イランとの新たな核合意は中東に不穏を招く:ベネット首相 2022.2.22

ウイーンでのJCPOA交渉大詰め

ウクライナ問題と並行して、イスラエルが今直面しているのが、イラン問題である。イランと諸国は今ウイーンで、イランの核開発問題で、交渉を行なっており、最終段階にあるとみられる。

イランと世界諸国が交わしたJCPOA核兵器開発に関する合意は、2018年にアメリカが離脱して以来、頓挫していた。以来、イランは、合意から逸脱し、ウランの濃縮を60%にまで上げ、核兵器に一段と近づいた様相である。

このため、イランと世界諸国(ドイツ、フランス、イギリス、中国、ロシア、EU、アメリカは離脱しているので間接的)は、昨年、2015年に締結したJCPOA核合意再建にむけた交渉を開始した。しかし、結果を出せないまま、昨年5月にいったん閉会とされた。

その後11月に再び交渉が再開されたが、結果はだせないまま今に至っている。いつまで交渉を続けるのか。。大国は、今月初頭、アメリカも認める形で、民間レベルの核使用に関する開発は受け入れるとして、イランに一部制裁解除を申し出た。しかし、イランは、これは不十分として、拒否した。イランは、アメリカが再び、JCPOAから離脱しないとの保証を求めたのであった。

しかし、フランスやドイツは、合意が崩壊する危険にあると警告。17日、大国側は、20ページにわたる合意案をイランに提出した。それによると、イランは段階的に、2015年の合意にまで段階的に戻すとしている。

まずイランが、5%以上のウランの濃縮を停止する。その見返りとして、アメリカの制裁の範疇で差し止められている韓国銀行にある資産70億ドル(8000億円)を解放する。最終的には、オリジナルの合意の3.67%にまで下げる約束である。しかし、これまでに、すでに濃縮して貯蔵している高濃度のウランについては、規制されていない。

トリッキーなのは、アメリカがこれに合意をしてはいるのだが、完全な制裁解除ではなく、原油セクターに限られるとか、イランがウランが5%以上のウラン濃縮を停止してから、いつ制裁解除が始まるのかなどがまだ明確でない点である。イランがこれを受け入れない可能性はまだ残る。

しかし、イランは、その新年である3月20日までに署名するのではとの見方や、もしかしたらこの数日の間に署名に至るのではないかとの予想も出ている。

www.timesofisrael.com/report-under-draft-nuke-deal-iran-to-first-cut-enrichment-to-5-get-7b-in-assets/

甘い合意のツケを払うのは中東:ベネット首相がJCPOA案を一蹴

イスラエルの治安専門家アモス・ヤディン氏などは、厳しい制裁を課してもイランが屈することはなかったことから、イランとの核合意は、できるだけ安全を確保する条件で再構築した方が安全、別の言い方では、ないよりマシといった考え方であった。ネタニヤフ前首相の時代と違い、イランとJCPOAのいかなる合意にも、すべて反対するというわけではないということである。

しかし、今回出ている案について、ベネット首相は、2015年の合意より弱いと痛烈に批判。今、制裁が解除されることで、イランは、2年半後には、サッカー場がいっぱいになるほどの、進んだ遠心分離機を稼働させ、高度な濃縮ウランを製造することになる。そのツケを払うのは中東に住む我々だと語った。

ベネット首相が指摘する不備は、①過去に製造した高度な遠心分離機は温存されているので、イランが軍用レベルにまでウランを濃縮する可能性が残る。②イランには、IAEAに開示していない隠された軍事開発がまだ残されたままである。③経済制裁の解除に伴いイランに流れ込む現金が、ドローンなど核兵器以外の兵器に費やされる。

また、ベネット首相が明らかにしたところによると、イランは、JCPOA継続の条件の一つに、イラン革命防衛隊のテロ指定を解除することを挙げているという。イラン革命防衛隊は、非常に危険な軍で、イエメンはじめ、中東各地で戦闘活動を展開している軍である。

