コロナ危機下の戦没者記念日 2020.4.28

外出制限前にヘルツエルの丘を訪れた家族連れ 出展:GPO / Dalon Horowitz

イスラエルでは、27日日没から戦没者記念日を迎えた。戦没者として覚えられるのは、1860年から、現在に至るまでに国の存続のために戦った指導者たち、戦いの中で戦死した兵士たち、警察官である。昨年から42人増えて、2万3816人となった。この日は、テロ被害者も覚えられるが、今年は3153人となった。

www.jpost.com/israel-news/an-empty-western-wall-ceremony-begins-memorial-day-2020-626121

通常なら戦没者の遺族たちでいっぱいになるヘルツエルの丘だが、今年、政府は、新型コロナの感染防止のため、27日夕刻の戦没者記念日から、29日夕刻の独立記念日が終わるまでは、以前の外出規制に戻すとした。27日午後18時以降、ヘルツエルの丘は無人となる。

戦没者記念日に、愛する家族の記念の場所に行けないということは、家族にとって大きな痛みである。このため、イスラエル軍は、ヘルツエルの丘の墓碑すべてに、小さな国旗と花束を置いて写真を撮って遺族に送った。

また、シンベト(国内治安諜報部)は、遺族たちを少しでも慰めようと、遺族宅を個別に訪問し、花束と記念キャンドルと、アルガマン長官からの手紙を届けることにした。長官の手紙には、「日々感じる喪失の痛みを、力とインスピレーションにしていきます。」との決意が書かれていた。

27日午後8時(日本時間午前2時)の黙祷のサイレンの際には、シンベトから派遣された兵士たちが、家族とともにたって黙祷したとのことである。

イスラエル軍式典:ヘルツェルの丘

ヘルツエルの丘での戦没者記念式典は、27日、無観客で行われた。コハビ参謀総長は、遺族たちをねぎらい、「私たちも彼らに続く。」とし、私たちの勝利を表す3つの言葉がある。「私たちに国がある。(We have the State)」と述べた。

式典後、戦没者墓地では、マスクを貼用したイスラエル軍兵士の手で、小さなイスラエルの旗が設置された。 クリップ出展:IDF フェイスブック

イスラエルのテレビでは、戦没者記念日中、通常のプログラムは中止され、戦没はとして数えられた人々の名前が読み上げられる。また、戦没者をしのぶクリップも紹介された。

IDFクリップ「兵士の最後の手紙」


ツァヒ・イタさん(20) ベイト・アビハイで作成される一兵士をしのぶクリップ

嘆きの壁で国家式典:全国つなぐハティクバ

夜8時、全国でサイレンが鳴り響き、国民は黙祷。その後、嘆きの壁広場では、遺族の参加はなしで国家式典が行われた。リブリン大統領は、本来なら式典に招かれている家族たちや、家で中継を見ている家族たちにむかって次のように述べた。

”今年は、いつもにもまして、命を捧げてくれた人たちを覚えます。遠くからですが、(遺族の)みなさんを抱きしめます。心は一つです。戦いで負傷し、回復までに長い時間を要している兵士、警察官のおひとりおひとりを思います。息子たち、娘たちの思い、私たちの心に永遠に刻みます。”

式典最後に、国家ハティクバが歌われる際、全国民にベランダや屋外に出て、いっせいに歌うよう要請が出されていたが、国民の多くがこれに応じていた。*クリップの最後の方を見てください。

ディアスポラもオンラインでハティクバ

ディアスポラ(海外のユダヤ人)を助けるユダヤ機関、イスラエルのマサという組織は、毎年、主に海外在住のユダヤ人1万2000人規模戦没者記念日のイベントをラトルンで行ってきたが、今年は、コロナ危機で中止となった。そのため、式典を事前に撮影して、国家式典と同時に、全世界にオンラインで流された。

