エルサレム旧市街・ハマスのテロでイスラエル人1人死亡 2021.11.22

現場で使われた武器 イスラエル警察

エルサレムでテロ:イスラエル人1人死亡・4人負傷

21日朝、エルサレム旧市街の神殿の入り口近くの通路(嘆きの壁に近いチェーン門付近)で、ハマスメンバーのアブ・シュカイダム(46)がマシンガンを乱射した。

www.ynetnews.com/article/ryln4oduk

付近にいた国境警備員らが直ちにテロリストを射殺したが、イスラエル人1人が死亡。1人は重症、3人が中等度の負傷という大惨事となった。警備員たちも飛び散った破片などで負傷している。(事件後の現場/インタビューは、バーレブ国内治安相)

事件の夜、治安部隊は、関係者捜索のため、シュカイダムの居住地である東エルサレムの難民キャンプ・シュアハットに突入し、シュカイダムの親族3人を逮捕したが、この時に、パレスチナ人たちが、ハマスの旗を振りながら、デモ行進を行って治安部隊と衝突。投石や催涙弾が飛び交う戦闘になった。

www.timesofisrael.com/israeli-forces-raid-neighborhood-of-jlem-attack-terrorist-relatives-said-arrested/

一方、この同じ頃、旧市街では、右派議員と右派シオニストのユースグループの一団が、イスラエルの旗を振りながら、ヤッフォ門から入って事件現場までデモ行進を行い、現場で愛国の歌を歌っている。犠牲となったイスラエル人、エリヤフ・デービッド・カイさん(26)が、熱心な右派シオニストであったためである。

この日、エルサレムでは、この他にも市民が、手榴弾を投げつけられる事件が2件発生。軽症を負った人が1人、ショックで搬送された人も出ている。

今後、イスラエルとハマスの衝突が、5月の時のよう再燃するのではないかと懸念されている。

ハマスのテロリスト:エルサレム市立学校教師・熱心なイスラム教教師

アブ・シュカイダム(42)

今回のテロリストは、ハマスのアブ・シュカイダム(42)は、エルサレム市から給与を受けて市立学校で教える教師であった。

東エルサレムの難民キャンプシュアハットに妻と3人の息子、2人の娘と在住していた。家族は、事件の3日ほど前にエルサレムを脱出しており、おそらくヨルダンへ逃亡したとみられる。

ハマスが発表したところによると、シュカダイムは、毎日アルアクサ(神殿の丘)で、イスラム教を教え、その叔父によると、エルサレム市内の複数の学校で、イスラム教を教える、いわばイスラム教の熱心な宣教師のような人物であった。

このような人物にエルサレム市は、教師として給料を払っていたわけである。モシェ・リヨン市長はじめ、エルサレム市はこの件についてはコメントを拒否している。

イスラエル人犠牲者:単身移住のシオニスト

エリヤフ・デービッド・カイさん(26)

今回犠牲となったイスラエル人は、エリヤフ・デービッド・カイさん(26)。2016年に、南アフリカから単身移住して、ハバッド派のイシバ(ユダヤ教神学校)で学び、その後イスラエル軍に従軍。超正統派からなるパラシュート部隊に配属され、ガザ国境で任務についたこともあるという。

兵役後は、ガザに近い、キブツ・ニリムに住み、農業に親しむ一方、嘆きの壁のガイドも務めていた。周囲の人々が認める熱心なシオニストだった。葬儀は本日日本時間午後5時に行われる。

www.jpost.com/israel-news/eli-kay-passionate-zionist-whose-heart-was-always-open-to-his-friends-685622

こうした右派的な背景からか、事件当日夜、旧市街では、イスラエルの右派議員含む右派活動家たちが、旧市街のテロ攻撃があった付近に向けてイスラエルの旗を振りながらデモ行進した。「(テロリストたちの)村は燃えてしまえ」といった反アラブ的なスローガンを叫んでいたものもいた。

また右派ユースグループも、「我々は恐れない」と歌いながら事件現場へ行進した。こちらでは、パレスチナ人との衝突は、なかったもようである。

ハマスがまた暴力的になってきた理由

ハマス旗 AFP

エルサレム旧市街では、先週、16歳のアムール・アブ・アサブが、国境警備員に斬りかかって逆に射殺された事件が発生したところであった。ハマスは、アサブがハマスメンバーであったと言っていた。

こうしたハマスの動きの背景にはいくつか、その要因を考えることができる。一つは、東エルサレムにアメリカの領事館を再開させることにイスラエルが合意しない点。

イスラエルはエルサレムをイスラエルだけの首都であると主張しており、パレスチナ人とアメリカの政治的な接点になりうる領事館の再開は、認めないと明白に表明している。これは、東エルサレムをパレスチナの首都とするというパレスチナ自治政府の主張を否定することに他ならない。

これについて、パレスチナ自治政府は、なんの手立てもできないでいる。エルサレムは、パレスチナ人にとっても大事な都市である。このため、ハマスは、イスラエルとの強行姿勢を再び強調し、パレスチナ人たちの支持を高めようとする政治的な要因が考えられている。

www.israelnationalnews.com/News/News.aspx/317325

もう一点は、イスラエルが、6つパレスチナ支援NPO団体をテロ組織と認定したこと、またこれに続いて、イギリスのジョンソン首相が、ハマスをテロ組織としたことである。イギリスのテロ指定は、ハマスにとって大きな打撃である。

www.jpost.com/breaking-news/uk-to-label-entirety-of-hamas-as-a-terrorist-organization-685468

ベネット首相が、公式にジョンソン首相に感謝を表明した他、現在、イスラエルのヘルツォグ大統領が、公式にイギリス訪問を行っている。この時にイギリスに反発することで、その存在感を強調しているとも考えられている。

www.jpost.com/opinion/there-is-only-one-face-to-the-terror-group-hamas-editorial-685619

石のひとりごと

パレスチナ人の難民キャンプは、成立してからもう70年を超える。当時の難民からは孫、ひ孫の時代になっているのに、まだ“難民キャンプ”なのである。

以前、日本の大手メディアの記者が、「もう同じことの繰り返しばかりで、うんざり」と言っていたのを思い出す。確かに、“戦いやまず、日は暮れず”である。

これ以上、イスラエル人に犠牲者が出ないよう、またイスラエル人を襲って自分の命を無駄にしようとするパレスチナ人のこころに疑いが起きるように、また冷や水をかけてくださるように。経済的な理由から、またハマスの圧力で犯行に及ばざるを得ないパレスチナ人に、そこからの解放が与えられるように・・・。

また、逆に、過激右派ユダヤ人の反撃が心配だ。双方に争いの火種がこれ以上大きくならないように、天から頭を冷やす水をかけてくださるように。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。