ベネット首相は、今、イランの通貨リアルの価値は、史上最低レベルにまで下がっているが、制裁の緩和がはじまると、リアルの価値が上がって、イランの経済が回復する。イランに軍事開発やテロ組織支援の資金を与える結果になるとの予想する。

ただ、そうした動きが一時的ではないかとも語る。前と違って、投資家らがイランへの投資に慎重になる可能性があるからである。ベネット首相は、イスラエルは祖国防衛のためには、あらゆる情勢に対応していくと、その決意を表明した。

www.timesofisrael.com/bennett-iran-deal-will-mean-a-more-violent-middle-east/

アメリカは、ベネット首相の主張を拒否し、「これまでと同じ過ち(トランプ大統領のようにイランとの合意の機会を放棄すること)を繰り返してはならない」と返答している。

www.timesofisrael.com/us-rejects-bennetts-criticism-of-iran-nuke-talks-cannot-make-the-same-mistake/

しかし、今日入ったニュースによると、イランは、ポーランドが寄贈した82万回分のアストラゼネカ・ワクチンを拒絶して返却した。理由はアメリカ産であったからである。イランは、第6波に苦しんでおり、これまでにコロナで死亡した人は13万5000人にのぼる。

それでもなお、アメリカへの憎しみを優先するのである。そういう国とアメリカはまともに話し合いができるのだろうか。。

www.timesofisrael.com/iran-spurns-over-800000-donated-covid-shots-because-they-are-made-in-us/

イランが新型弾道ミサイルを披露:イスラエル攻撃を示唆する命名

ウイーンでの交渉が行われている最中の2月9日、イランは、国内で製造した新しいミサイルを発表している。射程は1450キロで、中東のアメリカ軍拠点と、イスラエルも標的に入る。(イスラエルからイランは、最短地点で1000キロ)

しかもそのミサイルの名前が、「ハイバル・シェカン」で、628年に、モハンマドが、ハイバル(アラビア半島)にいたユダヤ人を制覇したときの名前をつけていた。以下はイランが発表したミサイルの映像。1発ではなく、かなり多数と協調している。(3分以上もある)

イランは、ヨーロッパに届く2000キロを超えない範囲でのミサイル開発を行うとして、関係の維持を図っている形だが、イスラエルには届いてしまうミサイルを、国内でも制限なく開発することが可能だということである。

こんな様子を見せているイランの経済制裁を、段階的とはいえ、今、解除することをイスラエルが黙認することはできないだろう。

以下に述べるが、イスラエルは、イランに対抗するため、同じ敵を敵とする湾岸諸国との連携を強化するとともに、シリア領内に進出してくるイラン軍(おそらく革命防衛隊)を早期に軍事攻撃する作戦を強化している。ウイーンで何が決まろうが、イスラエルは、祖国防衛のためには、やるべきことはやりつづけるというのが、ベネット首相の世界へのメッセージだということである。

石のひとりごと:どうとりなす?

ベネット首相のJCPOAへの激しい批判を批判するイスラエルメディアもある。トランプ前大統領がJCPOAから離脱して厳しい経済制裁を再開させ、ネタニヤフ前首相は、100%これに賛同して、イランとの譲歩をいっさい受け付けない方針をとった。しかし、その結果、イランは、逆に高濃度のウランの濃縮を開始し、核兵器にかなり近づくことになったからである。JCPOAはできる限り、好条件で復活させた方がよいという意見が、イスラエル国内にもある。

しかし、状況は刻々を変わっている。今は特にロシアがウクライナへ侵攻する可能性が高まっている。そのロシアとイランは繋がっている。中国が台湾へ侵攻する可能性があると懸念されているのと同じように、イランが、動き始める可能性もある。前と同じ基準で判断することはできないだろう。

イスラエルを守るため、ベネット首相と政府が本当にやっておくべきことと、やらなくてもよいことをしっかり見据えて決断していくよう、祈りたい。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。