2月2日、イスラエル人女性(25)が、北部ヘルモン山で、国境のフェンスが途切れている地点から、シリア領内のドルーズの村に入りこみ、シリア当局に保護された。その後、女性は、シリアで実権をもつロシアに引き渡され、今週になってプーチン大統領からネタニヤフ首相に通達があった。
ネタニヤフ首相は、ただちにプーチンだ大統領と交渉を重ね、イスラエルにいる囚人と交換で女性を取り戻すことで合意。当初、シリア国籍を持つ囚人2人が交換に出される予定だったが、囚人が、シリアに引き渡されることを拒否したため、交換が数日遅れたもようである。
最終的に、今月、羊を追ってイスラエル領へ迷い込んだ羊飼い2人*がシリアへ引き渡され、女性は17日、モスクワからテルアビブに到着した。帰国後24時間たってから、シンベト(国内治安諜報部)が女性への事情聴取を行っている。
*最近、ヒズボラなどの武装兵が、羊飼いを装ってイスラエル領内に入り込むことが発生していた。
ロシアの要請もあるらしく、詳細はまだほとんど明らかにされていないが、女性はモデイーン在住で、流暢なアラビア語を話すとのこと。”個人的な問題を抱えている”と伝えられている。また、女性はガザへ入ろうとしたことが2回、ヨルダンに入ろうとしたこともあったという。その度に保護され、引き戻されていた。
www.timesofisrael.com/woman-brought-back-from-syria-undergoing-shin-bet-debriefing/
この女性がどんな背景を持っているのか、まだなぜシリアに入ったのか、自己責任をいっさい問うことなく、ただイスラエル人であるということだけで、ともかくも連れもどし、調査はそれからというところが、イスラエルらしいところである。
が、ネタニヤフ首相は、選挙前でもあり、「プーチン大統領との個人的なつながりを使って解決する。」と言っていた。その後、帰国できた女性に戻れてよかったと伝え、その母親から感謝されるネタニヤフ首相にとっては、選挙直前の一つの白星になりえたかもしれない。
<複雑なシリア、ロシア、イスラエルの関係>
この問題は、国内でも大きな問題になりかねないほどのことであるが、ロシアの要請もあるとのことで、まだ詳細はほとんど明らかになっていない。しかし、おそらく、ロシアとイスラエルの間で、人質交換以上の何かの約束があったのではとも指摘されている。
イスラエルは、昨年から50回以上もシリア領中のイラン関連施設を攻撃し続けている。シリアを実質監督しているロシアは、シリアとともに、イスラエルに対し、こうした攻撃を控えるよう、要請を受けている。しかし、これまでのところ、イスラエルはこの要請を受け入れていない形が続いている。
これについて、ロシアは、それなりに見過ごしてくれているというのが、イスラエルの理解である。こうした中での捕虜交換だったということである。捕虜交換の他になにかあったのではないかとの見方もある。
日本を含む欧米諸国は、今、バイデン大統領とともに、一つになって共産国と対立しようとしている。イスラエルは、欧米と近くはあるものの、中東で生き延びるためには、ロシアとも、うまくつきあっていかなければならない。まさに綱渡りのサバイバルである。
中東での交渉ごとは、チェスに例えられる。相手の出方、幅広く周囲の出方を計算しながら先の先まで見越して動く必要がある。ネタニヤフ首相は、まさに蛇のごとくなのだろう。
昨日、聖書時代のアッシリアやバビロンに向かうイスラエル王国、ユダ王国の歴史を学んだが、まさに、当時も交渉、交換など、今と同じようなやりとりが繰り広げられていたのであった。