされる。