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イスラエルでは、西岸地区、国内でもテロ事件が相次ぎ、すでに30人が死亡している。このため、西岸地区でのテロリスト摘発をしなければならず、その際の戦闘で、パレスチナ人死者が150人近くになり、パレスチナ側からはさらに反発が出ている。情勢はエスカレートする一方である。
そうした中、国連総会は、来年、イスラエルが独立75周年を迎えるにあたり、その日をナクバ(大惨事)として記念するパレスチナ人とともに、国際社会としても記念することを決めた。イスラエルにとっては大きな落胆と怒りとなっている。
エルサレム・バス停爆弾テロ:犠牲者2人に
23日にエルサレムのバス停で爆弾テロが2件発生し、アリエ・シューパックさん(16)が死亡。8人が重軽傷と伝えられていたが、26日、重症でICUにいたタダサ・タシュメ・ベン・マアダさん(50)が死亡し、犠牲者は2人となった。
ベン・マアダさんは、21年前にエチオピアから移住。妻と6人の子供がいる父親だった。今年に入ってからのパレスチナ人によるテロでのイスラエル人死亡者は29人となった。
www.timesofisrael.com/second-person-dies-of-injuries-days-after-jerusalem-bombing-attack/
エスカレートするパレスチナ情勢
イスラエルは、上記爆弾テロ発生以後、西岸地区に乗り込んで、犯人グループの捜索を行なっている。結果的に西岸地区各地で戦闘が激しくなり、死亡するパレスチナ人が増えるというエスカレートの状況となっている。
エルサレムでの事件では、遠隔操作で爆弾を爆破させていることから、ハイレベルな組織的犯行であると推測されている。そうした中、ジェニンでの戦闘で、イスラム聖戦指導者が死亡するなど、再びパレスチナ組織との大規模な戦闘に発展するのではないかとの警戒も出始めている。
1) 西岸地区各地での戦闘1日でパレスチナ人5人死亡
エルサレムでのテロ事件から5日目にあたる29日、西岸地区に捜査に入っているイスラエル軍部隊に投石して、銃撃戦となるケースが相次ぎ、最終的に、この日1日で死亡したパレスチナ人は、合計5人となった。45歳1人と、あとは20代の若者たちである。BBCや海外メディアはこぞって、これをイスラエル非難の形で報じた。
شهداء كنتم وسقطتم .. للارض وللمعول pic.twitter.com/dLxk2ZSuHP
— فاروق الأدغم أبو ثائر (@usZTPsR9Q9EMEKS) November 29, 2022
www.timesofisrael.com/palestinians-say-man-killed-by-idf-fire-in-west-bank-5th-fatality-in-a-day/
2) ジェニンでイスラム聖戦含む指導者2人死亡
西岸地区で最も反抗的で、ライオンズデンなど、若者たちの新しい動きもある都市が、ナブルスとジェニンである。そのジェニンで、12月3日、イスラエル軍との銃撃戦となり、パレスチナ人2人が死亡した。
そのうちの一人は、ファロウク・サラマ(写真右)で、イスラム聖戦の司令官であった。サラマは、ナブルスのライオンズデンとも関係があ流人物。
イスラエル軍によると、サラマは、この5月に、ジェニンで、イスラエル軍のナオム・ラズ軍曹(47)殺害の件に関与していたとのこと。
死亡したもうひとりは、モハンマド・カロウフ(14)。戦闘員だったか巻き込まれたかは不明。写真は押収したサラマの武器。
サラマと写っているワディ・アル・ホウ(写真左)は、ライオンズデンの指導者の一人で、先月イスラエル軍のナブルスへの踏み込み捜査・戦闘中に死亡している。この時ライオンズデンでは指導者5人が死亡して、その武器庫も破壊された。
その後、10人が、パレスチナ自治政府に投降していたが、一部はまだ投降しないままとなっている。ライオンズデンは、組織を超えたムーブメントの一面もあり、逃げたままの数人については、今も懸念となっている。
なお、こうしたイスラエルとパレスチナ人との戦闘で、死亡したパレスチナ人は、今年だけで150人、逮捕者は2500人とも言われている。
3) ガザの国連による学校地下に人工トンネル発見
12月1日、ガザで難民の子どもたちに学校を運営しているUNRWA(国連パレスチナ難民救済機関)が、学校の地下に人工のトンネルを発見したと発表。深刻な違法行為であり、子どもたちの安全が脅かされていると怒りを表明した。
ガザでは、ハマスが、多数の地下トンネルをはりめぐらせて、メンバーの移動やイスラエル領内に侵入するために使っていた。しかし、近年、イスラエルば、これを事前に発見し、破壊できるようになった他、国境では地下にまで防護壁を設置して、多少の深さのトンネルでは、侵入できないようになっている。
トンネルの話題はあまり聞かれなくなっていた。今回派遣されたトンネルが、どういう目的で、武器庫などに繋がっているのか等のくわしい内容については、UNRWAからは出されていないとのこと。なお、UNRWAの学校下からトンネルが発見されるのは、今回が初めてではない。昨年6月にも報告されていた。
