アメリカが今月8日、イランとの核合意からの離脱とイラン、ならびにイランに対する厳しい経済制裁を再開すると正式に発表して以来、イスラエルが、シリア領内のイラン軍関連施設を何度か空爆して大きな打撃を与えた。
最後は18日。シリア中央地域で大きな爆破が確認された。この爆破で、アサド政権軍関係者11人が死亡した。イスラエルによるものかどうかは不明だが、スカイニュースによると、ロシアの迎撃ミサイルS300と同様のイラン製迎撃ミサイルが爆破されたと伝えている。
www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-5264326,00.html
こうした攻撃で、イラン軍関係者の死者は50人近くになるとみられる。(正確な数字は不明)
このため、イラン、もしくはその傀儡のヒズボラのイスラエルへの反撃が予想され、イスラエルは警戒を続けている。もしこの地域から戦争になれば世界大戦にまで発展することも懸念されたが、今の所、イラン、ヒズボラからの反撃はなく、平穏は維持されている。
その理由と今後の見通しについて、軍事評論家ロン・ベン・イシャイ氏の記事を参考にまとめた。
<イラン窮地!?>
イシャイ氏の分析によると、トランプ大統領が、イランとの核合意から離脱し、経済制裁の再開を宣言し、イスラエルによるとみられるシリア領内イラン軍事施設への攻撃で、イランがこれまでになく窮地に陥りつつあるようである。
1)イランに経済危機再来の恐れ
アメリカがイランへの経済制裁を再開すると発表した翌日、イラン通貨リアルが急落し、記録的な安値となった。イラン国民の中には、経済危機再来を懸念して、銀行の預貯金を引き出しに走った人もいたという。
さらにトランプ大統領が、イランとの取引を継続するビジネスや国にまで、段階を追って、経済制裁の幅を広げると言っているため、各社がイランから手を引き始めている。
これについては、日本企業にも影響を受け始めており、ガソリンの値が上がってきているところである。
headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180516-00029541-mbcnewsv-l46
こうした状況が長く続けば、2013年の核合意以前のような経済の停滞を招き、今のイラン政権を揺るがす可能性も出てくる。アメリカとイスラエルは、イラン人自身が、今のイスラム政権を覆すことを奨励しているところである。
2)イスラエルによるイラン軍関係施設破壊
イスラエルは、10日、ゴラン高原にイランからミサイルが20発打ち込まれた(イスラエルに被害はなし)として、大規模にシリア領内のイラン軍関係施設50箇所を空爆、破壊した。
これに先立つ9日、ネタニヤフ首相は、モスクワでの軍事パレードに西側指導者として唯一出席し、プーチン大統領に会っている。このため、プーチン大統領は、イスラエルが、イラン製対航空機迎撃ミサイル(ロシアのS300に類似)を含む軍事施設を大規模に破壊することに合意を得ていたとみられている。
さらにこの時、プーチン大統領は、ネタニヤフ首相に、最新式迎撃ミサイルS300の販売を保留にする約束までしたと報じられている。。
つまり、シリア領内で、イランの軍事力が、ロシア以上に強大になってくることを、ロシアが歓迎しているわけではないということである。これは、イランにとっては大きな打撃であったはずである。
3)ヒズボラの新体制で、イスラエル攻撃抑制か
レバノンでは、7日、9年目となる総選挙が行われた。結果、ヒズボラの議席は変わらなかったが、現アオウン大統領の党で、親ヒズボラ派(シーア派勢力)が21から29と大きく議席を伸ばした。(129議席中)
一方で、元ハリリ首相(スンニ派勢力)が33から21と大きく議席を失った。これが意味するところは、もはや、ヒズボラとレバノン国家が一体化したということである。これはイスラエルには好都合である。
これまでの体制であれば、もしヒズボラが攻撃してきた場合、イスラエルは、レバノンを相手にしないよう、注意して攻撃しなければならなかった。しかし、これからは、ヒズボラとレバノンを区別しなくてもよいということである。
ヒズボラが、イスラエルに向けたミサイルを15万発保持していることをイスラエルは知っているので、イスラエルは、もし一発でも撃ちこんでくれば、イスラエル軍は、絨毯のように南レバノンへ攻め入って一気にヒズボラを叩くと警告している。
この脅迫もあり、ヒズボラからの攻撃も今の所、抑止が効いているようである。
ただし、イランが、本来の目的をあきらめたとは考え難いので、油断は禁物だと、Yネットの著名な軍事評論家ロン・ベン・イシャイ氏は記事をしめくくっている。