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ウクライナをめぐって、欧米とロシアの対立が、深刻化しながら長期化する様相になっている。イスラエルとの関連はどうなっているのか。その前に、ウクライナ最新情勢を整理してみよう。
ウクライナ情勢緊迫:ロシアと欧米のチキンレース
ウクライナをめぐっては、話し合いが進まない中、ロシアも欧米も双方共に、軍備の拡大を続けている。チキンレースとも称されるように、どちらも戦争を望まない中、どんどん前に進んでいき、どちらかが先にハンドルを切るのを待っている状態のようになっている。
*チキンレース;2台の車が正面から向かって行き、正面衝突を避けるため、先にハンドルを切った方が負けという勇気を試すレースのこと。
1)ロシア軍13万(2月2日)の動き
ロシア軍は、BBCによると、戦車と砲兵隊、ミサイル機能などあらゆる武器を備えた軍約10万の陸軍特殊部隊をウクライナ国境、クリミア半島などに配備している。NYTによると、最近、クリミア半島に1万のロシア軍が増強されたとのこと。
また、ロシア軍は、ウクライナの首都キエフの真北150キロに位置するウクライナとベラルーシ国境にも駐留していたが、3日、約3万のロシア軍が、ベラルーシ国内へ移動しているのが確認された。ロシアは、2月にベラルーシとの訓練を行うと説明している。ベラルーシのルカシェンコ大統領はロシアよりである。
この他、1万人規模で、ロシア海軍艦艇140隻、戦闘機60機を伴う大規模な訓練を行うとして、これらが地中海から黒海に入っている。
侵攻するつもりはないと言っているロシアだが、実際には、もう刀を振り上げている状態であり、しかも2014年にロシアがクリミア半島を占領するという過去もあるので、欧米NATO側が、これを看過することはできないということである。
www.bbc.com/news/world-europe-60238869
この状況下で、ロシアは、アメリカに、中距離ミサイルや核兵器を自国の外に配備しないこと、NATOには、欧州での軍事配備はNATO東方拡大前の1997年の状態に戻すよう、要求している。欧米諸国が、これを飲むことは不可能なので、緊張は高まったままである。
2)ウクライナを支援する欧米の動き
ウクライナ軍の力量は、ロシア軍の半分にもみたないが、まだウクライナはNATO加盟国ではないので、NATO軍自体は、ウクライナには進出していないし、するつもりはないと表明している。
しかし、ロシア軍が、もう刀を振り上げている危機的状態なので、欧米各国がそれぞれ、ウクライナに対する支援や、外交努力を行なっている。
アメリカのバイデン大統領は、8500の軍を準備するよう指示し、実際、3000人をドイツとポーランドに派遣すると発表した。また、もしロシアがウクライナへの攻撃を実施した場合、いまだかつてないような非常に厳しい経済制裁を行うと言っている。
イギリスは、対戦車ミサイルなどの武器をウクライナに供与。デンマーク、カナダ、チェコとバルト3国も、対戦車ミサイルなどをウクライナへ供与した。
こうした中、ドイツは、軍の投入はしないと表明。ヘルメットの搬送と、野戦病院の準備を支援すると表明した。フランスは、マクロン大統領が、ロシアとも対話するなど積極的な外交努力を展開しているが、今の所大きな進展はない。
双方戦争しても被害しかないという事実
ロシアは大規模に軍を展開しているが、実際にウクライナ全土を制覇するためには、今のレベルではとうてい足りるものではない。戦争をしてもその甚大な被害とともに経済制裁の痛みも半端ないものになる。したがって、ロシアの思惑は正確には予測不能と言われている。
一方、ヨーロッパ諸国は、ロシアから天然ガスを購入しなければならないので、最終的にはロシアと決裂するわけにはいかないという、事情もある。要するに双方とも戦争はしたくない、いや、できないわけなので、にらみあったままという状態なのである。
このため、フランスが積極的な外交努力を進めている他、NATOとロシア双方と深い関係にあるトルコのエルドアン大統領が、仲介に乗り出した。しかし、大きな成果は上がっていない。ここでもアメリカの弱体化とともに、民主国家の不一致とその限界を呈している様相である。
今、ロシアがここまで強気なのは、アフガニスタンからアメリカが撤退し、影響力が低下していること、またEUを結束してきたメルケル前首相も退任していることなどが、理由として考えられている。
では、このまま戦争にならないかといえば、なる可能性は十分にある。アメリカは、ロシアが、ウクライナで戦闘の情報をでっちあげて、攻撃の理由にするよう計画していると発表した。アメリカ本土は、ウクライナから相当遠いこともあり、アメリカが火をつけてしまう可能性もないとはいえないだろう。
この微妙な状況で、交渉頓挫、長期化という様相は、アメリカとイランの核交渉と似ているかもしれない。
ウクライナはイスラエルの支援に期待
このように、欧米がウクライナを支援しているのではあるが、ばらばらで、実際の助けはどれぐらいあるのかはわからない。ロシアが振り上げた刀の直撃を受けるウクライナとしては、まだまだ不安が残るということになる。