www.timesofisrael.com/unrwa-condemns-subterranean-opening-found-beneath-gaza-school/
www.jpost.com/arab-israeli-conflict/unrwa-finds-attack-tunnel-under-one-of-its-gaza-schools-670262
国連でナクバ(パレスチナ人が国を失った日)記念を承認
11月30日、国連総会は、イスラエル独立記念日と同時にパレスチナ人が行う、ナクバ(国を失って泣く日)を国際社会として記念するかどうかの採択を行い、賛成90、反対30、棄権47で、採択された。これにより、来年2023年5月に、国際社会として、これを公式に記念することが決まった。
来年は、イスラエルが独立75周年を覚える記念すべき年である。それに合わせて、ナクバ(アラビア語で大惨事)を覚えるということは、要するに、イスラエルの存在そのものを世界が、残念に思うということを意味する。
実際に、そのことに30カ国が賛同し、47カ国は明確な否定を示さなかったということは、それだけ多くの国々が、たとえイスラエルと国交を持っていたとしても、イスラエルを認めていないということを意味する。
イスラエルの国連代表ギラッド・エルダン氏は、「みなさんの独立記念日を、“大惨事”と言われたらどんな気がしますか。パレスチナ人たちは、皆さんの助けで、自ら“大惨事”を招いているのです。」と反論。
Today the #UNGA passsed a shameful resolution calling for an official event to commemorate the Palestinian “Nakba” on the 75th Anniversary of the creation of the State of Israel. By passing such an extreme and baseless resolution, the UN is only helping to perpetuate the conflict pic.twitter.com/RH3cHVWdT1
— Ambassador Gilad Erdan גלעד ארדן (@giladerdan1) November 30, 2022
また、戦後、ユダヤ人数十万人が、アラブ諸国から追放されたこと、その後アラブ5カ国がイスラエルを滅ぼそうとしたことなど、ユダヤ人への“ナクバ”は完全に無視されていると説明した。
エルダン氏は、「イスラエルの建国75周年を機に国連が公式にナクバを祝うこととなった。根拠なく、気あったこの採択は恥ずべきことだ。このような結果は、問題解決ではなく、問題を長引かせるだけだ。」とツイートした。
またこの他にも国連総会では12月にも、パレスチナ自治政府が、イスラエルを国際法廷に訴えることを採択する予定になっている。もしこれが実施された場合、イスラエルが一方的に犯罪の前提として捜査がすすめられることになり、平等な裁判になるとは言い難い状況になりうる。
この採択に先立つ28日、ラピード首相は、50カ国に手紙を出して、これに加担しないよう、要請を出していたところであった。
www.timesofisrael.com/lapid-to-world-leaders-stop-palestinian-push-to-refer-conflict-to-the-hague/
石のひとりごと
イスラエルとの戦闘で死亡したパレスチナ人は、今年だけで150人とも言われている。その前にパレスチナ人のテロで死亡したイスラエル人も30人いるのだが、数字的にも軍事的にもイスラエルの方が優位なので、外から見た景色としては、やはり、イスラエルには不利といえるだろう。
しかし、エルダン氏が言っているように、パレスチナ人がイスラエルに攻撃をしかけなければ、イスラエルからも数日前にに乗り込む必要はないわけである。
確かに後から来たのはユダヤ人側であるので、イスラエルとしてもなんとか、パレスチナ人との共存をめざしてはいたが、パレスチナ側は、何を提案しても拒否して暴力に出てくる。要は、イスラエルに出て行ってもらうことしか頭にないとイスラエルが考えても、しかたがないかもしれない。
本当にこれこそ、結論がでない、どうどうめぐりである。
また、民主主義をベースにした国連はもはや、機能不全に陥っているといわれているが、この点においても、その様子がかいまみえなくもない。多くの国は、もしかしたら、イスラエルの言い分も理解しているが、今回の議題にも立場上、賛成票を投じるといった国もあるかもしれない。
また国連決議には一貫性もない。ホロコーストを国際社会をあげて記念し、イスラエルとアラブ諸国のアブラハム合意には賛同したりする。イスラエルの存在を認めているということである。
意図しない中でも、仕組み上、イスラエルがどんどん国際社会から非難の的になっていくようなこともあるかもしれない。
また世界は、イスラエルのイノベーションに頼っているのに、政治的には非難するという、矛盾もある。世界はどうにもわけのわからない様相になりつつあるような感じだ。