昨日30日、エルサレムでは、ゲイ・プライド・パレードが行われた。テルアビブと違い、宗教的なユダヤ人の多いエルサレムには、これに反対するユダヤ教徒が、暴力的なデモを行う可能性がある。
昨日も、警察官、国境警備隊などが文字通りうようよする中、パレードが行われたのだが、途中で正統派ユダヤ教徒とみられる男性が、大きなナイフをもって群衆の中へ切りかかり、6人が負傷する騒ぎとなった。
事件が発生したのは、パレードが動き始めてから15分ぐらいだっただろうか。急に4-5台の救急車と警察の車両がけたたましいサイレンを鳴らして、群衆をかき分けて通り過ぎて行った。
「水をさす」とはまさにこのことである。皆の顔から一気に笑顔がなくなった。呆然としている。そのうち、それぞれがiPhoneのニュース速報をチェックしたり、家族に無事を知らせると思われる電話をしはじめた。
現場にかけつけると、もう6人が搬送された後で、テレビ局が現場中継を行い、目撃者のインタビューが行われていた。
ナイフを持った犯人はその場で逮捕され、後に正統派のイシャイ・シュリーセルと発表された。イシャイは、2005年にもエルサレムでのゲイ・パレードで同様の事件を起こし、3人を負傷させていた。
その罪で12年の実刑判決を受け、10年近く服役し、数週間前に釈放されたばかりだった。イシャイは、今回の犯行の2週間前に、「主の御名によって殺しに来た。このような(ゲイ)”冒涜”には、たとえたたかれても排除することがユダヤ人の義務である」と、明らかな殺意を手紙に書き残していた。
負傷した6人のうち2人は、翌日の31日、まだ重傷と伝えられたままである。
こうした事件が発生した場合、日本ならばパレードはすぐに中止となるところだが、さすがはイスラエル。
負傷者が搬送され、事が落ち着いたのは10分ぐらいだっただろうか。現場を通過するパレードは、そのまま再開となった。とはいえ、皆の顔は一様に不安でしおれたまま。iPhoneに向かったり、電話しながら、黙々とを歩くといった感じだった。
<エルサレムとテルアビブの全く違うゲイパレード>
エルサレムのゲイ社会とテルアビブのゲイ社会は様相がかなり違っている。
テルアビブでは、半裸状態で露骨な性表現は放送できないほどで、パレードする人もビールを飲みながらといった肉欲の固まりだが、エルサレムでは、半裸の人はおらず、ビールもなし。
肉欲を満たすことではなく、ゲイの人々を受け入れるべきであるとするいわば、民主的なデモ行進の色調が強いのである。
パレードへの参加人数も、テルアビブが、10万人であるのに対し、数千人程度。虹色の旗をかかげ、数人の女装した性転換の男性(女性)や、いかにもゲイカップルとともに、ゲイではない人々も多数いる。
中には、「ユダヤ教徒で、ゲイをサポートするグループ」といった看板を掲げ、赤ちゃんをつれて歩いている普通の若い家族連れや、小学生ぐらいの孫二人をつれた70才近い、上品な女性もいた。
この女性は、息子がゲイで中国人男性と結婚していると語った。孫二人は、ゲイではない娘夫婦の子供たちなのだが、虹色の旗を掲げ、おばあちゃんとともに、ゲイをサポートするとの主張である。
パレードの終点、ベルパークでは、ステージが設置されていた。事件があった直後だけに、人々の表情は沈んでいる。主催者で司会の男性(女装)も、真剣な表情で、「こんなことがあっても、ゲイ・コミュニティはエルサレムから出て行かない!」ともりあげていた。
エルサレムの副市長(副市長は8人いる)のオフェル・ベルコビッツ氏は、「今日のような事件があると、ゲイへのサポートはもっと増える。エルサレムは、テルアビブとは違う。ゲイの人も含め、すべての人々の権利を守ることに全力を尽くす。」と語った。
シオニストを象徴する青いシャツに身を包んだティーンエイジャーのグループは、それぞれが「ゲイです」とか「トランスジェンダーです」とか語り、ユースムーブメントでもゲイを受け入れてほしいと訴えた。
ラビ・ベニー・ラウは、「神はあなた方を愛しています」と群衆に訴えていた。
その会場から歩いて5分のところにある旧鉄道駅広場では、別の群衆が、夏のコンサートを楽しんでいた。ゲイ・パレードの群衆よりちょっと年配と、小さな子供をつれた家族連れである。
レストランはどこも満席である。すぐ近くで、刃物によるテロがあったとはだれも知らない様子で、夕涼みといったところ。治安部隊にとっては、実に忙しいエルサレムの夏がはじまっている。