イランに第8代ライシ大統領就任 2021.8.9

ライシ大統領就任に注目する世界

5日、イランで、ロウハニ前大統領にかわって、保守派シーア派イスラム教指導者で、超強硬派と目されるエブラヒム・ライシ大統領(61)がイランの8代目大統領に就任した。

イランは核開発問題(JCPOA)とウランの兵器レベルの濃縮で、国際社会と対峙している。加えて、先週、オマーン湾沖で、イスラエル船主のタンカーがイランのドローンに攻撃され、死亡したのがイギリス人とルーマニア人であったことから、国際社会でのイランの立場は厳しさを増している。

こうした中での強硬派大統領の登場なので、イスラエルだけでなく、近隣スンニ派イスラム諸国を含む国際社会も、ライシ大統領がどういう政策に出てくるのか、固唾を飲んで見守っている。

しかし、実際にはイランの国内情勢はかなり厳しい状態にある。経済制裁による経済の破綻。また続く旱魃で、市民の反政府デモも各地で発生している。コロナ感染も拡大がおさまらない。

就任演説において、ライシ大統領は、外国の圧力には屈しないとしながらも、貧困に苦しむ国民の救済や、外交を視野に入れた発言をしていた。

アモス・ヤディン氏
INSSより

INSS(イスラエル国家治安研究所)のアモス・ヤディン氏は、ライシ大統領が、強硬派ではあるが、それが故に、強硬派としての権威で、だれにも反対させない恐怖を周囲に与えていることに注目し、逆に、ライシ大統領次第では、イランを現実的な歩みに導いていく可能性もあると指摘する。

これまでの政権と同様、いわゆる強硬派として、国際社会に対立姿勢を続け、イスラエルにも攻撃的な姿勢を示すのか、イラン国内の現実的な問題に取り組むなかで、国際社会との対話を始めるのか、ライシ大統領次第ということである。

しかし、ILTVニュースの中で、INSSの中東専門家アサフ・ニサン氏は、ライシ大統領の背景や、国際社会との交渉に高飛車である様子、中国との関係強化で経済的な支援もあること。

また、就任直後にヒズボラとハマスがイスラエルを攻撃(イランの指示なしにはありえない)していることから、決して国民重視の現実的な指導者であるとは考えられないとの悲観的な見方を語っている。

ライシ大統領がどの路線を行くのかは、まず、国際社会との接点になる外相はじめ、閣僚がどんな内閣になるかで、判断できると言われている。内閣の正式な発足は、19日が期限だが、イスラム最高指導者ハメネイ師次第では、前倒しになる可能性もあるとのこと。

*ライシ大統領とは?:革命時代からのイスラム教サラブレッド

エブラヒム・ライシ氏は、シーア派イスラム法学者で、1985年に25歳で、テヘランの次席検事となった。

政治に関わるようになったのは、1988年で、まだ革命指導者ホメイニ師がいたころである。その後継者のハメネイ師とは、就任以来の教え子で、29歳からは、その指導の元、司法関係の指導者を歴任。2019年に、イランの司法長官となった。

ライシ氏が着用している黒いターバンは、預言者モハンマドの子孫であることを主張するもので、シーア派における権威を意味する。イスラム法権威で、イランの司法長官でもあるライシ氏の登場は、イランにおいて、シーア派イスラムのイデオロギーが全面に出された形と言ってもよいだろう。

イスラム導師として、慈善活動を管轄するほか、汚職を摘発するなど、いわば“本物”のイスラムとして知られ、ライシ氏に敬意を表するする市民もいる。今のイスラム最高指導者ハメネイ師(82)は、後継者にライシ大統領にと考えているともみられている。

しかし、汚点もある。1988年、8年にわたるイラン・イラク戦争後、イラクと通じていたとされる左派ムジャヒディン・ハルクのメンバー、5000人とも推計されるイラン人が、わずか2ヶ月の間に処刑された。

この時の裁判官4人のうちの一人でライシ大統領であった。ライシ大統領は、国際社会からは、“テヘランのブッチャー”と言われている。

トランプ前米大統領は、この大量処刑が、重篤な人権侵害にあたるとして、2019年、ライシ大統領個人を制裁対象の名簿にあげていた。

mtolive.net/イランに反米・保守強硬派ライシ大統領:イスラ/

イランのコロナ感染拡大:1日に死者500人超える

大統領に就任したライシ大統領だが、イランの国内情勢はかなり逼迫している。まずはコロナ情勢。感染者は毎日4万人近くで、死者も毎日400人を超える。7日には、1日の死者がこれまでの最大の542人を記録した。これは、インドネシアについで多い死者数である。(Worldmeter)

経済制裁で、国内の経済が逼迫している上に、旱魃が続き、南西部地域で始まった反政府デモが各地でも発生し、軍が市民に発砲する様子も伝えられている。

しかし、今の政権の権力はかなり盤石であることから、これらのデモが政権を覆すことはまだ現時点ではありえないだろうと、INSSのアモス・ヤディン氏は言っていた。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。