最後には、イスラエル国民とともに、ズームでつないで、オンラインでハティクバを歌った。コロナ危機によって、オンラインではあるが、逆に、世界のユダヤ人たちを一つにした形となった。

www.israelnationalnews.com/News/News.aspx/279279

ユダヤ教超正統派:詩篇朗読プロジェクト

イスラエルのユダヤ教超正統派は、通常、国は神が建てるものなので軍隊は不要と考えている派が多いが、中には、戦没者に感謝を捧げる派もあるようである。

「One People」というページにいくと、戦没者の数2万4000人(約)にあわせて、詩篇全体の朗読を2万4000回行うというプロジェクトをやっている。以下のサイトで参加者できる(ただし読む箇所がヘブル語数字)。

28日朝7時(イスラエル時間)の時点で、4万6258章が読まれ、詩篇全体を317回読んだことになっている。*注意:ユダヤ人の聖書は、若干章の数字が異なる

www.prayandremember.org/5ea6853ff4145c4bb22d3af7

テルアビブ(左派)はパレスチナ人とジョイント戦没者記念日

戦没者記念日の夜、左派が多いテルアビブでは、パレスチナ自治区ラマラとつないで、ジョイントメモリアルイベントを行った。コロナ危機の影響で、こちらも無観客であったが、オンラインで流され、ズームで20万人が参加したとのこと。

主催は、草の根家族フォーラムで、紛争で子供達を失ったユダヤ人・パレスチナ人双方の親たちからなるグループ。もう一つは平和のための戦いという、イスラエル人とパレスチナ人からなるグループである。

スピーカーとして立ったのは、イスラエルとパレスチナの戦争やテロで家族を失った双方の人々であった。パレスチナ人の出席者としては、2018年に過激な西岸地区ユダヤ人入植者たちに、車への投石で妻、アイーシャさんを殺された夫、カコウブ・ラビさんも含まれていた。

昨年、ネタニヤフ首相は、西岸地区からパレスチナ人十数人がテルアビブでのイベントに参加すると聞いて、イベントを中止するよう指示した。しかし、最高裁は、民主国家として受け入れるべきとして、指示を取り下げるよう命じた。このため、今年もこのイベントが実施されたのであった。

戦没者記念日が終わる28日の日没後は一転、第72回建国記念日を迎える。28日没後午後8時(日本時間29日午前2時)から始まる式典は以下で見ることが可能。

石のひとりごと:コロナとの戦いで戦死した医師たち

コロナとの戦いは戦争と同じだとトランプ大統領が言って、物議になったが、実際のところ、新たな時代の戦争の形の一つと言えるのではないだろうか。

アメリカに次いで、激戦地のイタリアでは、今も1日で300人以上が死亡して、犠牲者は計2万6977人。この戦いにおける兵士は医師、看護師など医療従事者だが、時事通信によると、イタリアで、コロナとの戦いで死亡した医師は、これまでに151人に上っている。将来、イタリアでの英雄として覚えられることだろう。

headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200428-00000007-jij_afp-int

コロナとの戦いにおいて、イスラエルでは、当初はやはり、油断や持ち前のアバウトさが出ていたが、3月中旬ぐらいからは、国も国民も臨戦対応で、一丸となってコロナと戦っていたように思う。これが戦争と同じだということを皆が理解しているかのようであった。イスラエルでは、幸い、この戦いでの戦死者は出なかった。

今日のデータでは、側近24時間のイスラエルでの新たな感染者は112人、人工呼吸器依存者は96人と、さらに減っており、来週日曜から、学校をオープンにするとか、モールも大丈夫ではとの話になっている。今回の衝突は、今の所、一段落になる流れである。

しかし、これが、最後の戦いでないことは、だれもがよく知っている。もう次の決戦にむけて、イスラエルは着々と準備している。

SF小説などで、将来、建物は破壊されないのに、中の人間だけを殺すというような生物兵器が出てきたりするが、新型コロナを見ると、そういう武器もありうるということを思わされた。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。