7年目を迎えるシリアの内戦。2015年にロシアが軍事介入を始めて以来、アサド大統領率いるシリア政府が勢力を回復し、ISはじめ、各地の反政府勢力を鎮圧、領地を奪回しつつある。
こうした中、シリア政府軍がいよいよシリア南部、ヨルダンとイスラエルの国境付近の反政府勢力の掃討を開始した。
これにより、デラアを中心とした地域で6月19日から激しい戦闘となり、シリア難民32万人が発生。ヨルダンは、難民をこれ以上受け入れるのは限界だとして、受け入れを拒否したため、6万人ほどが、イスラエルとの国境、ゴラン高原クネイトラ方面へ近づいてきた。
イスラエルは、難民を受け入れない方針を決め、代わりにゴラン高原シリア側に、テント村を提供し、人道医療支援を行なっている。(以下に詳細)
その後、約1週間後の7月7日、シリア政府軍と反政府勢力が、ロシアの仲介で停戦に合意。反政府勢力が非武装に応じ、一部はシリア北部にかろうじて残っている反政府勢力支配域イドリブ地方へ移動したもようである。これで、シリア南部はアサド政権の支配するところとなった。
戦闘がやんだことを受けて、難民数万人が、デラア方面への帰還を始めている。
www.timesofisrael.com/thousands-head-home-in-south-syria-after-ceasefire-deal-monitor-says/
<シリア内戦終焉のはじまり?>
今回、シリア南部で反政府勢力が敗北したことで、いよいよアサド政権が反政府勢力鎮圧に成功し、内戦が終焉に向かう可能性が出てきた。
イスラエルとの国境、クネイトラ周辺にいる反政府勢力は、北部はすでにシリア政府勢力になっているので、南部のヨルダンからの補給に頼っていた。今回の南部での敗北により、反政府勢力は、いわばシリア政府軍に包囲された形になった。
クネイトラ周辺の反政府政府勢力が、シリア南部のように降参する日はそう遠くないだろう。今回のシリア南部でのアサド政権の勝利は、7年間続いたシリア内戦終焉のはじまりとの見通しになっている。
とはいえ、アサド政権は、多くの国民を殺戮しており、このまま平穏にシリアという国が回復するとはとうてい考えられない。反政府勢力、特にISやアルカイダなどが消滅したわけではなく、シリア国内では今後も恐ろしいテロは続くだろう。
また、国土は、今や北西部はクルド人勢力の独立を危惧するトルコが支配し、北東部はアメリカの支援を受けたクルド人勢力が支配する地域となっている。たとえ内戦が終焉を迎えても、シリアに平和が戻るとは考え難い。
<イスラエルの対処>
イスラエルと国境を接するゴラン高原のシリア側を再びアサド政権が支配するようになることは、アサド政権を支持するかどうかは別として、イスラエルにとって益になる可能性がある。
ただし、回復する(予定の)アサド政権が、1974年の合意を順守するなら、である。
イスラエルとシリアは、ヨム・キプール戦争後の1974年に定められた合意で、両国が接するゴラン高原に、非武装地帯を設け、それを監視する国連軍をクネイオラに置くことで、40年以上、衝突することなく、比較的平穏に過ごしてきた。
しかし、内戦で、反政府勢力がクネイトラ周辺を支配するようになり、国連の監視団はいるにはいるが、まったく無能状態でいるのかいないのかもわからないというのが現状だ。
もしアサド政権が、この地域の反政府勢力を掃討したあと、両国の間の非武装地帯を順守せず、ゴラン高原に迫ったきた場合、イスラエルはシリアとの国境に大規模な軍事力配備を余儀なくされるだろう。
シリア軍にまじって、ヒズボラやイランがその中に混じって迫ってくる可能性があり、戦争勃発の可能性は高まる。イスラエルは、今後のシリア情勢を注意深く見守っているところである。
<イスラエルがイラン基地T4を攻撃か>
9日、シリアのメディアは、イスラエルが、再びシリア領内のイラン軍が使用する空軍基地T4をミサイル攻撃したと伝えた。T4が攻撃されるのはこれが3回目である。
イスラエルはノーコメントを続けているが、おそらくイスラエルによるもので、シリアとイラン、そしてロシアに向けたイスラエルの「防衛のためには躊躇しない」という意思表示であると言われている。
www.haaretz.com/israel-news/syria-airstrike-hits-t4-airbase-near-homs-1.6248915
ネタニヤフ首相は、今週木曜、ロシアのプーチン大統領の招きで、モスクワを訪問することになっている。プーチン大統領は、ワールドカップ外交として、諸外国を招いているのである。このタイミングでのT4攻撃である。
ネタニヤフ首相は、プーチン大統領に、シリア領内のイラン勢力を、一掃するよう要請するとみられている。
www.timesofisrael.com/netanyahu-to-meet-with-putin-in-moscow-next-week/
<イスラエルに接近するロシア>
今週、ネタニヤフ首相がプーチン大統領を訪問するが、両首脳の会談は、6月15日に続いて2回目である。ところのロシアの様子をみると、どうもイスラエルに接近するような態度をとっている。
シリア領内でイスラエルが、イラン軍関連基地を攻撃できているのは、背後にロシアの暗黙の了解があると考えられている。
また、今回のシリア南部へのシリア政府軍の攻撃では、ロシア軍が大きな役割を果たしていた。これはイスラエルの要請に応じて、シリア軍の中にヒズボラやイランが加わらないよう要請したため、ロシア軍がカバーしたともみられている。(35万人いたシリア兵は今や3万5000人しかいない)
なぜロシアは今、イスラエルに接近していると思われる態度に出ているのだろうか。
シリア内戦終焉後のシリアでは、プーチン大統領が大きな影響力を持つことになるが、そのロシア影響下のシリアで、今後、問題を起こすとすれば、イランの台頭と、それと衝突するイスラエルである。
ロシアは、今、イスラエルのイラン軍施設への攻撃を黙認し、イラン勢力の台頭を抑えようとしていると考えられている。
一方、イスラエルとしては、今後、ロシアとの友好関係を良好に維持し、できれば、ロシアの一声で、今のうちにヒズボラとイランをシリアから追放してもらいたところである。