イランの2つの顔:イスラエルを呪う・イスラエルに近づく 2023.5.3

Iranian Foreign Minister Hossein Amir-Abdollahian, center, waves as he stands with Hezbollah members and Lebanese lawmakers with the Israeli side of the border in the background, during his visit to the village of Maroun el-Rass on the Lebanon-Israel border, south Lebanon, April 28, 2023. (AP Photo/Mohammed Zaatari)

今のイラン政権は、強硬イスラム政権であるが、国内では、これに反発する民衆との確執が続いている。政権と市民の間の違い、イランが秘めている2つの顔を象徴するかのような動きがあったので紹介する。

イランのアブドラヒアン外相がイスラエルとレバノン国境訪問

4月28日、イランのホセイン・アミール・アブドラヒアン外相が、レバノンを訪問。ヒズボラのナスララ党首と会談後、ヒズボラメンバーとともに、レバノンからイスラエル北部を見わたす国境を訪問。

「イランは、たとえどんな困難な時でも、地域のシオニスト(イスラエル)への抵抗運動を支持する。地域の協力一致で、シオニストを滅ぼす。シオニストたちは、武力しか理解しないのだ。」と語った。

イランはサウジアラビアなど湾岸諸国との国交を回復している中で、4月初頭、ヒズボラと、ガザも巻き込んで、南北からイスラエルを一度機に攻撃した経過がある。

その後にこうした動きなので、イラン、ヒズボラがパレスチナ情勢を言い訳としてうまく使いながら、中東全体で、対イスラエルで協力していると匂わせての挑戦をつきつけた形である。

www.timesofisrael.com/overlooking-israel-from-lebanon-border-irans-fm-says-zionist-collapse-is-near/

こうした動きについて、国家安全保障顧問のヤアコブ・アミドロール氏は、イスラエルは、イランとの最終対決に備えるべきだとの危機的な予測を語っていた。その際、アメリカの支援は期待できないとも付け加えている。

その理由として、先月、アメリカは、今中東だけでなく、中国、北朝鮮という大問題も抱えており、中東に力を裂けないと見られる点である。
その根拠の一つとして、アメリカは、先月、中東に原子力潜水艦を派遣したが、その位置を公に表明したということが挙げられてる。これは異例なことで、敵との衝突をさけようという意図が見えるということである。

イスラエルとイランがいつ大規模な衝突になるのか、ならないのか。それは神のみが知っているというところである。

www.timesofisrael.com/israel-must-prepare-for-war-with-iran-without-us-help-former-nsa-chief-says/

イラン前パーレビ王朝王子がイスラエル訪問:ホロコースト記念式典に出席

こうした緊張の最中、驚くようなことが起こった。イランから亡命している前パーレビ王朝のモハンマド・レザー・シャー国王の長男のロシュ・レザー・パーレビ皇太子がイスラエルを訪問したのである。

パーレビ王朝は、現イスラム政権が立ち上がることになったイスラム革命前の1925年から1979年まで、イランを治めた続政権で、イスラム教国ながら、近代国家を目指して欧米化を進めた世俗的な国であった。このため、アメリカとの関係も深かった、いわば今とまったく逆ということである。

1979年のイスラム革命の時に、亡命中だったホメイニ師が帰国すると、逆にモハンマド・レザー・シャー国王が、イランから亡命し、今に至っている。その長男であるクロシュ・レザー・パーレビ皇太子は、国外で、イランの民主化のために運動を続けている。

ロシュ・レザー・パーレビ皇太子は、4月18日のイスラエルでのホロコースト記念日前にイスラエルを訪問。嘆きの壁を訪問し、ヤド・ヴァシェムでの式典に出席。ミュージアム内部も最初から最後まできちんと見学して行った。写真はその時、偶然にヤド・ヴァシェムで皇太子と一緒になったときのもの。

皇太子は、「キュロス王の子供から、イスラエルの子供たちへ、私たちは友情の中で、未来を作り上げるのです。」と語った。

*ペルシャのキュロス王

イランはかつてのペルシャである。そのペルシャ王国(アケメネス朝)の第7代キュロス王(紀元前559-550年)は、当時バビロン捕囚として、ペルシャの地に連れてこられていたイスラエルの民が、彼らの故郷であったイスラエルの地に帰ることを可能にした王のことである。

一連のことは聖書のエズラ記1章、イザヤ書45章などに記録されている。イザヤ書45:1には、キュロス王は“油そそがれた者”と記されれており、今は宿敵の位置にあるイランが、かつては、イスラエルの救い主的な役割を果たしていたことがわかる。

石のひとりごと

パーレビ国王の皇太子が、イスラエルに友好を表明するなど、なんと突飛なことであっただろうか。その立場上、どれほどの力があるのかは、わからないものの、イランもまた多様な国であり、今のイスラム政権の顔だけで判断してはならないということである。

確かにイラン人は、優秀で、世界各地、特にアメリカに多数在住している。この人々は、まさに欧米化民主化の中にいるイラン人なのである。イラン国内にも、厳しい迫害の中で、同様の運動を続けている人々は少なくない。時々ニュースにも出ているが、今の所は、強力に抑え込まれているという状況である。

今、イランという国は、イスラエルの敵として、イスラエルに揺すぶりをかける役割を果たしているといえるかもしれない。ある意味、悪役で用いられているということである。

それにしても、外相と共に、レバノン国境で立っているヒズボラの男性たちも皆、いい笑顔である。普通のおじさんであるのに、なぜイスラエルをそこまで憎むのか。彼らの人生に何か悪いことでもしたかとも思わされる。やはり霊的な背景があることと思う。

今後、主はこの国をどう導かれるだろうか。ただ憎むだけでなく、この中にいる人々のためにも祈りつつ、この国で起こることにも目をとめていきたい。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。