イラクに進出を続けるISIS。イラク政府軍との激しい戦いはまだ続いているが、6月30日、カリフ制をとる「イスラム国家」の設立を宣言するに至った。
カリフとは、イスラム教の預言者ムハンマドの代理という立場を持つ人物。つまり、イスラム国家とは、カリフを頂点に、世俗がいっさい入らないイスラム教ととその法律シャリアを基盤にした国のことである。
現世界において、カリフ制のイスラム国家は存在しない。トルコやマレーシアはイスラム主義国ではあるが、政府はカリフが治めるのではなく、世俗的な一面も持つので、イスラム国家とは言わない。
今回、ISISが宣言しているのは、彼らの指導者アブバクル・バグダティをカリフとするイスラム国家である。
ISISは、1日、イスラム国家の樹立を宣言するとともに、国づくりに必要な、政治家、軍事顧問、医師やエンジニアなどはシリアとイラクに集まるよう、世界のイスラム教徒に号令をかけた。
この手順は、かつて600年代に中東を支配したイスラム国家の設立と類似する点があり、イスラム国家の復興を思わせる動きである。
<異常な早さで発展したイスラム教とかつてのイスラム国家>
イスラムの預言者ムハンマドが、イスラムの啓示を受けたとされるのが610年ごろ。それから、アラビ半島一帯にイスラム教が拡大し、ムハンマドの死後に、最初のカリフ・アリー・バクルによって、イスラム国家が立ち上がるのが、630年である。
つまり、ムハンマドが啓示を受けてから、アラビア半島と中東広範囲にイスラム教が広がり、イスラム国家になるまで、わずか20年である。歴史家は、これを「革命的」と呼び、尋常でない早さだったと指摘する。
さらに当時、イスラム国家が、設立されたころ、アラビア半島のアラブ人たちには、中央政府のような前例はいっさいなかった。いろいろな部族がばらばらに住んでいただけで、大きな帝国をたて上げるだけの知識も土台も全くなかったのである。
そこでカリフは、国づくりに必要な人材をよび集め、まさに0から、今に至るイスラム世界を定着させていったのである。
<人材を集めるISIS>
これと同様、ISISがシリアの混乱に乗じて設立されたのは、昨年の2013年4月である。それがまたたくまに、シリア・イラクをまたぐ領域に影響力をふるうようになった。
ISISは、イスラム国家宣言をした翌日の1日、国づくりに向けて、学者、政治家、エンジニア、医師、軍事指導者など国家建設に必要な人材は、シリアとイラクに集まるようにと、世界のイスラム教徒に向けて呼びかけた。
実際には、シリアでもイラクでもまだ戦闘と殺戮が続き、本当に国になるかどうかは不透明である。しかし、ISISは、モスルの銀行を押さえ、世界一の石油精製ステーションも押さえた。資金はある。イスラム国家の再興の可能性は否定できない。
こうしたイスラム社会で、クリスチャンたちが非情な環境に置かれる事はいうまでもないことでる。今後本当に中東にイスラム国家が復興するのか、それが霊的に何を意味するのか、注目しながらとりなしが必要である。