先週のガザとの攻防に続き、北部ゴラン高原でも、シリアからのミサイルが飛来した。これらは別個の攻撃ではなく、どちらもイランが背後にいるとみられる。実際はどうなっているのかは、不明だが、ニュースから判断される動きをまとめた。
<続く実質イラン?からの攻撃>
1)ガザからの攻撃
シリアのイランの存在感が増しつつある。12日、イスラエルは、ダマスカス近郊にいたイスラム聖戦(イラン傀儡)幹部アクラム・アル・アジョウリを暗殺。同時にガザでもバハ・アブ・アル・アタを暗殺して、14日からガザのイスラム聖戦との激しい衝突が2日間続いた。
この時、イスラエルに撃ち込まれたロケット弾は、約400発。深刻な人的被害はなかったが、空き地に着弾したロケット弾が、直径2−3メートルのクレーターを残しており、これまでより強力なミサイルであったことがわかった。
2日後、一応の停戦となったものの、その後も時々、イスラエル南部へのロケット弾攻撃が続いた。15日には、停戦合意にもかかわらず、イスラエル第3の都市ベエルシェバに向かって、ガザからミサイルが発射された。
こちらも迎撃ミサイルの活躍で被害はなかったが、ちょうど安息日入りの夜で、3000人がナイトクラブに集まっているところにサイレンが鳴り、シェルターへ駆け込む騒ぎとなった。ショックで搬送された人もいた。
www.timesofisrael.com/rocket-sirens-sound-in-beersheba-idf-investigating/
イスラエルは、これについては、イスラム聖戦ではなく、ガザのハマスへの反撃を実施した。しかし、この攻撃はハマスの指示ではなく、ハマスの中の一派が勝手にやったとの見方もある。この後、南部はようやく静寂が戻った。
2)シリアからの攻撃
ところが今度は、19日早朝から、北部ゴラン高原、ガリラヤ北部にミサイルが4発が飛来した。こちらもアイアンドームがすべて撃墜し、被害はなかった。
しかし、イスラエル軍は、20日深夜すぎ、シリアのダマスカス近郊のイラン軍とシリア軍の拠点を20カ所を戦闘機が攻撃。シリア側情報によると23人が死亡した。このうち16人はシリア人ではない外国人で、イスラエルはイラン人とみている。
シリア国営放送は、この攻撃で、市民2人が破片によって死亡、複数が負傷したと伝えたが、シリア軍が地上から反撃したかとみられるミサイルを発射したが、それが市街地に落ちる映像が残っており、市民の死傷者はそれによる可能性も否定できない。
なお、戦闘機による攻撃と言っても、そのあとかたは航空写真でみてもわかりにくいほどのピンポイント攻撃で、いわゆる空爆で焼け野原になったというわけではない。しかし、イランには、かなり大きな打撃であったようである。
今回、破壊されたのは、ダマスカス国際空港内のイラン革命軍クッズ隊の中枢司令部がある建物の2階3階部分、また、諜報部があったとみられるビルの上2階部分、郊外のアル・マゼ空港にある革命軍司令部と駐車場ビルのみである。その他は、破壊されずに残されている。
イスラエル軍によると、今回は、イラン革命軍が駐留する上記2空港と、革命軍が関わっているとみられるシリア軍の拠点も攻撃したとのこと。
www.timesofisrael.com/photos-show-alleged-quds-force-headquarters-destroyed-in-idf-strikes/
イスラエルは、イランからイラクを経てシリア、レバノンへ搬入されてくる武器輸送隊を、シリアにおいて、数え切れないほど攻撃してきた。しかし、今年7月、初めてシリアを超えて、イラクとイランの国境付近への空爆を実施した。そこからイランの武器の搬入が始まっていたからである。
イスラエルが今回、ミサイル4発に対し、これほどまでに大規模に、しかも反撃を覚悟しながらも、直接イラン革命軍を攻撃したということは、それほどイランの脅威がイスラエルに近づいているということであろう。
ベネット防衛相は、「イスラエルはサウジアラビアとは違う。イランとはいえ、(イスラエルが恐れて)反撃を控えることはない。」と強力に釘をさすコメントを出した。
<拡大するイランの脅威:ニューヨークタイムスの摘発>
18日、ニューヨークタイムスとインターセプト(メディア会社)は、イラク内部からのリークとして、700ページにわたる情報を公表した。イラクにいるイランの諜報機関が、2014−2015年に、ケーブルを介してイラン本国に送った記録である。
リーク元は、「イランが私の国イラクで何をしているのか世界に知ってもらいたい。」と言っていたという。
それによると、2003年に米軍がイラクのサダム政権を打倒した直後から、イラン革命軍(スレイマニ将軍)がイラクに介入し、以後、イラクの主権はイランに牛耳られていたもようである。当時、イラクに駐留していたアメリカ軍の動きもイランにリークされていた。
www.nytimes.com/2019/11/18/world/middleeast/iran-iraq-cables.html
イランは、ほぼその支配下に入れたようなイラクから、内戦中のシリアに入って、軍事拠点を徐々に構築し、今では、アメリカ軍もイランの軍事拠点を、シリアから排斥する必要を認識するまでになっている。イスラエルにとっては、もう待ったがきかないぐらいに懸念される状況になっているようである。
<ロシアがイスラエルの攻撃を非難・警告>
イスラエルが、シリアのイラン革命軍拠点に大きな打撃を与えたことについて、18日、イスラエルがヨルダン空域を侵犯してシリアにいるイラン革命軍を攻撃したなどの詳細を公表。地域の安定を著しく脅かすものだとして、強く非難し、警告を発した。
www.ynetnews.com/article/Sk8CdpXnB
レバノン系メディアは、ゴラン高原へのミサイル4発は、先にイスラエルが、シリアとイラクとの国境付近を攻撃したことへの報復だと伝えた。情報が錯綜しており、実際にどうであったかはもはや確認のしようがない。
<石のひとりごと:ロシアの出方?>
ロシアは、現時点まででは、イランがシリアで軍事拠点をあまり多く築くことには賛同していなかった。そのため、イスラエルがイラン拠点を攻撃することを暗黙に了解していた。しかし、今回、ロシアが、イスラエルに対し、強い警告を出したということは、単に立場上のことか、重要な方向転換と見るべきかはわからない。
先月、アメリカ軍がシリアから撤退し、トルコがその後へ侵攻したわけだが、その地域に、今、トルコとともにロシア軍も入って駐留を始めている。今や混乱極まるシリアで最も影響力を持つのはロシアと言われている。
今はまだイスラエルとの戦争は考えていないが、最終的に、ロシアが、イスラエルを攻撃すべきだと判断し、号令をかければ、ロシアとともに、トルコ、イラン、シリアがいっせいにイスラエルへなだれこんでくるというシナリオも、十分ありうる状況ではないだろうか。
また、懸念されることは、中東だけでなく、トランプ大統領の親イスラエル政策が拍車となって、イスラエルを嫌悪する国々や反イスラエル的な感情を持つ人が増えていることである。ヨーロッパでは、25%の人が反ユダヤ主義思想を持っているとの調査結果も発表されている。
中東に限らず、やがて全世界が、イスラエルは消え去るべきと考える時もそう遠くないかもしれない。