上のBBCの地図をみれば、すでに、ウクライナが、大きな熊の口の中にすっぽり入っているようにもみえる。
ウクライナのドミトロ・クレバ外相は先週、キエフ(ウクライナ政府)は、イスラエルによる外交、また防衛における支援を歓迎するとの意向を表明した。
クレバ外相は、記者会見において、詳細には触れなかったが、ウクライナは、イスラエルの対空防衛システムなど防空における技術に期待する語り、すでにイスラエルと水面下での対話が進んでいると述べた。
イスラエルのテレビニュース、Kanによると、ウクライナは、イスラエルのアイアンドーム対ミサイル防衛システムや、その他のミサイル警告システム、またサイバー防衛システムを導入するため、すでにイスラエルと対話を始めているもようである。
また、クレパ外相は、外交においても、ウクライナとロシア、双方に太いパイプのあるイスラエルが、仲介の役割を果たすことを歓迎するとも述べた。
www.timesofisrael.com/ukrainian-fm-weve-asked-israel-for-help-with-cyber-air-defenses/
なお、ウクライナのゼレンスキー大統領はユダヤ人である。
イスラエルの複雑な立場と対応
ウクライナからの要請について、イスラエルからのはっきりした返答は出されていないようだが、イスラエルのラピード外相は、2日、ウクライナとロシアがすぐに戦闘状態に入るとか、世界戦争になるとは考えていないと表明した。
ラピード外相のこの反応に対し、在イスラエルウクライナ大使館のコルニチャック大使は、自身のフェイスブックに、「ラピード外相のコメントにショックを受けた。ラピード氏は、自身の友好国であるアメリカ、イギリスとEUが、数週間以内にロシアとフルスケールの戦争になる可能性があると言っているのに、逆にロシアのプロパガンダを口にしている。
これは紛争ではなく、戦争だ。ロシアが、ウクライナの冷淡で攻撃的な戦争をしかけようとしているのだ。ラピード外相は、ヨーロッパの中心で、この8年間続いていた(ウクライナとロシアの)戦争に気がついていなかったらしい。恥を知れ。」と強い表現で、ラピード外相を非難した。
この強い非難を受けて、イスラエルの外務省は、コルニチャック大使を召喚したと伝えられている。
ラピード外相は、この問題に関するイスラエルの難しい立場を語っている。イスラエルは、同胞ユダヤ人を、ウクライナに約14-15万人、ロシアにも約16万人抱えている。*人数はだれをユダヤ人と定義するかで変わる
またイスラエルは、シリアに進出して来るイランの勢力を武力で叩いているが、これについては、今シリアで実質的権威を持つロシアから、暗黙の了解を得ているという関係にある。
今、表立って、ウクライナや欧米側に立ちすぎれば、ロシアの反感を買う。それは、今後シリアにおけるイランやヒズボラに対する防衛にまで影響が及んでくることを意味する。
実際、イスラエル政府は、この微妙な時期の先週1月28日、在イスラエルのロシア大使、ビクトロス氏と会談していた。しかし、この時の会談について、ビクトロス大使は、特にウクライナ問題のための会談ではなく、様々な事について話し合ったと語っている。
www.timesofisrael.com/russian-envoy-our-talks-with-israelis-dont-focus-on-ukraine-tensions/
一方、今、ロシアと対立しているアメリカは、イスラエルの最大の同盟国である。ブリンケン国務長官は。2日、ラピード外相に電話で、ウクライナ問題について、ロシアと、緊張の沈静化についての話をしてほしいと伝えていたとのことだが、内容の詳細は不明。
イスラエルが、ウクライナの防空体制への支援をすることも歓迎の意を表明したとの報道もあるが、アメリカとイスラエルがこの問題について、どういう話をしているのかは、メディア上の情報は、それほど多くはない。
ラピード外相からは、この件で協力するなら、アメリカはイランとの核交渉において、イスラエルの要請にも耳を傾けてもらわないと・・といった声も出ている。
石のひとりごと
イスラエル国内メディアには、不思議なほどに、ウクライナ問題が、あまり出てきていない。しかし、おそらく、水面下で様々な情報収集と、駆け引きが行われていると思われる。ウクライナ情勢が、イスラエルに及ぼしうる影響は、決して小さくないからである。
しかし、確かに、ロシアも振り上げた刀を振り下ろすことは、自国に膨大な被害をもたらすことになるし、ヨーロッパも、戦争になればその被害は膨大である。
結局のところ、ラピード外相が言うように、実際に戦争になることは、今すぐではないのかもしれない。ラピード外相のコメントは、常に実質を直視するイスラエルらしい発言のようにも聞こえる。
ではいったいここからどこへ向かっていくのか。世界戦争になるのか、ならないのか。イスラエルはどこまで関与するべきなのか。
まさに先が見えないという新時代の要素がここにもある。ウクライナが守られ、大きな戦争にならないように祈ると共に、イスラエルが、ただ主に聞いて、最善の動きをとるように。それにより、また世界が主を知ることにもなるように祈る。