イスラエル南北国境情勢 2016.3.6

イスラエルでは、南からも北からも戦争への緊迫が続いている。強大なイスラエルの軍事力を前に、今はまだ手は出せないようだが、その情勢についてまとめる。

<南:ハマスが次の戦争に備え、トンネル建設に全力か>

南部では、ハマスが次回の戦争に向けて、準備を整えているとの懸念が伝えられている。イスラエルに続くトンネルを1000人規模で動員して掘り続けているようである。以前にもお伝えしたが、ガザ地区周辺のキブツでは、地下でトンネルを掘る音や、家が揺れることもあるという。

こうしたニュースが飛び交う中、ハマスのトンネルが不思議に崩壊したというニュースが続いている。先週もまた崩壊し、ハマス戦闘員1人が死亡した。最近になってからトンネルの崩壊事件は6回から7回発生しており、事故で死亡したハマスは戦闘員は少なくとも11人にのぼるとみられる。

トンネルの崩壊事故が続いていることについて、ハマスは、表向きは、冬の嵐で地盤が緩んでいると説明しているが、地元メディアの中には、イスラエル兵が、液体爆弾を使って小さな地震を誘発しているのを目撃したと報じるものもある。

いずれにしてもここまでトンネル崩壊が続けば、背後にイスラエルがいると思っても不思議はないだろう。エルサレムポストは、今ではハマスたちが、トンネルの中に入るのを恐れるようになっていると伝える。

www.israelnationalnews.com/News/News.aspx/208854#.Vtvsf6UWnA8 

これに先立つ先月初め、イスラエル閣僚のユバル・ステイニッツ氏が、エジプトがハマスのトンネルを洪水によって破壊しているのは、イスラエルが要請したからだと発言し、話題となった。イスラエルとエジプトの治安協力関係はこれまでになく良好だという。

ステイニッツ氏は、「イスラエルは、ハマスとの戦争はしたくない。ガザ地区の再占領も避けたい。もちろん、戦争が不可避な場合の備えはできている。トンネルについては、深刻な問題になるので、シリアスな対処がすすめられている。」と言っていた。

www.israelnationalnews.com/News/News.aspx/207616#.Vtvyq6UWnA8

<北:アラブ湾岸諸国にテロ組織指定を受けたヒズボラ>

先週水曜、サウジアラビアなど湾岸諸国は、正式にヒズボラをテロ組織に指定したと発表した。ヒズボラが、サウジアラビアなどと敵対するイランとともに、シリアのみならず、イエメンでも軍事敵対行動を行っているからである。

これに伴い、サウジアラビアは、レバノンに対する援助40億ドルを差し止めると発表した。

www.nytimes.com/aponline/2016/03/02/world/middleeast/ap-ml-gulf-hezbollah.html?_r=0

ヒズボラは地元レバノンの組織ではない。レバノンに寄生しているだけである。しかし、今や本国よりも強大になってしまい、ヒズボラがシリア内戦に関わるようになってからは、レバノン国内でシリアの反政府勢力が対ヒズボラ攻撃をするなどして、多大な迷惑をかけている。

今回のサウジアラビアの支援差し止めは、レバノンにとってはとんだ迷惑だろう。レバノン国内では反ヒズボラ感情が高まっているところである。

こうした情勢の中だからこそかもしれないが、ヒズボラは、ますますイスラエルに対して豪語するようになっている。ヒズボラは、今や誘導ミサイルを駆使できるようになっており、お伝えしたようにハイファの化学工場を狙うと脅迫したばかり。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4774325,00.html

さらに、Yネットが、5日、ヒズボラの情報筋からとして伝えたところによると、ヒズボラはイスラエルへの攻撃能力を一段アップして次の戦争に備えていると豪語している。このように、豪語を続けるのは、イスラエルを引き合いに出す事で、ヒズボラは、社会の非難を紛らわすことができるのである。

しかし、実際に、ヒズボラは、シリアで1000人近い戦闘員を失っているにも関わらず、イスラエル攻撃能力だけは無傷で温存している。やがてはイスラエルを攻撃するつもりなのだろう。

ただ現時点では、ヒズボラが武器を集めても、いったんイスラエルを攻撃すれば、イスラエル軍の強大な反撃を受けて、ヒズボラの方が壊滅することは明白である。そのため、今の所はまだヒズボラが本当にイスラエルを攻撃する事はないとみられる。ならばなぜ武器をためこむのか。

イスラエルを攻撃するのは、本当にヒズボラに最後の時がきて、いわば、最後の栄光を得ようとして自殺を覚悟でイスラエル攻撃を実行しようとしているのではないかと思う。(これは専門家ではなく単なる筆者の懸念)しかし、その時には、イランやロシアも介入して来て、本当に終わりの時に突入、ということになるのかもしれない。

6日のニュースによると、クウェート紙が、ロシアが、予定していたイランへの最新型戦闘機迎撃ミサイルS300の搬入を、差し止めたと伝えた。理由は、イランが、ロシアとの約束に反して、ロシア製ミサイルを、ヒズボラに譲り渡したからとしている。

クェート紙によると、プーチン大統領は、イスラエルからの情報に基づき、この決断をしたという。

www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4774679,00.html

南部と同様、イスラエルもヒズボラとの対決は避けたい。南部でも北部でもイスラエルは、戦争を避けるため、水面下でできるだけの諜報、防衛活動を行っているようである。

石堂ゆみ

ジャーナリスト、元イスラエル政府公認記者、イスラエル政府公認ガイド、日本人初のヤド・ヴァシェム公式日本語ガイドとして活動しています。イスラエルと関わって30年。イスラエルのニュースを追いかけて20年。学校・企業・教会などで講演活動もしています。

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