エルサレムのシナゴーグで銃撃テロ:イスラエル人7人死亡 2023.1.28

Israeli emergency service personnel and security forces stand near a covered body at the site of a reported attack in a settler neighbourhood of Israeli-annexed east Jerusalem, on January 27, 2023. (Photo by AHMAD GHARABLI / AFP)

安息日入りの昨日金曜夜8時半ごろ、エルサレム北部のネエベ・ヤコブのシナゴーグで、パレスチナ人による銃撃テロが発生。

イスラエル人7人が死亡。3人が負傷した。ここ10年ほどの間で最悪の事態である。以下はロイターが報じた現地の様子。

犯行後、テロリストのアルカム・カイリ(21)は、車ですぐ近くのパレスチナ人地区ベイト・ハニナに逃げ込んだが、そこで、かけつけた警察に発砲したため、その場で射殺された。

西岸地区ジェニンでのイスラエル軍との衝突で、パレスチナ人9人が死亡した翌日のことであり、その反撃とも受け取れる今回のテロを受け、ガザや西岸地区各地で、花火を打ち上げて祝う様子が報じられている。

単独パレスチナ人による銃撃テロの経過

26日(木)、ジェニンでのイスラエル軍とパレスチナ人の衝突で9人が死亡し、その夜、ガザからはロケット弾が飛来。イスラエル軍が反撃の空爆を行うという一連のことがあった翌日は、最も紛争が起きやすい、イスラム礼拝日の金曜日であった。

治安部隊は、特に緊張が高まるエルサレムのハラム・アッシャリフ(神殿の丘)において、高い警戒体制をとっていた。しかし、意外にも静かに終わったことから、イスラエルもパレスチナ組織も、今はエスカレートを望んでいないのではとの報道が出ていた。

アルカム・カイリ(ソーシャルメデイア)

事件が発生したのは、その直後である。

ユダヤ人たちが日没後、安息日に入るころ、シナゴーグに行き、祈り終わって出てくるころの午後8時13分、東エルサレム在住のパレスチナ人、アルカム・カイリ(21)が、エルサレム北部、ネエベ・ヤコブ地区にあるアテレット・アブラハム・シナゴーグに車で到着した。

カイリは、車から降りて、通行人の高齢女性を拳銃で射殺。続いてバイクで近づいてきた男性を射殺。それからシナゴーグに近づいて、出てくる人に無差別に発砲し、5人が銃弾に倒れた。死亡した7人(20歳、25歳、30歳、50歳、60-70代2人)のうち5人は即死で、2人は病院に搬送されたあと死亡した。

負傷した3人は、15歳(中等傷から重傷)、24歳、60歳(中等傷)となっている。

www.timesofisrael.com/five-wounded-in-suspected-shooting-attack-in-jerusalem-assailant-shot/

カイリはその後、すぐ近くのパレスチナ人地区ベイト・ハニナに車で逃げ込んだが、かけつけた警察に取り囲まれたため、車から出て警察に向かって発砲してきた。このため、カイリは警察にその場で射殺された。警察は、犯行から犯人射殺まで5分と主張しているが、通報から警察が現場に到着するまでに30分かかっていたとして、これについても問題になっている。

ハマスと、イスラム聖戦は、このテロを賞賛したが、どのグループも犯行声明は出していない。カイリは、どのパレスチナ人グループにも所属しておらず、前科もなかった。単独の犯行とみられている。ハマスの報道官は、これが、市民レベルの抵抗運動であるということの証だと語っている。

パレスチナ人は花火をあげての祝賀

この事件が発生した27日夜、ガザと、西岸地区では、ジェニン、ラマラ、ナブルス、ヘブロン、東エルサレムでも祝賀となっていた。以下は、花火をあげて祝うナブルスの様子。

ケーキを配り合う様子もあった。

エルサレムポストによると、イランの革命軍系のニュースは、このテロを“殉教”と報じていたとのこと。イランメディアだけでなく、ヒズボラ系、またイラン傀儡のイエメンのフーシ派もこのテロを祝う報道をしていた。

www.jpost.com/international/article-729868

国際ホロコースト記念日当日のテロで逆転:国際社会がイスラエルではなくテロを全会一致で非難

パレスチナ人は、イスラエルに反撃できたとして祝っているのだが、ジェニンで死亡したパレスチナ人は、1人を除いて全員、イスラエル兵に向かって、攻撃する中で死亡していた。しかし、このテロの被害者は、全員、武装していない、なんの敵対行為もしていない、一般のユダヤ市民であった。

それが、なんというタイミングか、国際ホロコースト記念日と合致していたということである。UN、EU、UAE(アラブ首長国連邦)までが、パレスチナ人のテロを非難する声明を出した。

www.timesofisrael.com/palestinians-celebrate-jerusalem-synagogue-massacre-with-fireworks-sweets/

アメリカのバイデン大統領は、事件後、ネタニヤフ首相と電話で話し、犠牲になったイスラエル人が一般市民であったことを認め、「これは明らかに文明社会への攻撃だ。」として、イスラエル政府への必要な支援を行っていくと表明したとのこと。

www.jpost.com/international/article-729875

New York, January 12, 2023. (AP Photo/John Minchillo)

国連安全保障理事会は、ジェニンでイスラエル軍によって9人のパレスチナ人が死亡した件で、28日、非公開で緊急会議を開催することになっていた。

イスラエルへの非難で一致するとみられていたが、一転、イスラエルの無防備な市民7人が殺されたとして、全会一致(ロシア、中国含む)で、このテロを非難する声明を出すこととなった。

www.timesofisrael.com/jerusalem-attack-unanimously-condemned-at-un-security-council-session-on-conflict/

*国連安保理・1月議長は日本

日本は2023年から2年間非常任理事国として安保理の15カ国の一カ国を務める。さらにこの1月は、日本が議長国(1か月ごと交代)。1月中だけで、パレスチナ問題での招集が2回あったことになるが、一回め(日本の林芳正外相が議長)は日本もイスラエルへの非難に賛同していた。

これからどうなる?:過激ユダヤ人グループ“値札”の動きも懸念

(Photo: AFP)

事件発生後、現場には警察を管轄するベングビール氏、続いてネタニヤフ首相が現場を視察した。ギャラント防衛相は、訪米中だったが、中断して、現在帰国の途にある。

強硬右派の政府としてどのような対応をするのか、注目される。しかし、来週、アメリカのブリンケン国務長官が、予定通り、イスラエルに来て、その後、パレスチナ自治政府、エジプトを訪問する。イスラエルの方から大きな動きは控えるかもしれない。

しかし、今懸念されることは、パレスチナ人への激しい暴力で知られる、過激ユダヤ人ユースグループ“値札”の動きである。治安部隊は、パレスチナ人だけでなく、これらの過激なユダヤ人の動きにも警戒している。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。